第67話 それは守る力
落ちこぼれっちゃあ。落ちこぼれだ。元々素行も悪く子悪党の様な
カスマンの話しを聞いてただ一人特になんの感情も湧いていなかった。
「――カスマン。言葉が過ぎるぞ。それに「D」ランクは落ちこぼれなどでは――」
「ウェルデン王。もういいです」
「…すまない。息子に続き、家臣がとんだ御無礼を――」
「それも不要です」
「……」
剣の籠った言葉にルトリア王は言葉を紡ぐことを諦め、肩を落とす。横目で家臣であり原因を作ったカスマンを睨む。
「ウェルデン王。一つ聞いても?」
「何なりと申してくだされ」
「つい最近、昇級試験があったことはご存知ですね?」
「うむ。今回は騒動に見舞われたもの、少ない犠牲で済んだと聞く。付き添いの監督官達のお陰――もしや!」
「その通りです。それも全て――ボールス様の活躍、手柄であり、ボールス様がいなければ多大な犠牲を出していたことでしょう」
「なんと…」
話しを聞いたルトリア王は目眩を覚えるのを感じた。聖女であるコルデーが嘘をつくはずがない。即ち、それは全て真実。それも、自分が聞いていた話の中に「ボールス」という名は存在せず――
「横から失礼します。なら、ボールス様に力の誇示を示してもらうのは如何でしょう?…本物のボールス・エルバンス様なら可能でしょう。ね、ボールス様?」
「フラリア?」
ルトリア王とコルデーの話し合いに王妃であるフラリアが入り込む。妻であり王妃でもあるフラリア王妃に対してルトリア王は怪訝な声をあげてしまう。
「……」
突然、自分を名指しで知らない一国の王妃(美人)から告げられた本人は現在困惑中。
「ボールス様?」
そして何よりも全く笑っていない目でこちらを見てくるコルデーの姿が怖い。それはシノやレイヤ達も同様で。
女性陣が何か怖い。それにこれ、俺が折れて王妃様の言う通り力を見せなくてはいけないパターンだよな。俺もこの場から逃げたいからと言って悪ノリした罰だから甘んじて受けるけど…力の誇示って具体的になんだ?
「ふ、ふん。どうせハッタリだ。そいつが王妃様の言う通り我々を"あっ"と驚かせる力を誇示したら謝罪でも大臣の解任でも、なんでもしますとも!」
上から目線。あたかも自分がまだ上の立場であるかの様に偉そうに喚く。
「もういい。カスマンお前は少し頭を――」
「承知致しました」
ルトリア王の言葉を遮る。本来ならその行為は不敬に当たる。ただ今回ばかりは皆がボールス・エルバンスという男に注目をする。
これでどちらが正しいか決まる。
「すー、はー」
期待されているんだ。信じてもらっているんだ。この力が――義姉さんの「力」を馬鹿にされることは、あってはならない。
大丈夫。あの力は全て引き出すことは叶わない。けど――この場の人を"あっ"と驚かせる「俺」の力ならここにある。
「…今、自分が出せる本気でいきます。被害は出さないように調整しますが――」
「【結界】の準備、完了しています。ですので、周りのことなど気にせずに存分にそのお力をお見せください!!」
「…任せろ」
手厚いサポートを得た。その状況を作ってくれた人に微笑と感謝を。
ならば後は自分の力を信じるのみ。これは戦いではない。己の力を証明する刻。
目を瞑り右腕を前方に出し、右腕を支えるように左腕で固定。ありったけの魔力を注ぐ。
持ってけ魔力。耐え凌げ肉体。
「――顕現せよ、ネメアの獅子よ。その逸話、その一振りをもって敵を屠れ、――」
片目を開けて詠唱。その一言、一白を置き――右手の掌を中心に眩い漆黒の輝きが生まれる。輝きは漆黒の魔力となりボールスの体全体を包み込み徐々に形を形成し――
『!』
予報を遥かに上回る想像以上の魔力の質と量に周りは言葉を無くす。
「この魔力は『支配の悪魔』よりも…」
「また一段と素敵になりました」
「さすがボルス君。魅せてくれる」
「俺も、負けてられないな」
オーラスの言葉を皮切りにコルデー達はそれぞれ今のボールスの本気を見て驚き、心酔し、一段と好意を寄せ、恋焦がれ、憧れる。
「――【万物創造・
魔力の塊は形を形成し、解き放つ。二メートルほどの大きさの漆黒の棍棒が出現。それはこれでもかと存在感を醸し出す。
『……』
「あ、あぁ」
ルトリア王達もそうだが、自分が馬鹿にし「落ちこぼれ」と蔑んだ人物の真価を見て――カスマンは後退し、譫言を垂れる。
「――これが、俺の「力」です。でも、勘違いしないでください。これは何かを壊す力ではない。命を奪う力ではない――この手が届く範囲の大切な人を守る力です」
微笑を浮かべそう語るボールスの言葉に呼応し、右手で支える「破壊の化身」は黒い魔力の粒子となりキラキラと消えていく。
『……』
幻想的な光景を見てその場にいる人々は魅了され、魅入っていた。
◇◇◇
ボールスの「力」が証明され、カスマンが企てていた悪事が明るみに出た。
カスマンは既に衛士兵の手で牢獄に幽界された。連行されるカスマンは抵抗することもなく燃え尽きたように干からびていた。
「――本当に、すまなかった。家臣の行いは王の行い。何なりと罰を受けよう」
「い、いえいえいえ! 滅相もありません。私は、本当に気にしてませんから!」
ルトリア王は自らボールスの近くに近寄り頭を下げる。その行為に本人は青ざめて首をふるふると横に振る。
『……』
「うふふ」
その姿を見てコルデー達女性陣はニコニコと笑顔。いや、笑顔というと語弊を呼ぶ。目が笑っていない黒い笑顔。その理由はボールスの真横に何故か寄り添うように立つフラリア王妃の存在が大きい。
「あなた、わかっていますね?」
「当然だ。私にできることは本当になんでもする所存だ」
「と、主人も言っていますのでボールス君は甘えて大丈夫ですよ?」
「……」
あの貴族と話していた方がまだマシだった。にしてもなんで王妃様は俺に…。
『(ジトー)』
さ、寒気が。視線が…。
「わ、分かりました。では、金品とかどうでしょうか? 少し卑しい話ですが、懐事情が心許なく…あはは」
これは本当のことだ。依頼を受けられるようになったと言っても低ランクでは報酬は少なく、いくらダンジョンに潜れるようになったとしてもまだ借金がありその返済でほとんど手持ちに残らない。
「ふむ。あいわかっ――」
「ではでは! 加えてボールス君の冒険者ランクの昇級も如何ですか?」
「……」
「お願い」にルトリア王が了承する流れをフラリア王妃がぶち壊す。
「え、いや。私は昇級試験も受けてない身ですし、昇級はちょっと――」
「えぇえぇ! それはいいです! フラリア王妃様も分かっていますね。ボールス様には今の冒険者ランクは相応しくありません!」
「……」
フラリア王妃の様にコルデーも割り込みボールスの発言を消し去る。
「聖女様も彼の真価を分かっておりますね。私個人の意見では、本来なら「A」〜「S」ランク。いえ、それ以上の力を秘めていると睨んでいます。ですが、「D」ランクから「A」「S」の飛び級は前代未聞ですので…」
「高くランクを上げてしまうと逆に悪目立ちして他者から反感を買う恐れがあります。それは
『なら!』
そこで二人はボールスとルトリア王を置いて手を取り合う。
『間をとって「B」ランクに上がればよいのです!!』
『……』
そんな二人の様子を見た男二人は同じムジナと悟ったのか暑い握手を交わす。そこには「王族」とか「平民」とか関係なかった。
「むぅ、出遅れた」
一人、シノは不服そうに呟く。
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