第66話 国王と謁見
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王国に居た聖女たちが現代に蘇った悪魔。『支配の悪魔』ダンタリオンと戦い全員の力を合わせ撃退に成功。『ウェルスダンジョン』に現れた「リオン・フィリップ」と名乗る男を退けたあとの話。
悪魔の危機から脱した王国に平和が齎され。それぞれの戦いに身を置いていた人々は戦いの疲れと心身の傷を癒すために割り当てられた部屋で一週間ほど英気を養った。
悪魔の危機から王都を救ったコルデー、ユート、シノ達は意識を取り戻した王国の王、ルトリア王直々にお礼を貰う運びに。
「王の間」にて。
王国の王、ルトリア・ウェルデン2世は金髪の長髪をした壮年とは思えない若々しい外見。王らしく、派手になりすぎない程度の衣装に身を包む。
拝謁したコルデー達を見るその表情は柔らかく、腰を上げるその物腰を軽く内に秘めるカリスマ性を伺わせる王が告げる。
「――此度の一件誠に大義であった。そなたらの働きは称賛に値する。皆の勇姿、民の皆に伝えられないのが些か残念だが。私が、ルトリア・ウェルデンが讃えよう――王都を守っていただき本当に、感謝する」
王、ルトリア・ウェルデン2世は他の家臣達が見守る中その頭を下げる。
『……』
「王の間」に招待された今回の騒動の功績者達は頭を垂れ、ただ話を聞く。
「……」
王の横には王妃も寄り添っていた。王と同様に頭を下げるその姿は華やかでとても絵になる。珍しくとても綺麗な赤髪をハーフアップにした髪、コルデー達と遜色ない美貌。純白の装飾を付けないそのドレス姿は清廉潔白の王妃の心を表すようだ。
王妃は感謝の挨拶から頭を上げ、ニコニコと微笑みある人物に顔を向ける。その先には頭を下げるコルデー――が抱きついている"男性"を見つめていた。
王とコルデーが中心となり話し合い。
今回の出来事を全て話した末、聖女コルデーと王ルトリアの計らいで今回の騒動の大元……『支配の悪魔』ダンタリオンやその他の「悪魔」についての内容は伏せる形に。ただ、全ての人に伏せることはできず、情報を共有できる人物達には大々的に公開される。
全ての人々に話せられない理由は一つ。
「悪魔」という過去に廃れた御伽話の中の存在が今も存在し、それを皮切りに騒動が起こりえることを危惧して。
王国並びこの世界の危機にも関わるものが大きかった事もあり、今回の功績者を称えるために王自ら密かに召集をかけ「王の間」にて勲章授与がおこなわれた。
「皆の者、頭を上げてよい」
『……』
その言葉にコルデー達は頭を上げる。
「皆の勇姿に感謝を込め私自ら勲章を授けよう。ささやかなものだが受け取って頂きたい。では、聖女様から――」
王の声にコルデーが立ち上がる。それにつられる形で――なぜか腕をずっと掴まれっぱなしのボールスも同じく立つ。
…て、待って。誰かツッコミ入れてよ。王様に関しては「誰こいつ?」みたいな顔をして無視するし。家臣達に関しても「聖女様に聞く勇気がない」とでも言うように無言。唯一、王妃様だけが俺の存在を認めてくれる…と言うか凝視されているけど。
「そもそもなんで自分はこんな場違いな場所にいるのか」と死んだ魚のような目に。こちらの内心など知る由もないコルデーに腕を引っ張られる形で王の目前に到着。
「――聖女。コルデー・ブロッサム様。此度は――」
ねえ? なんか普通に勲章式始まったんだけど。誰も説明してくんないし。「悪魔」ってなんだよ。『アーク教』ってなんやねん…。
コルデーの
その話全てが未知の領域で「王国が「悪魔」に乗っ取られた」という話しから始まり、「『支配の悪魔』ダンタリオンとコルデー達は戦い撃退に成功」「「悪魔」について民衆に話しをするか」と議論が起こり…「「悪魔」を使役する『アーク教』は野放しにできない」と結論。
聞いていた話通りだと「悪魔」も『アーク教』も実在するもの。まぁ、リオンって野郎が『アーク教』のなんちゃら関門とか知った時のポーネさんと他監督官達の態度は誤魔化せないよな。それに、俺が最後に見た記憶にある…奴の隣に現れた紫髪のロン毛男。
あの時の記憶はなんでか大分薄れているけどロン毛男の雰囲気、それに奴は何かを行使する時に――【ダンタリオン】と確実に告げた。ということは、だ。俺が戦った相手は…そのコルデー達が戦っていた『支配の悪魔』ダンタリオンなわけで、隣にいたリオンは…俺の推測に過ぎないが。
上手く思考回路が定まらず、勲章授与がやらな緩やかに進む間ずっと悶々と考えていた。
「…?」
何か解りそうで解らないもどかしさ。意識を戻すと周りはやけに静かでどうやら勲章授与が終わっていたようだ。ただ、己に視線が集まっているような感覚を覚え。
「さ、ボールス様の番ですよ」
「ボルス君。君の勇姿を見せておくれ」
「へ? 何が――」
意味不明な展開についていけないことを告げようとした。それも虚しくコルデーとシノに両腕をガッシリと支えられ王の元へ連行。
あぁ、宇宙人の気持ち…理解したわ。
「……」
「……」
王とボールスはそこで初めて対面し、邂逅する。お互い目を見てその表情は真剣だ。真剣だが、どちらとして何も発さない。
マジで気まずい。何これ、俺は一体何を試されているんだ。何かの試験かこれ?
「そなたは」
「!」
「そなたは、誰だ?」
いやまぁ、そうなるよなぁ。
王様との邂逅一発目の言葉はそんなコントのようなやりとりだった。
「…えっと」
どう答えりゃいいんだよ。偉い人なんてあっちで社長としか話したことないぞ。それも一、二回程度だし。そもそも「一国の王」といえば日本では「総理大臣」とか?いや「天皇陛下」とかの立場…か?…どっちにしろど平民の俺なんかが…胃、胃がぁ…。
「そこの者。その態度はなんだ。王を目前にし聖女様の手を煩わせ、不敬であるぞ!」
胃が限界を越えようとしていた時、ボールスの態度を見て一人の貴族が席を立つ。その貴族はまるで
叱責されたことで萎縮してしまう。ただそれは本人にとって決して嫌なものではない…むしろありがたい。
「あ、あはは。ご、ごめんなさい。ば、場違いでした〜」
恥も外見も捨て、自分を叱責した貴族の言葉に従うように「己は空気」と思いそろり、そろりと後方に後退する。
いいぞ貴族の人。もっと俺を糾弾するんだ。そして俺をこの空間から解放してくれ!
「あぃてっ!」
そこでわざとこける。
どうよ? 国の、王の御前で不敬極まりないこの態度は! ほら、見てあの貴族なんて顔が真っ青だよ…ん? 真っ青、なんで?
自分の予想では「顔を真っ赤」になりその態度に怒った大臣により城から追い出されると思っていた。その期待は外れ顔を真っ青にして体をプルプル振るえている。
その肥えた体がみっともなくブルンブルンと忙しなく揺れる姿は見ている分には面白い。貴族を震わせる先にいる人物達――コルデー、シノ、オーラスや他聖堂騎士、ユート達の殺気立つ姿を見なければの話しだが。
「…おかしいですねぇ〜ウェルデン王。
そこには黒い笑みを隠すことなく王と対話を求める
「う、うむ。私のところには聖女様含めるオーラス殿と聖堂騎士の皆。「S」ランクのシノ殿。「A」ランクのユート殿、エレノア殿。ルル殿の勲章授与の話しか聞いていないが…カスマン、これはどういうことだ?」
コルデーの発言に少し狼狽えるもの、ルトリア王は家臣であり、ボールスに叱責した
「え、あの、それは…」
確実に何か知っているのか、この場の全員が見て誰もがわかるように狼狽、脂汗をダラダラと垂らして目を泳がせる。ここまでくると逆に役者に向いているのかもしれない。
「カスマン、答えよ。私の言葉に背くと?」
「い、いえ! そのようなことは滅相もございません!!」
「ならば話せ。ただし真なことを、だ」
「……」
王のその言葉に唇をこれでもかと噛み…憎しみを込めた目でボールスを睨む。
「――発言許してね。
「なぁっ!?」
横から割り込みで入ってきたシノは告げ口をし。その言葉にカスマンは奇声を発する。
「カスマン。シノ殿の話は誠か?」
再度、王から詰問を受けもう無理だと悟り観念したのか滔々と語り出す。
「…そうでございます。私は奴が許せなかった。"聖女様に近づく"という愚行を働くどころか…あまつさえ聖女様の御身に抱きつかれて喜ぶその浅ましさ。死に値します」
「それはそなたが決めることではない。聖女様本人がお決めになることだ」
「だとしても!…王よ、聞いてくだされ」
みっともなく唾を飛ばし、癇癪を起こしていたカスマンは冷静に戻りその醜く悪どい顔を晒し、ルトリア王に語りかける。
「…聞こう」
「奴は、ボールス・エルバンスという男は――「D」ランク。落ちこぼれです!」
『!!』
「落ちこぼれ」と口にした途端、聞いていた王、王妃。家臣達が驚く。他の面々、コルデー達は各々武器に手を掛ける。あのオーラスですら騎士剣に手を掛けるほどだ。
カスマンが口にした発言はコルデー達にとって
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