第65話 脇役でも輝けると証明したら
「――ッ」
(俺の【光速】が使えない。あの動きとあの強さ、彼に何があった?)
自分の目の前に立つ男を見て頰が引き攣るのを感じた。貫いたはずの胸の傷が完全に修復された赤茶髪から銀髪に変色した頭髪。【魔眼】の様に紅く爛々と輝く左目、その身から溢れ出る尋常じゃない量の異常な黒の魔力。変わり果てた姿。
(それもなんだ、この魔力量。俺の――)
「――【
身動きをとれないリオンに向け、ボールスはその右手に小さな黒い渦を生み出す。その黒い渦は小さいものの存在感をこれでもかと体現した何か。その何かは周りの空間を歪め、吸い込みながらゆっくりとリオンに近づく。
「は、ははは。なんだソレ?」
その黒渦を見てリオンは笑う。脂汗を垂らして笑う。その顔は恐怖に濡れて。
「消えろ」
なんの感情も灯さない瞳を携えてそう、淡々と告げた。
「――っ。ダンタリオン、来い!!」
自分の元に飛来する黒い渦を脅威と捉え。後先考えず、無我夢中に自分が助かる一つの未来を選ぶ。
◇◇◇
【
「――ふっ。はっ!」
「ははは。いいぞ人間。私と生身でここまで張り合ったのはお前が初めてだ! もっと、もっとだ。私を楽しませろ!!」
ダンタリオンとオーラスの二人はサシで戦闘を繰り広げていた。
ダンタリオンは傷を負うたびに自動に傷を癒す。オーラスは攻撃を受けてもかすり傷程度にしか思っていないのか、表情一つ変えずに騎士剣を振るう。
その直感とオーラスの身体能力の大元である【純精霊の加護】による加護を全開に引き出し相手と対等に。また触れさせることなく次の一手を予測して戦う。
「【
シノが【空間魔法】で二つの空間を繋げる。
「【豪螺拳】!」
「【
エレノアとルルの二人がシノが発動させた空間に向けて魔力を込めた技を放つ。
「ははは――ぐっ!」
オーラスと戦闘をしていたところに水を刺す形で二人の攻撃が邪魔をする。
シノが繋げた一つはダンタリオンの背中。ルルが放つ【豪羅拳】が直撃。
「っぅ。邪魔を、するなぁ…ぐぁっ!」
次いて繋げた場所はダンタリオンの頭部。エレノアが発動させた【
邪魔をするシノ達の元に近寄ろうとするダンタリオンだが…。
「お前の相手は私だ」
「どいつも、こいつも…」
オーラスによって阻害され。
「【飛影】」
控えていたユートが地面に手を付く。するとエレノアが発動させた【
「ぐっぅ」
「至聖剣流裏の太刀、【白月・白蓮】」
騎士剣が眩く光り輝き、光の剣となってダンタリオンの身を焼き突き刺す。
「カッァ!?」
無防備でその攻撃を受けたダンタリオンはたまらず吐血を吐きながら後方に吹き飛ぶ。
「は、はぁ。小蝿のように邪魔くさい。誰か一人でも…っ!?」
立ち上がったダンタリオンは次誰を標的にしようかと思想していたその時、感じてしまった。自分とは異なる大きな魔力の存在を。
「――何を驚いている?」
オーラスは油断せずに問う。
その時には既にリオンから危険信号を貰っていた。
「…はぁ。残念だがこの戦いはお預けだ」
「何を言っている。逃げる気か?」
「私が逃げる? 馬鹿を言うな。私にも優先順位がある」
「優先順位、だと?」
「好きに考えろ。ではな」
ダンタリオンはそれだけ残すと霧のようにその姿を消し、足早にその場を後にする。
「――状況は分からないけど助かった〜」
緊張がほぐれたことでどっとため息を吐き、その場で女の子座りで倒れるように座り込む。
「彼、焦っていた」
「ん。もしかしたら強敵が現れた、とか?」
「どうだろう。でも、まだ警戒は解かない方がいいかもしれない」
ユート達三人はそんな会話をする。
「『支配の悪魔』ダンタリオン程の悪魔が、脂汗をかいていた」
『――ッ?!』
オーラスのその一言に他の面々は驚きを隠せなかった。自分達に劣勢を強いられても余裕とした顔をしていた。なのにそのダンタリオンが脂汗をかく事態。
考えることは山ほどある。ただ、これにて『聖女』『黒曜の剣』『闇ギルド』vs『支配の悪魔』ダンタリオンの戦いは幕を閉じた。
◇◇◇
「――っ。ダンタリオン、来い!!」
「主人、来たぞ。何が――把握した」
オーラス達の元から離れたダンタリオンは目の前に迫る黒い渦を見て理解した。
「アレはやばい」と。
「我が命ずる、その道を途絶え、従え、【
ダンタリオンは直ぐ目前まで近づいていた黒い渦に向けて両手を向けた。すると時が止まった様に黒い渦の進行が止まる。
「ぬ、ぐぅ…」
しかし当のダンタリオンは目前の黒い渦を止めるもの、脂汗を流す。
「くぉぉぉ、消えろぉぉぉぉ!!!!」
それでも自分は最上位悪魔だと絶対者である意地でありったけの魔力を注ぎ、注ぎ――黒い渦を消すことに成功した。
「はぁ、はぁ」
「助かった」
「それは、いい。さっきのアレはなんだ?」
「分からない。遠くにいる男が発生させたのは確かだ。それよりもこれを解いてくれ」
「これは…念の為触れ無い方がいいな」
そう呟くと自分の権能を使って先の黒い渦を消し去ったようにリオンを縫い付けていた黒い杭を消し去る。
ダンタリオンのお陰で黒杭からようやく解放されたリオンは一度伸びを入れる。
「奴の魔力はやけに…これは」
「何か分かるのか?」
「…気のせいだ。そんなわけがない」
二人で話していると先程まで何か一人で行っていたボールスが動きを見せる。
「――【黒墨帯】」
3回ほど腕を振るう。
シュッという音を立てて黒い帯状の何かが飛来する。
「【
ダンタリオンはそれを逆に跳ね返す。
シュッ
ボールスの体に到達する前にそれは呆気なく消えてなくなる。
「どうなっている?」
「私にも理解はできん。ただ言えることは一つ。奴は自分の力を確認している。見ていれば分かる。魔力を大小に放出させて力を確かめ、適当に技を行使する」
「…勝てそうか」
「…今の私では少し荷が重い。先の戦いでの消耗は勿論だが…奴の力は未知数すぎる。迂闊に戦っても、勝ち目は薄いだろう」
ダンタリオンほどの悪魔が苦い顔を作る。
「分かった。ここは先行せずに退避しよう」
「それが得策だろう。今度会う時までに力をつけ、攻略の糸口でも探せば――」
「逃すと思ったか?」
『!?』
気づい時には近くから声が聞こえる。そしてその時には二人はボールスの手の内に吸い込まれる様に移動していて――
『かはっ!?』
二人同時に頭部から地面に叩き付けられる。
「【重力場】」
『あガァッッ!!』
その一言で二人は上から更にのしかかるかの様な圧力に潰され、地面に縫い付けられる様に平伏す。それはユートが扱う【影魔法】とは全くの別格で強力なもの。
(本当に、何が起きてる。彼は動いていなかった…いや。俺達が動かされた?)
その事実を知ったとしてもどう対策をとっていいかなど分かるはずもない。
(一瞬、見えた。奴は動いていない。それどころか私達が奴の手に吸い込まれる様に動かされた。奴の能力は――【引力】か?)
ダンタリオンは少しの戦いでボールスの一部の力を理解した。
「――顕現せよ、ネメアの獅子よ。その逸話、その一振りをもって敵を屠れ、【万物創造・
右手を前方に出し、一言。ボールスの右手の中で眩い漆黒の輝きが生まれる。輝きは漆黒の魔力となり渦を巻き、それは徐々に形を形成し、二メートルほどの大きさの畏怖の塊を連想させる漆黒の棍棒となり。
(…な、なぜ、そのような力を持つ。なぜ、そのような力をなんの制約もなく使える。なぜ――)
リオンは身動きが取れず、唯一動かせる首だけあげ、そのボールスの姿を目に焼き付ける。
(ありえない。ありえない。それは――「神」の力。只人が行使できるような代物ではない。こいつは――ナニと契約した?)
あのダンタリオンでさえ、恐れ慄き目の前にいる自分達を見下ろす人間を眺める。
「――「主役」なら、ここは華やかな剣を出す。だが、生憎と俺は「脇役」でな。それでもこの手に持つ
棍棒を片手一つで持ち。
その一撃をもって消し去るために。
最大限の魔力を纏い、二人を叩き潰す――
「あ、あ、あ、て、『転移』!!」
叩き付けられる前に二人の姿は消える。
「チッ。『転移結晶』か…」
少しイラついた様な声を上げる。その場で周りにまだいないか目ざとく確認する。そして大丈夫だと確認し、安心すると。
「――あとは頼んだ。カーボン――」
その一言を残してボールスは気絶するかの様に背中から倒れる。その時にはもうボールスの髪色も目の色も元通りになっている。
手に持つ巨棒も跡形もなく消えてなくなっていた。それは「5分」というタイムリミットが終わった証拠。ボールスもギリギリの戦いであり、リオン達が逃げたのは幸運だった。
【
・
・
・
「――全く。旦那は無茶をする。こうなると見越して俺を手配していたのか否や。でも、頑張ったな。間違いなくあんたがMVPだよ」
戦闘の一部始終を見ていたカーボンは気絶したボールスに近寄ると労いの言葉をかける。そのあとは他の面々も集めて『転移結晶』でその場を後にした。
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