第63話 「脇役」と「正義」
「――俺が、『アーク教』?」
ついその言われた言葉を返していた。
「あぁそうさ!…と言っても説明も無いとどんな組織か分からないよなぁ。「ヨハン」でもいれば楽だったのに…」
説明をするという行為自体が面倒臭いのか知り合いであろう名前を出し、愚痴を吐露する。それでも説明をするべく口を開く。
「要は、『アーク教』は「悪魔」と契約を結び人々を正しい道に導く教団。敵対組織に『
悦に浸るように恍惚と語る。その言葉の数々に頭がおかしいと思っていてもそれは口にも顔にも出さずに考えていた。
「悪魔」に『アーク教』に『
どちらが正しいのかは不明。だが…ポーネさんや他の監督官が知る事実。この『ウェルスダンジョン』で起きた異常事態。それらが
「…なるほど。ちなみに『アーク教』はどう人々を正しい道に導くんだ?」
「良い質問だ。俺達は『悪魔の王』アポクリファ、「悪魔王」の復活を目論んでいる。復活を果たした「悪魔王」を殺すことで我が『アーク教』が絶対であり、従うべきであると民草に認識させる。次第には我々が人々を「悪魔」から救った英雄として慕われ、後に自分達を導く者だと理解するだろう」
「「悪魔王」の復活に殺す、か」
どんな目的かノリに乗って聞いてみたは良いが…中々にクレージーじゃぁないか。『悪魔の王』アポクリファねぇ。
本気で語っていると感じられた。ただそんな荒唐無稽な話し到底信じる内容として値しない。虚言として切り捨てられるのが関の山。唯一気になることだけを問うてみる。
「「悪魔王」を倒せたとしても全ての人間が従うわけではない、と思うが?」
「案ずるな。従わない者は従わせるまで。それでも君の言う通り従わない者が出てくるのも事実。それは悪い噂となり伝播して広まる。その前に弱気者を「選定」する」
「…「選定」? それはまた物騒な」
その単語に眉を顰め、考えに疑問符を浮かべてしまうのは仕方ない。
「物騒、物騒か。そうだな。そうなのかもしれない。だが人々を正しい道に導くには多少の犠牲には目を瞑るしかあるまい…全ての人間を救うなど、夢物語だ」
「だから、弱者を「選定」すると?」
質問に男は軽快に頷く。
「「力」。即ち「才能」を待つ選ばれし人間、強者だけが生き残る世界。投獄、殺戮。そのような苛烈な手段に出ても
「……」
その考え、発言に何も答えられなかった。いや、少し語弊がある。狂気的な考えを持つ思考の持ち主の言葉一つたりとも理解などできなかった。難儀なものだ。
「とはいえ、ただただ殺戮しては労力の無駄遣い。だから彼等には「悪魔王」の復活の贄となって貰う。彼等も無駄死にをするより我々の礎となった方が、本望だろう?」
「ディールさんも…?」
「あぁ。「A」ランク冒険者ともなればいい生贄となる。他の者もそうだ」
「――ッ」
その言葉に憤慨し、後先考えずに手を出しそうになった。が、なんとか残っていた理性を総動員して自分自身を抑え込む。
「…彼等も」
倒れてピクリとも動かないポーネ達を尻目に問う。男も横目でチラッと見る。
「無論。だから殺さない。君は違う。「力」がある。話も解る。俺の理解者として申し分ない。だから、もう一度聞こう――『アーク教』に入らないか?」
「俺は…」
「あぁ、あとの説明は組織に着いた後に話そう…ヨハンが。その後に君に合う悪魔との契約も――」
パンっ
男が最後まで語る前に神殿の中に木霊として響く破裂音。
「――なんの真似かな?」
「なんの真似?…決まっている」
虚を突かれた男は始めから溜めていた魔力の余波で後方に吹き飛ばされた。
その意味、不可解な行動が理解できないと笑みを薄くして問うそんな男に正しいと思う行動を移したボールスは両手の拳を向ける。
「交渉決裂だ、クソ野郎」
大口で啖呵を切るように。
「…何か不満でも? 君が我々の教団に入った暁には地位や名誉も約束され――」
「だから、そんなもの全てひっくるめて交渉決裂だって言ってるんだ」
「……」
その言葉を聞いて無言で睨んでくる。怯むことなく本音を伝えてやる。
「ペチャクチャと御大層なもんぶら下げて話すが、それこそ夢物語だ。お前らが掲げるものが「正義」?…馬鹿言うな。お前らが掲げるモノは所詮――「支配」だよ」
真っ向から否定してやった。
「権力で「脅迫」し。恐怖で「支配」する。そんな傲慢な圧政に「正義」など存在しない。「相手を自分の思い通りにしたい」という我の強い「自己顕示欲」の塊だ」
そんな考え、恐怖政治と同じ。
「ならば聞こう。君が望む「正義」とは?」
「は。同類にするな。御大層な「正義」なんて待ち合わせねえよ。俺はあくまで「脇役」。ただ、そんな俺でも解る」
そこで一呼吸入れて男、リオン・フィリップを睨む。
「「正義」とは、「悪」を許さず。正しい道理。人間行為の正しさを示し、お前らのような「
「ふ、ふふふ。ふはは」
「……」
話を聞いていた男は声を高らかに笑う。
「それが君の「正義」か。生ぬるいな。お前のそれは口だけの見せかけの「正義」――「偽善」と言える代物だ」
「だからどうした。やらない「善」よりやる「偽善」。お前らが掲げる「正義」を冒涜する「何か」よりはまだ遥かにマシだ」
「…どうやら勘違いだったようだ。俺と価値観が違うお前とは、分かり合えない」
既に薄ら笑みすら浮かべていない男は「無」の表情でボールスを見据える。
「初めから分かり合えるなどと思ってなどいない。価値観どうこうの話でもない」
「もう少し、利口だと思ったのだが」
「見当違いも甚だしい。残念だったな」
嘲る様に鼻で笑ってやる。男は対照的にこちらを睨み、その体から目で視認できるほどの重圧を滲ませる。
「…力なきものは淘汰される。それが世界の真理…死ぬぞ」
「……」
その言葉を聞いて、怖気づかなかったと言えば嘘になる。相手の手の内は不明。こちらも武器はない。人質は取られている。
「だからと言って、おいおい貴様らに従う道理はない。可能性が0.1%でもあるのなら、俺はみんなを救うために、戦う!!」
残る魔力を全て体全体に回す。その状態で――
「結構」
「カハッ?!?」
本気で立ち向かった。それでも届かない。それどころか毛の先一本すら動かせず、何も為せず、男の右腕は胸を貫通している。誰がどう見ても、致命傷だ。
「――」
ボールスが倒れたことにより地面に流れ出た血が水溜まりとして溜まりだす。
「「正義」の最大の敵を知っているか? 「正義」の最大の敵は「悪」ではない。「別の正義」だ。お前の「正義」は俺の「正義」には必要ない。もう、聞こえてないか」
「――」
男は右腕にこびりついた鮮血を腕を払い飛ばし今も意識が戻らないポーネ達の元へ歩いてゆく。
その背後に血を流して倒れ伏すボールスのことなど既に眼中にないと言わんばかりに。
◇◇◇
パリン
「――ぁ」
『支配の悪魔』ダンタリオンと激闘の最中。さっきまで毅然と立ち仲間を鼓舞し、癒し、様々なサポートをしていたコルデーが突然膝をつく。
「せ、聖女様どう致しましたか!?」
上位悪魔との戦闘で体中に傷を負っているものの悠然と駆け寄ってくるレイア。青い顔を浮かべ瞳に涙を携え茫然とするコルデーを見て困惑を禁じ得ない。
「みな、聖女様に何があった」
「そ、それが。我々にも分からず…突然聖女様が膝をついて」
「本当か?」
『は、はい!』
一人の騎士が話す。その内容に嘘偽りがないか他の騎士達に問うが、返答はその騎士が正しいと答える旨。
「そうか。疑ってすまなかった」
「いえ! でも、聖女様が」
「あぁ。聖女様?――コルデー! コルデー!」
『……』
「聖女様」呼びから昔馴染みの「コルデー」という名前で呼び掛ける。その様子を他の騎士達は見守るしかなかった。
「…様。ボールス様…が…」
ようやくコルデーが声を囁いたと思えばその場にいるみんなが知る男性の名前だった。
「コルデー、聖女様! ボールス様がどうしましたか?」
「う、うぅ。ボールス様が…」
ただ、やはり「ボールス様が」としか答えてくれず途方に暮れる。
「その、レイア副団長。こちらを」
「これは…」
その時、一人の騎士が近くに転がっていた腕時計――『善悪計君一号』を拾い持ってくる。画面が粉々に割れていることに気づく。
「ッ。もしや、ボールス様に何か…」
『……』
ようやく察した。
何か嫌な予感を感じつつも事実も何も知らないオーラスやシノ、ユート達は『支配の悪魔』ダンタリオンと激闘を続ける。
※作者です☕︎
溜まっていたストック分をGWに開放することができました。
毎日見にきてくださった皆様、ありがとうございます。
次回からは「不定期」の投稿頻度に戻ります。少しでも早く投稿できるように頑張りますので、またよろしくお願いします。
お互い、来週からも頑張りましょう💪
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