第52話 聖女サイド 最上位悪魔の存在



 結局、コルデーが元に戻るまで騒動が治るのにかなり時間を浪費。


 その後、シノから説明がされ途中途中のオーラス、レイア達の説明もあり起きた出来事を包み隠さず伝えられた。


 コルデー達が集まっている場所はシノが用意した豪邸の一室の中。

 シノを中心にコルデー、オーラス、レイア、ユート達の順でソファーに座り他の聖堂騎士達と気配の察知に長けているルルの各々周辺を警戒している。


 そして"これから"をどうするか話し合いに。


「――? もう寝ぼけてないよね?」

「はい、大丈夫です。お見苦しいところを、本当に申し訳ありません…」


 「敵が用意したホテル、テリトリーに泊まる馬鹿がいるか!」「もう少し慎重に動き、効率を考えろ!」と直接正論を叩きつけられ

、それに加えて先程までの自分の行動痴態を覚えているのか顔を真っ赤にし、いたく反省していた。


「…別に。そんな気にしてないし」


 目の前で小さくなっているライバル好敵手を前にして「調子狂うなぁ」と思う。

 今はお互いの仲の悪さを忘れ、自分で用意した紅茶を一口飲んでリセット。


「この話は終わりね。今はボク達がやるべきのことを話し合おう」

『……』


 面々は黙りその話に耳を傾ける。


「まず、さっきも話したけどボクと君達の利害の一致…目的は同じだ。それは君達が対峙した悪魔――いや、の存在。君達もなら最上位悪魔の名前ぐらいは聞いたことあるよね?」

『(コク)』

「よろしい。ボク達はそんな悪魔について独自で調べた。結果、あの最上位悪魔の名前は――『支配の悪魔』ダンタリオン」

『――ッ』


 その名を聞いた面々の間に緊迫な雰囲気が流れ、険しい表情に。固唾を呑み次の言葉を待つ。


「――『王国の支配やり方』、『並の悪魔じゃない生物あの存在感』を見れば、ね。『闇ギルドうち』にも悪魔に詳しい奴がいてさ。過去の文献を見返してもダンタリオンで間違いないだろう、と」

「――『支配の悪魔』」


 静かに聞いていたコルデーが深刻な面持ちでその名を口にする。



 【『支配の悪魔』ダンタリオン】


 『』ルシファーを抜いた最高位であり最上位の悪魔の一柱の一人。

 その名の通り『支配』を司り、洗脳、命令、支配と相手の意思を思い通りに操れる。



「ただ、これは朗報だ」

「それは、何か我々に勝ち筋でもあると?」


 「朗報」という発言にオーラスが食いつくものシノはそれに首を振る。


「いんや、勝ち方なんて昔に倣って魔を滅する【光魔法】に通じるもの。それか古今東西変わらない『聖女』『聖剣』といった悪魔に有効打を与えるものを活用するぐらい。後は――同じ『宿』、かな?」

「――話の腰を折るようで申し訳ないのですが、一ついいですか?」

「どうぞ」


 横から入るコルデーの発言を聞き話の主導権を譲る。


「貴女は今言いましたね――『悪魔の力を宿す人間』と」

「あぁ、言ったね」

「――単刀直入に言います。貴女は、いえ――『闇ギルド貴女達』は『アーク教』に与する存在なのですか?」

「……」

『……』


 その質問にシノは俯き、他の面々はそんなシノの様子を伺う。


 巷でも知る人は知る。『アーク教』という教団が存在し、それに影で暗躍する『闇ギルド』という組織が与する存在だと。


「んー、まぁ。半分正解、半分不正解って感じ…かな?」

「…というと?」

「あぁ、うん。この説明じゃね…元々はボク達が無視を決め込んでいた落ち度が原因だしこの際話すよ。ボク達『闇ギルド』は――「」なんだ」

『!!』


 そして語られる『闇ギルド』の真実。


 シノの話では『闇ギルド』とは元々正規冒険者組合ギルドからあぶれたり、合わないと思った連中を今の『闇ギルド』の代表が集めて結成した――「傭兵」のようなものだと。

 シノは結成時のメンバーの一人で『闇ギルド』の代表とは旧知の中だとか。そんなシノ達は「傭兵」ということもあり「お金」という代価さえ貰えればその分の働きをする。


「――今更、ボク達『闇ギルド』が「悪人ではない」とは言えないさ。人々の認識としてはボク達『闇ギルド』は「悪」だ。過去も今もお金代価さえ貰えれば悪事に手を染めているもいる」

「…連中、ということは全ての『闇ギルド』の人間が悪事を働いているわけではないと?」


 「悪人」という言葉が大の苦手なユートが少し険しい顔で聞く。

 それにシノは苦笑いを浮かべて。


「そうなるね。ボク達だってみんながみんな悪人ではない。その逆で聖人でもないけどね。でも"仁義"は通す。その仁義すら通さない馬鹿達に困っているのも現状だけど…」

「…それは、俺達も、だな」

『……』


 「悪人」としてのボールスと「正人」としての「今」のボールスと直に対話したことがあるユート達はそれ以上何も言えなかった。


「うん。何処も同じさ。もちろん中には改心してくれる奴もいる。それでも注意を無視して悪事に染まる奴がいる。そういう奴等が――『アーク教』と親密な関係になり、悪魔の力を授かっていると聞く」

『……』

「『闇ギルド』の現状は代表、そしてボクを含めた幹部達と下っ端の大半はただの傭兵さ。だからさっきも言ったけど正解半分、不正解半分、だ」


 そこで言葉を止め、紅茶を飲み口の中を一旦潤す。


「――待ってください。では貴女がわたくし達と目的が同じでありこの場に呼ばれた理由は――」

「それはご想像に任せる。それ以上もそれ以下もボクの口からは言わない」

「そう、ですか…わかりました」

『……』


 コルデーも他の面々もそれ以上は聞かない。それはその答えが…。


「…うん。まあ、そう深く考えないでさ。ボクが一番ターゲットの近くにいてボク自身の都合も一部加味しての「代表」の決断が大きいから」

「と、言いますと?」


 レイアが疑問を持ち聞くとさっきまでのミステリアスさを消したシノが人を馬鹿にしたような顔を作り、コルデーの顔を見る。


「決まってる。まず王国の危機を救い王国とパイプを作る。すると王国民であるボルス君と――をする時に――」

「は?」

「今は外野は黙っててくれるかな?」

「……」

「コホン。結婚をする時に話が通しやすくなる。そして王都、聖女達を救ったボクの印象は爆上がりボルス君に!!」

「…己の私利私欲に塗れているような」

「俺も同感です」

『右に同じく』


 男性陣がシノの計画?を聞き呆れている中、女性陣はまた違う反応を見せていた。


「…女狐」

「せ、聖女様! 大丈夫ですから、落ち着いてください!」


 先の「結婚」という発言からダーク化に身を寄せるコルデーを抑えるレイア。


(――うぅ、あの『虚無』もボールス様を…ボールス様はモテすぎです)


 そんなレイアも心の中ではシノに対していい印象は持っていなかった。


「『闇ギルド』の『虚無』…これは強敵ね」

「ん。でも問題なし。先にを作った方の勝ち」

「流石よ、ルル」


 不謹慎な発言をするルルとエレノアはお互いに握手を交わす。



「――はいはい。色々とみんなも言いたいことはあると思うけど、先に進まないから話を戻すよ?」

『(誰のせいだと思っている)』


 シノが手をは叩き話を戻すように促す中、それを見ていた全員の心の声が一致した瞬間だった。


「はい。じゃあ、先の朗報についてだね。まず君達は過去に王国で起きた『勇者召喚』についてはご存知だよね?」

『(コク)』

「!」


 面々が頷く中、とある一人だけ肩を跳ねさせた。それを見逃さないシノは妖しく笑う。


「その『勇者召喚』が今回の朗報だ。まず、ほとんどの文献の記載では『勇者召喚』とは大災害を止めるために行使したと記された。しかしそれは偽りの情報事実

「あれは真実ではないと?」

「そうなるね。真の目的はこの世界に現れた「悪魔」を撃退するために世界の抑止力が神を通じて"異世界"から呼んだもの。その人物達が後に『勇者』『転移者』――『異世界人』と呼ばれるようになる」


 レイアの問いに軽く答え真実を語る。


「それはわたくしも習いました。過去の御仁が事実を伏せた理由は確かなものではないですが、「悪魔」という存在を後世に残さないためだと言われてます。他にも『勇者召喚』を悪意を持った人が乱用しないために伝承が書かれた汎用紙を封じ、召喚方法は闇に葬られ、今の現代では誰も知らないと言われています」

「細かな詳細ありがとう。そう、それでその『勇者召喚』で呼ばれた人物達と「悪魔」の間で起こった対戦…これを仮に『聖魔対戦』と呼ぼうか。その『聖魔対戦』で人類に負けた悪魔達の大半は体を維持できなくなり消え、上位種以上の悪魔は力を取り戻すために深い眠りについた。それが今現代に甦り、世界各地で被害を出している。だ・け・ど…ここからが『勇者召喚』が齎した勝利の一手、それこそ朗報さ」

『……』


 他の面々は食い入るように話を聞いていた。そんな面々を他所に話を続ける。


「現代に甦った悪魔。上位種達、それは完全な復活ではない。力を大半失った状態での中途半端な復活だった。悪魔達は元の力を取り戻すべく「悪魔」を信じている団体…『アーク教』を使い「悪魔王」などと架空の存在を名乗り贄を集めさせ、自分達の完全復活を目論んでいる」

「そんなことが…」

「起きているのが現状だね。そして『支配の悪魔』ダンタリオンもその例には漏れず、奴も全盛期の力を持たない。宿

「ほう。ではその宿主がステンノ王太子と言うわけですね」

「いや違うけど?」

『――え?』


 オーラスの問いに否と答えたシノに対して面々は惚けた顔を見せてしまう。


「ステンノ王太子は王国にいた面々と同じで。そもそもステンノ王太子が『闇ギルドボク達』に聖女誘拐の依頼を出してきた時点で疑うべきだった」


 「依頼」と口にするシノは苦虫を噛み潰したような顔つきになる。


「言い訳に過ぎないけどボク達『闇ギルド』はステンノ王太子が悪魔に操られていることに気づかなかった。ダンタリオンはステンノ王太子の心の奥底に元々あった「聖女と結ばれたい」という想いを増長させて影から操っていたんだ」

「では、本当の宿主とは?」


 オーラスのその質問に首を振る。


「それが分かっていれば苦労しないさ…ボク達はお金代価さえ貰えれば余程のことがない限りは動く。今回は『聖女』と『王国』のだと事前に聞いていたから依頼を受けた。結局「悪魔」絡みでダンタリオンとその宿主にまんまと踊らされたよ」

「宿主がわからない以上我々は迂闊に動けないのでは…?」

「そこは問題ない。簡単な話、宿主といっても今のダンタリオンとそう遠く離れることはできない。少なくとも王都に潜伏しているだろう。ただそれを見つけるよりもステンノ王太子の近くに今もいるであろう弱っているダンタリオンを先に叩く方が効率がいい」

『なるほど』


 そしてニカッと満面な笑みを見せるシノは告げる。


「さあ、ボクも代表達も騙されて内心ムカついている。聖女達だって狙われてムカついたでしょ?」

『(コク)』

「その憂さ晴らしではないけど、仮を返すために奴の居場所――王国に次はボク達自ら攻めてやろう!」

『おう!』


 その言葉にみな応える。


「ま、安心しな。ここにいる戦力ならまず


 

 かくして『聖女』『黒曜の剣』『闇ギルドシノ』vs『支配の悪魔』ダンタリオンとの戦闘が開始されようとしていた。


 

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