第54話 昇級試験開始
◆
「只今より昇級試験を始める」
晴天の青空の下、王都のダンジョン通称――『ウェルスダンジョン』にて、昇級試験を受ける冒険者達が集められ。
「俺は今回行われる昇級試験の監督官兼進行役を務める―― 「A」ランク冒険者のディール・ミランダルだ…よろしく頼む」
司会進行役を務める男、ディールは短く告げる。ディールは銀髪の髪に整った容姿、腰に愛用の片手剣を吊るし黒色のロングコートを羽織る王都の有名冒険者の一人。
『……』
誰もが知る有名冒険者を目前にして冒険者達は今から始まる試験に思いを馳せる。色々と質問をしたいと思う気持ちを持つ冒険者達は多数いた。既に昇級試験が始まっている。そのことを理解して黙って話を聞く。
「大まかなルールは
ディールは前置きを置き続けた。
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一つ、『ウェルスダンジョン』20階層階層主オーガの討伐orホブゴブリンの牙を5個納品をする…のどちらかをこなすこと。
※これはどちらか一つ達成すれば昇級試験合格とみなす。
二つ、5の鐘(18時)が鳴った時点で試験は終了。
三つ、棄権をする場合は近くにいる監督官に宣告。これはホブゴブリンの牙を提示するときも同じ。
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「――ということだ。試験の制限時間も決まっているため余裕を持って行動をとるように。また、聞いていると思うが我々の中から一人監督官を選んでもらう。まずは各々自己紹介を挟む。その間に決めるといい――では、初めの方は挨拶頼む」
ディールがそう告げて一歩下がると近くで待機していた監督官達が名乗りをあげる。
「――私はポーネ・グラノーラと申します。ディールさんと同じく「A」ランク冒険者です。今回は皆様のサポート役を頑張ります。どうぞよろしくお願いします」
『おお!!』
水色の髪をセミロングに束ねるお淑やかそうな魔法師然とした服装のポーネが自己紹介を行い頭を下げる。直ぐに拍手と男性からの歓声が聞こえる。それは当然…ポーネの容姿は紛うことなく美人。その上豊満な胸の持ち主なのだから…後はディールと同じで有名冒険者なのだから。
『……』
男性冒険者達とは打って変わって…猿のように
「俺の名は――」
その後も監督官達は自身の名前を告げていく。ポーネ程ではないが他の監督官達へのウケも良く今回集まった昇級試験の参加者達からの反応は上出来だ…ただ一人を除いて。
「――えぇーー、、、えっとー、でぃ…「D」ランク冒険者のーボールス・エルバンスと言います…あー、よろしくお願いします…」
『……』
ただ一人…現「D」ランクという肩書きしか持たず。目の前にいる試験者達と違い昇級試験すら受けていない男が監督官として自己紹介を行う。誰一人として声を上げないし、拍手も起きない。
「……」
いや、知っていたけど。知っていたけど、分かっていたけど…キツイものはある。だって見てくれよ?
『……』
彼ら彼女ら俺の顔を見て男女関係なく真顔だよ、真顔。まるで能面の様だ。歓迎されていないこの場違い感が半端ない…帰りたい。それに俺は知っているんだ。この後の流れがどんなものになるのか…。
「――ボールスさん! 是非、俺達の監督官になってください!!」
「……」
ほら、ね? 他の監督官達と一緒に肩を並べて立つ俺に向けて牙を剥く――へ?
男性冒険者の言葉を理解して数秒後、自分が思っていた展開(悪い)にならず逆に困惑してしまう。本来なら気に食わない自分を認めない試験者…通称「認めない星人」が現れて有る事無い事難癖をつけられた上に勝負を吹っ掛けられる…と思っていた。
それが"テンプレ"だから。
なのに――
「――おい、ずるいぞ!! ボールスさんは俺達の監督官になるんだ!!」
「そうよそうよ! 抜け駆けは許さないわよ!」
「フッ。醜い争いはやめたまえ。ボールス殿は某達の監督官に――」
『お前は黙れ!』
「何故に?」
目の前の光景についていけなかった。何故なら俺という監督官を巡って論争が勃発を起こしてあるのだから…マジでなんで?
「……」
なんとか状況を打開すべき他の監督官、ディール達に助けを求めるべく顔を向ける。
『……』
皆して何故かグッと親指を立ててくる。
「俺にどうしろと?」
その後、なんとか試験者達の論争を止めることに成功した。
『――ゴホン。少しアクシデントはあったが通常通り進めさせていただく。まずパーティメンバーを二人〜五人で組み、監督官を一人選んでくれ。時間も押しているため班決め、監督決めは早目に。決まったチームから順次監督官の指示を仰いで試験を開始してくれ――では、始め!』
ディールの試験開始の合図もあり試験が開始される。無事監督官達の配置が決まり、試験者達のパーティは既に決まっていたのでまだ楽だった。
そんな俺も配置が決まりそのパーティの監督官として自己紹介をしようとしているわけだが…。
「私達の監督官になっていただきありがとうございます!!…あ、私の名前はルーナ・ウェルシアと申します。今後とも宜しくお願いします!」
「…ネル・グランテ…よろしく」
「ネルさん素っ気ないですよ〜」
「…別に」
「ボールス様が監督官になってネルさんも嬉しいですよね〜」
「…別に」
「……」
自分の目の前にいるうら若き乙女達の自己紹介と会話を聞きどう対応したら良いのかわからない。
というか、この子達…。
「あーうん。えっと、自己紹介の前に、間違っていたらごめん。君達って…『ルクスダンジョン』で助けた冒険者?」
俺は目の前の少女達の外見に見覚えがあった。そこで思い出したのが王都に来る前に助けた冒険者達のことだった。
「! 覚えてくださっていたのですね!!」
「やっぱり」
どうやら正解だったようでなぜか俺のことを様付けしてくる金髪の髪と笑顔が似合う美少女が微笑んでくる。
「…そうよ。私は…そこの胸でか女とは違ってあなたに直接助けてもらったわけじゃないけどあの時、あの場所にいた冒険者の一人よ…その節は助けてくれてありがと」
短髪の茶髪を手でクルクルと弄りながら小声でお礼を伝えてくる。こちらも美少女。
「あの時お礼は十分いただいた。それよりもこうやってまた会えてよかった。縁があったみたいだな」
「聞きとんなし…」
「それは無理な話だ。聞こえたからな」
「……」
グランテさんはソッポを向いてしまう。そんなグランテさんをおかしそうにウェルシアさんが見ている…うん。初対面じゃない分まだマシ、かな?
「――俺の名前はボールス・エルバンス。名前は知っていると思うが形式上、な。今回は君達二人の監督役だ。思う存分自分達の力を発揮してくれると嬉しい」
「今回はよろしくな」。俺はそう告げて試験の開始を宣言した。
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