第49話 聖女サイド 油断
◇
ボールス、カーボンの二人が王都に着いた丁度同時期、同時刻。以前と同様に
「二日間の結果を話し合いましょう。まずは騎士の皆様から」
「は!」
コルデーの問い掛けに側に立っていたオーラスが一歩前に出る。自然にオーラスへと視線が集まる。
「私達騎士が調べていた王国周りの報告です。聖女様の仰る通りウェルデン王及び王国の皆様は洗脳または催眠状態に罹っているものだと思われます。そしてステンノ王太子だけが自我を持っております…これらが私達騎士からの報告となります」
「ありがとうございます。ですがやはり、そうでしたか」
話を聞いたコルデーは深刻な顔を作り伏せてしまう。それは他のみんなも同じだ。
「…王都周りを調べていただいたユート様達はどうでしたか?」
「はい。それは私から」
顔を伏せていたコルデーだが、なんとか空元気を出して顔を上げ席に腰を下ろしていたユートに話を振る。それに答えるべく代表としてユートが立ち上がる。
「まず、聞き込みの結果ですが、王国の異常事態は王都の皆様は何も知らないようでした。
「いえ、ありがとうございます。その情報だけでも助かります…ですが、他の助けは厳しそうですね…」
『……』
その言葉に他のみんなはまた沈黙により無言になってしまう。
「…ただ、安心はしました」
『……』
「王都の皆様には被害が出ていないと知りましたので」
コルデーは自分だけでも笑顔でと気丈にも満面な笑みを作る。
『…聖女様』
そんなコルデーに悲痛という感情を乗せて見てしまう。情報を集めたところ王国の王子が「悪魔」と関わりを持ったことで今回の騒動が起きたことが確定した。コルデーが悪いわけではないがコルデーが狙われたことで王国が人質に取られていることは事実。
「聖女様、決して無理だけは…」
「レイアさんありがとうございます。でも大丈夫です。私は皆様を救う為に無理をしても、自分の命と引き換えに無茶をするようなことは致しません」
心配そうに伺ってくるレイアに気丈に振る舞う。
(
「…ただ、聖女様きっと大丈夫、です」
「ルルさん?」
『……』
突然声を上げたルルにコルデーは小首を傾げ、他のみんなはルルの顔を見る。
「ん。ボールスはうち達に頼みました。でも、そんなことをしなくてもうち達は聖女様の、味方です」
「ルルさん…」
自分を慕い、思ってくれるその言葉に心が打たれ少し感極まり涙を瞳に溜めるコルデーを見てユートとエレノアも続く。
「そうですよ。それに俺たちも「A」ランクです。「悪魔」や『アーク教』が出てこようが遅れを取りません」
「そうですね。それに…きっとあの人、ボールスさんも王都に来る」
「え?! そうなのですか!!」
「――ッ」
エレノアの話を聞いたコルデーはその話に過剰に食い付く。例に漏れずレイアも声は上げないが興味津々だ。
「はい。先程ユートが言いましたが近頃昇級試験があります。ボールスさんは昇級試験の監督官役として王都に呼ばれているそうです」
「そうだったのですね!! 流石ですわボールス様!!!!」
先程の重い雰囲気とは打って変わってコルデーは今は晴れやかな表情を浮かべ、いつもの聖女に戻っている。そんな聖女を見て胸を撫で下ろしたオーラスが告げる。
「聖女様、我ら騎士、貴女を守る矛であり盾でもある聖堂騎士も付いております。聖女様の御身、私達が身を挺してお守りします」
『『『我らは皆、聖女様の剣です!!』』』
「皆様…」
オーラス達騎士の温かい言葉を聞きコルデーは決心を決めた。立ち上がりみんなに今後の動きを告げる――
「――なんと素晴らしいのカナ人間とは。信用、信頼、友情、愛情…。あぁ、本当に――ヘドが出るほど悍ましい」
『『『ッ!?』』』
――告げるはずが、突如何処ともなく聞こえてくる聞いた覚えがない男の声。
その声を聞いて瞬時にいつでも動ける体勢になる。聖堂騎士達はコルデーを守るように主を中心に陣を作り、ユート達はコルデーを気にかけ声が聞こえた方角に顔を向けて。
「――鏡?」
声が聞こえた方角には来た時から立てかけられてあった立て鏡がある。特に変わったモノではない。不思議と声を上げていた。
「…エレノアさん。皆様、気をつけてください。それはただの鏡ではありません。瘴気が含まれてます。それに――」
(【結界】が、壊されました。いつのまに。【結界】を張った
コルデーが敵の正体に気づき始め、どう動くか試行錯誤している時、それは突然起きた。鏡の面が漆黒に染まると同時にそこから黒いモヤが這い出てくる。
『『『――ッ』』』
みながその黒いモヤに神経を向ける。
「っあ?!?」
「――気にすることはない。ただの人間の…そうだな。言葉で例えるのなら…パフォーマンス、か?」
コルデーの近くにいた騎士の一人から悲鳴が聞こえた。そちらを見ると…騎士の心臓に右腕を突き立てる紫髪のロン毛の男が立っていた。騎士は絶命だろう。
仕立ての良さそうな灰色のコートに整った容姿…と、これだけ見たらただの人間だ。
騎士の心臓を突き刺しその心臓を咀嚼している姿とその爬虫類の様な冷ややかな瞳、その場にいるだけで吐き気を催す様な異質な雰囲気を除けばの話だが。
そこに頭から生えた二つの角があれば誰もがその姿を「悪魔」と連想する。
今は騎士の心臓を咀嚼しておいて「あまり美味しくはないな」などと呟いていた。
「――【
コルデーは瞬時に今できる最善だと思える行動をとる。【
無詠唱でスキル同時進行と神がかった荒技は聖女が出せる最大。騎士の最後を目の前にして悔やみたい気持ちはあったが、今はその気持ちを押し殺して目の前の悪魔を睨む。
「よしてくれ。ただの挨拶じゃないか、挨拶。私は今争いに来たんじゃない。今はな」
行使した【
「…貴方の、「悪魔」の言葉一つすら信用できません」
「これは参った。あぁ、参った…ただ、お嬢さんは私に構っていて大丈夫かな?」
「何を言って――」
『『『キャハハハ! 人間だ、人間!! どれでも殺して食っていいんだろ!!』』』
悪魔の言葉に踊らされまいと目の前にいる
「くぅ…!!」
その光景を見てコルデーは自分が油断していたことを理解し、下唇を噛んでしまう。ただ聖女の自分がこの程度で臆している場合ではない。
「唆るな、その顔…メチャクチャにしたいほど」
「――ッ」
「ただ、私の目的はあくまで様子見だ。安心しろ。後はそこの下級悪魔達の相手でもしてくれ」
悪魔はそれだけ言葉を残すと下級悪魔だけを残して本当に姿を消してしまう。
「…気配が消えた」
目の前で悪魔が消えた光景を見た。それは『虚無』が使う様な【転移】とはまた違う何かのように感じた。それでも信じきれず残された瘴気を辿って本当にいなくなったか確認したいところだが…。
(今は残された下級悪魔に集中をするべきですね…)
ただ下級悪魔と言っても個々で強さは変わり一人あたり「C」〜「A」クラスの冒険者の実力を持つ。
(下級悪魔自体は知能が低く戦いやすい相手に見えますが、人語を扱う悪魔達。魔法に長けてトリッキーな動きも得意。それも今いる場所は――)
「――この場所での戦闘は、避けたいです…が、そのような悠長なことは…言っている場合ではないですね」
今いる場所がホテルの一室であり街中だということを視野に入れながらコルデーも聖堂騎士達、ユート達も戦いの手を止めてしまい戸惑っていた。それでも悪魔達はそんなことお構いなしに襲ってくる。
「――皆様、聖女である
「――馬鹿女。それじゃあ、効率が悪いだろ」
「え?」
『『『――ッ』』』
謎の人物の声が聞こえた瞬間、コルデー及び悪魔達はそのホテルの一室から姿を消していた。あとに残るのは荒らされたホテルの一室と――
「あえて鼠を泳がせていたが、案外優秀だ。まあ、そうでなくては困る。ここで終わってしまったらあまりにも遊び甲斐がない」
姿を消したはずの悪魔の声が最後に聞こえ、ホテルの一室は静寂に戻る。
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