第45話 聖女サイド 不自然な王国


 ◇



 聖女一行。


 王都「ウェルデン」に着いて早々、王国に入り今までに起きた出来事を通達した。その時に「王の間」に通されたコルデー達は国王ルトリア・ルト・ウェルデン直々と話し合いを行いを行う。

 魔物氾濫スタンピード】の件でユート達『黒曜の剣』が褒美として報奨金を貰い。コルデー達は「息子が聖女様にとんだ御無礼を」と謝罪を受けた。


 一国王がコルデー個人に対して謝る事は不自然に感じるだろう。しかしそれほどまでにコルデー聖女とは高貴な存在。王族、貴族関係なく慕い偉大な存在。


 話し合いが終わり王太子ステンノの罪が公表されるまで聖女一行は王国から用意されたホテルに泊まり観光などを楽しんでいた。当初は「王国の一室を貸し出す」と言われたがコルデー自ら断った。

 そして今、王都に来て3日目のお昼が訪れた時、王国から別で用意してもらったコルデーが割り当てられたホテルの部屋にて『黒曜の剣』と『聖堂騎士』達が集められた。


「――皆様は〜王国、ひいて王都を見て周って感じましたか〜?」


 それはコルデーの何気ない唐突な質問から始まった。


「…聖女様。まずは私から」


 初め挙手をしたのは『聖堂騎士団長』のオーラス。頷き目でオーラスを促す。オーラスはその視線を受けて立ち上がる。


「ここ3日、王国及び王都周辺を見て周りました。王国の皆様も普通。王都の人々の様子も他の街と遜色ありませんでした。ただ一つ、私は違和感を覚えました」

「それはどうな違和感でしょうか〜?」


 話を一旦止めるオーラスに対してコルデーが聞き返す。


「は。まず。先程王国が普通と言いました。そこが私には違和感を覚えます。言ってしまえば"普通"過ぎるのです」

「……」


 話を聞いたコルデーは表情を変えない。そしてそんな二人の会話にすかさず挙手を入れるレイア。


「レイアさん、どうぞ〜」


 オーラスの着席に合わせてレイアが立ち上がる。


「はい。実は私もオーラス団長と同じ意見です。王都の人々は生き生きとして見ていて心地よいのですが…王国の皆様は…少し暗いというのでしょうか。勿論話した感じは王都の皆様と変わらないのです。ですが私は何処か不気味さを拭えません」


 レイアの言葉に他の「聖堂騎士」達も口にはしないが頷き、レイアの意見に肯定を示す。


「そうですか〜皆様ありがとうございます。では「黒曜の剣」の皆様の感想をお聞きしても宜しいですか〜?」


 レイアが腰を下ろした直後、コルデーから話を振られた「黒曜の剣」はリーダーであるユート…が答えるわけではなく、ルルが立ち上がる。


「聖女様。うちから話し、ます」


 相手が聖女だからか少し強張った表情のルルはいつものマイペースの様子を消し、何処か真剣味が伝わってくる。


「ルルさんのお話、聞かせてください〜」

「はい。うちもレイア達と同じで王国がおかしいと思います。それも…国王様達の目が何処かだと思いました」

「…それは王国にいる全員が、ですか?」


 ルルの話を聞いて驚くオーラス達を他所にコルデーが間延びをやめた声音で聞く。


「いえ。全員を見ていないので確かなことは言えませんが、王太子様だけが宿をしていて、少しその目が気味が悪かった、です」

「そうですか。ありがとうございます。楽にして大丈夫ですよ」

「ん」


 ルルはコルデーの言葉を聞き、自分の意見を話し終わった安堵からか一つ小さく息を吐き、腰を下ろす。


「リーダーのユートさんはルルさんのお話を聞いてどう思いますか?」

「はい。俺、私もルルと同じ意見です。実はこの場に来る前に自分とルルとエレノアの三人で話し合ったのです。そしてルルの勘は当たります。なので私達はルルを信じます」


 ユートはコルデーに突然聞かれるも主人公ばりのコミュ力を発揮して自分の意見を話す。


「そうですか。ありがとうございます」


 そんなみんなからの意見を聞いたコルデーは目を瞑る。


 そして2、3分程経つ頃、コルデーは目を開ける。


「…まず、これからの話は他言無用です。既に皆様が到着する前からこの部屋には簡易的な【結界】を張っているので外からの外敵の侵入、外への会話の漏洩は安全です。なのでそこはご安心ください」

『『――!!』』

「……」


 何気ない話から出た【結界】という言葉に全く気づかなかったユート達とレイアを含める「聖堂騎士」達が目を剥く。唯一オーラスだけが気づいていたからか反応は薄い。


「さて、現在王国で起きていることを皆様のお話を聞いた上でわたくしから話します」


 その言葉を聞いてみな注目を集める。


「皆様の想像通り、現在置かれている王国は何処かおかしいです。そう、のがおかしいのです。以前わたくしもウェルデン王とは何度かお話しをしたことがあります。ありますが、今はその時の覇気も生気も感じられません。それはほとんどの方々が同じです…


 一拍置いて、ルルを見る。


「ルルさんのお陰でわたくしの思い違いじゃないことがわかりました。確かに…ステンノ王太子以外はみな虚として何処か心許ない瞳をしています。それにこれはわたくしだからか分かりませんが臭うのです。ステンノ王太子から人や魔物が出せない…が」

『『――なっ!?』』


 「悪魔」という単語を聞いた面々は声に出して驚愕を隠せない。それはあのオーラスも同じだ。コルデーはそれでも言葉を重ねる。


「実はからわたくしの身が狙われている。それも『闇ギルド』が関わっている可能性があると明言された時から薄々気づいていました。今回の出来事は裏で悪魔が企てているものだと――『アーク教』が深く関係していると」

『『……』』


 その話を聞いたみんなは唖然とし、次第に落ち着きを取り戻し、納得して沈黙。


 この場に居る人物は皆知っている。「悪魔」それに『アーク教』という言葉を。何故ならそんな「悪魔」や『アーク教』に対抗すべき存在…『正義の剣ブレイバー』の代表がコルデーの姉にして皇国の「教皇」ナーサリーその人なのだから。

 「聖堂騎士」は勿論。各国の国や冒険者組合ギルドもその話は周知の事実で「聖女」達に力を貸している。


 ボールスが知らない理由は「C」ランク以下の冒険者達に秘匿にし、それ以上の冒険者に知らせる義務があるためだ。


 『闇ギルド』が「悪魔」と関わりがあるとは定かではないが『アーク教』と呼ばれる人類の敵である悪の教団に与し、関与しているのではないかと噂がされている。現に今回コルデー聖女を攫いに来たのが『闇ギルド』でも名の知れている『虚無』。

 それもそんな『闇ギルドシノ』を雇っていたステンノ王太子から悪魔の瘴気がすると言われれば、辻褄が合ってしまう。


 "人類側"『正義の剣ブレイバー』(国、冒険者組合ギルド等)と"悪魔側"『アーク教』(『闇ギルド』?)は敵対関係にある。


「…成る程。では、聖女様。私達に手渡しして下さったポーションに何か意味があるのですね」


 オーラスが何かを思い出したように顎に手を当てた体勢でコルデーに問いかける。


「その通りです。皆様は覚えていますか? 王都に来る直前にわたくしが渡したポーションについて」

『『はい』』


 その問いにレイアやユート達は王都に来る前にコルデーから一本のポーションを受け取っていた事実を思い返す。「そのポーションは」と。


「渡したポーションの中身はわたくしが作り出した純度の高い「聖水」が入っています。それさえ待っていれば神の御加護で悪魔の瘴気に当てられても安心です」


 その言葉を聞き納得と共に先を見据える抜け目のない慧眼に舌を巻く。ただ「恐らく」というコルデーの続く言葉に耳を傾ける。


「恐らく、ステンノ王太子に取り憑いている悪魔の瘴気に当てられてウェルデン王達がおかしくなっているのでしょう。もしくは…」


 そこでコルデーは珍しく難しそうな渋い顔を作る。


「…瘴気以外で王国に居る人々を操る能力でも保持しているか、です。悪魔の力は千差万別、様々で厄介な物ばかりですからね。それも上位にもなれば強力です」


 その話を聞き、難しそうな顔を作る。その話を聞いた限りでは王国じたいが敵または人質にされている可能性が極めて高い。それは王太子ステンノの考えにもよるが。


「万が一王国全体が人質になっているなら迂闊に動けません。ですので今わたくし達が取れる行動は確かな情報の確保。そして王国救出の一手をどうするかです。それを今から話し合います」


 真摯の言葉を聞いたみんなは頷く。


 そして始まる。ボールスが知らない場所で「人類」と「悪魔」との戦線が。



 ボールスが王都に来るまで残り2日。

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