第43話 呪われたアクセサリー


 ◇



「やっとを見つけてくれた。君にしては案外遅かったね」


 誰かが俺の脳に直接語りかけてくるかのように聞こえる。その声音は柔らかく優しい。今は多分…夢の中だと思う。微睡の中で気持ちがフワフワしてなんだか心地いい。目も口も開けられないからその声の主が誰なのか判別がつかない。でも、なんだか…


「君と会うのは早いみたい。残念だけど君と面として向き合う日を楽しみに待ってるよ。その時は――での積もる話でもしようね」


 ――はそれだけ語ると離れて行く。そして朦朧としていた意識も徐々に覚醒して…。


 ・

 ・

 ・


「――さん! ボ…さん! 朝、ですよ!」


 誰かが声をかけてくる。でもさっきの人物が誰なのかもう少しで思い出せそうなんだ。だからあと少しだけ…。


「ボールスさん! もう!」

「――うおっ!?」


 俺は自分の体にいきなり訪れた浮遊感に目を開けて声を上げる。何が起きてる??


「ぐえっ!?」


 と思っていたら寝ていたベットから落ちて顔から地面に叩きつけてカエルが潰れた時のような情けない悲鳴を上げる。


 痛い。


 痛む鼻を押さえ目を開ける。そこには朝日が差し込む窓と…腰に手をあて白いシーツを片手に持ちおかんむりのミリナの姿が。


「漸くボールスさんは起きましたね。もう二の鐘も鳴りましたよ?」

「え?」


 俺は今の時間が早朝だとばかり思っていた為変な声をあげてしまう。そんな俺に向けて残念な人を見るかのような目を向けてくる。


「もう。まだ寝ぼけているのですか。どうせボールスさんのことですから昨日、何かよからぬことでもしていたのでしょう」

「え、いや、別にしてないが…」

「ふん。どうだか。朝食が用意してあるので早く下に来てください!」


 ミリナさんはそれだけ告げると部屋を出て行く。なんでそんなに怒っているのかがわからなかった。


「…何が何やら。身支度して朝食、摂りに行くか」


 状況についていけなかったが言われた通り行動を起こす。その片隅ではさっきまで見ていたであろう「」の断片を思い出そうとしていた。



 ◇◇◇



 朝起きて朝食を摂り終わると「日の園宿屋」の自室に引き篭もり考えていた。自分が昨日何をしていたのかを。夢については結局確かなことを思い出せそうにないし何もわからなかった。なので所詮夢だと思い今は忘れることに。


「…昨日、何してたんだっけ?」


 ミリナさんに起こされた。何回声をかけても起きてこない俺に憤慨したミリナさんは部屋に突撃して無理矢理起こしたのだと。俺が変な体勢で寝ていたからか何かよからぬことをしていたのだと疑られたので悲しい。


 悲しいと思う中、昨日の記憶が思い出せず混濁とした記憶を辿っていた。


「確か、俺は「ステータス」を確認して…それで、あぁ、そうだ。ネックレスに魔力を込めたんだ」


 なんとか思い出した俺は首元にあるネックレス。「魔封じのネックレス」に触れる。見た感じ触れた感じは特に変わりない。ただ少し自分の体の違和感というか倦怠感を感じていた。それはラクシアに来て魔力を上げる時の修行をした時のようだと思った。


「まさか…「ステータス」」



---------------------------------------------------------------


ボールス・エルバンス 29歳 男


L v.48

種族:人種

ジョブ:性技

サブジョブ:戦士


魔力:97600→37600(−60000)

筋力:3020

防御力:950

魔防御力:630

素早さ:4500

運:50


 ※()内は「魔力枯渇」の影響


加護:なし


スキル: 剣術lv.2 体術lv.2 身体強化lv.5 氷魔法lv.0(開花してない)性技lv.7 絶倫lv.9 性欲lv.10MAX 棍棒術lv.5 繁殖 悪食 鑑定lv.1


ユニークスキル:強奪lv.5


属性:氷・無


状態異常:魔力枯渇症(中)


持ち物:なし


所持金: 146万ベル


 

---------------------------------------------------------------


 

「マジか」


 自分の「ステータス」の魔力数値を見て予想通りと肩を落とす。その予想は外れて欲しいと思うものの今の自分の状態を知っていた。それは「ステータス」の「状態異常」の項目にもある通り『魔力枯渇症』状態だと。


 

 【魔力枯渇症】


 自分の元の魔力が「0」となった時に引き起こされる症状。若い年齢。主に子供達がなりがちな症例。魔力が回復するまで一時的に嫌悪感、倦怠感が生じる。

 「微」「小」「中」「大」と症状の段階があり。「微」が症状の回復の兆しが最も早く。「大」が症状に成り立て。ポーションで回復もできるが自然回復が好ましい。


 自分が『魔力枯渇』状態に陥ったその理由も思い当たる節がある。


「このネックレスのせいだよな。絶対」


 首に今もあるネックレスに触れる。


「結局のところ、このネックレスに魔力を与えて何か変化が起きたのか? 表面上は何も変わりないし…これで魔力だけ吸われましたとかのオチだけは勘弁だが――【鑑定】」



---------------------------------------------------------------


 ・魔封じのネックレス(呪い)


 何かが封印されている痕跡がある呪われたネックレス。

 解放されるには一定の「魔力」を込めること。この「呪具」は主人を選ぶアーティファクト。


 ・解放率:3%


 ※一ヶ月以内に外さないと死にます


 PS.そんなに乱暴に魔力を込めたらお姉さん昇天しちゃうゾ。それと少し豆知識。『魔力枯渇症』になりたくないなら少しずつ魔力を込めるのが得策よ。君ならやり方もわかると思うからヒントはだしません。「解放率」が「50%」になったらいいことが起きるかも♪


---------------------------------------------------------------



「……」


 【鑑定】してみた結果。以前鑑定した時と少し項目が変わっていた。それも「PS」の部分が特に。


「いやいいんだ。親切心で俺に教えてくれているわけだから。一瞬「俺のオカンか!」とか思ったが素直に嬉しい。ただこいつ絶対生きてるだろ」


 ネックレスを引っ張ったりデコピンを放ったりするが反応は皆無。


「はぁ。解放率とやらを「50%」ねぇ。昨日、俺の魔力を全て奪っておいてまだ「3%」かよ。これは先が思いやられるわ」

 

 この頃魔力も大分増えて「ステータス」にも体が順応し、慣れてきたので浮かれていた。それでもまだ全然足りないようだ。


「…そういえば不審者達が生贄とかがどうのこうのとか言ってたよな。俺も厨二病だとばかり思っていてあの時は気にもしてなかったが、コイツの性能を見るとあの不審者達が何かよからぬことをしようとしていた可能性が、あるな…」


 不審者達のことを内心厨二病と言いながらもあの不審な行動を少し訝しんでいた。生贄=ネックレスに魔力を溜めて封印されている「何か」を蘇らせる…とか。

 勿論俺の思い込みに過ぎない。本当にただの厨二病のケースもあるが、それがもし世界を覆すような「何か」がこのネックレスに封じられているとしたら…。


「解放したくないが。どっち道俺の命がかかってやがる…世知辛い人生だよ、ほんと」


 また己に色々と面倒ごとが降りかかってきたと落胆する。謎の不審者達。思い出せない夢。そして「呪具」の解放。


 一つずつ紐解いていこうと心に誓った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る