第42話 ダンジョンから生還



 あの後なんとか自分を落ち着かせて地上まで戻ってきた。不審者達はめんどくさいので放置。放置と言ってもダンジョン内では人間、魔物問わず死人は気づいたら消える謎システムとなっているため問題はない。一説ではダンジョンの養分にされているとか。

 祭壇の周りに漂っていた白いモヤはネックレスが首に嵌った瞬間、元からそんなモヤなどなかったかのように霞となり四散した。


 街に戻り真っ先にギルド長が居る部屋、通称「ギルド長室」に向かう。白と茶色を基調にシンプルな内装の部屋で真ん中には執務作業をする机もある。他は来客用の為のソファーと机があり、壁際に調べ物用の本棚と棚が、ボールスはカインの対面のソファーに腰を下ろしダンジョンで起きたことを掻い摘んで話した…少しボカしてだが。


「――ふむ。そんなことが起きていたとは…それも不審者か。街の警備も強化しなくてはならんな」

「ですね。相対した不審者達もそこまで強いと言った感じの相手ではありませんが、並の冒険者には少々荷が重いかと。何よりも「増殖の罠」を故意的に発動させる何かがあるなら…」

「少しこちらも考えなくてはならんな。ただ、今回もボールス君には損な役割をさせてしまった」


 こちらの話しを真面目に聞いてくれるカインさんは労いの言葉をかけてくれる。少し脚色してとしては申し訳ない気持ちだが。


「いえ。これで少しでも街のみんなが心地良く過ごせるなら」


 模範解答のような返答で返す。


「ありがとう。君が居てくれて助かってるよ」

「お役に立てているのなら」


 自分は苦笑いでその内面を悟らせることなく。ボールスが捏造した内容はこうだ。


 『ルクスダンジョン』で初心者達を助けた後、一人で調査していると不審な人物達を見つけた。後を付けて探ってみた結果、何やら怪しい儀式をしていたためこの頃冒険者が失踪をする原因を作る人物達だと確定。直ぐに動いて捕まえた。捕まえたはいいもの途中魔物達の横槍が入り、襲われた際に不審者達は帰らぬ人へ…カインにはそう伝えた。


 カイン自身ボールスの発言を何も疑う様子もなく軽く聞き受け入れる。


 【魔物氾濫スタンピード】を終えてからカインさん含め街のみんなが俺に絶対的な信頼をおいてくれて助かっている。助かっているけど…。


 ボールスとて本当の事実を話しても良かった。しかし話しをして厨二病と疑われる恐怖。おかしな目を向けられるのではないかと無心してしまう想い。せっかく取り戻した今の地位を取り零し水の泡にするのは勘弁。なので慎重になってしまうのも仕方がない。


 不幸中の幸いか入手した「呪具」がネックレスで助かった。今は服の中に納まっているので何か無い限りは見られる心配はない。アレが指輪とか目で見てわかる物だったら説明に困っていただろう…コルデー達女性陣に見られたらと思ってしまうのはこれ如何に。


「まあ。その件はこちらで根回しをしとく。その話は一旦終わりにして。そろそろ冒険者のランクを変える気はないかい?」


 アレコレと模索していると話を自己で纏めたであろうカインさんが俺の顔を凝視して問う。その瞳には期待の色が見える。


「あぁーその、まだ俺は「D」ランクでいいと言いますか。えっと…」


 俺はカインさんからの何回目であろう問いにうまく答えが出ず目を逸らしてしまう。


 ボールスと冒険者組合ギルドがお互いに謝罪し手を取り合った翌日。カイン含む冒険者や職員達の間でボールスのランク昇級の論議が行われる。以前の話し合いの結果冒険者ランクの昇級は「今は大丈夫」と話が纏まった。それを周りが許さない…というか

 実力がありそれをひた隠し冒険者として過ごすのは個人の自由だから良い。ただボールスのことを何も知らない周りから今回の一件も含めて「D」ランク冒険者という理由だけで馬鹿にされることが嫌だった。どうしても納得がいかなかった。ボールスの冒険者経歴と年齢を考えると「C」か「B」ランクはないと馬鹿にされてしまう世界なのだ。

 ボールス本人は気にしないし逆に「D」ランクという低ランクで動きやすいので助かっている。「C」ランクになると周りからの信頼や信用の獲得が容易になり旨みが増えることは間違いない。しかし一方で行動範囲が決められ、「自由」が効かなくなるのも事実。それに貴族との付き合い、お偉いさん方の付き合い。コルデー聖女達だけでお腹いっぱいなので勘弁してほしい。


 俺にも「D」ランクを保守する理由があるんだよなぁ。


「わかった。ただ君の一言さえあればいつでも冒険者ランクを昇級できるからな」


 カインさんは少し残念そうな顔を作るが俺の意見を尊重して強制はしてこない。ギルド長という立場から一応、話はしたという体が欲しいのだろう。


「今は考えていませんが、いつか良い話を聞かせれるように頑張ります」


 申し訳ないという思いを胸にしまい込み頭を下げる。それから少し仕事とはまた別にプライベートの話を一言、二言話してお開きとなった。


「――疲れているのに私の話に付き合わせてしまいすまなかったね」

「いえ。俺もタメになったので…娼館の話とか」


 ぼそっと小声で呟く。ここがギルマスの部屋だからと言って誰が聞き耳を立てているか分からないからな。


「ははは。お互いゆっくりできる時間が訪れたら行こうか」

「その時はお供します」

「私の方こそ楽しみにしてる。さて、ボールス君も疲れただろ。今日は宿屋に戻って休むといい」

「お言葉に甘えます」


 お互い話しを終えるとボールスは立ち上がりドアの前で「失礼しました」と一礼。ギルド長室を後にする。


 部屋から退出して階段を下っていると紫色の髪を揺らしてこちらに向けて歩いてくる人気ギルド嬢のポーラさんとたまたま鉢合わせた。ポーラさんはその美しさと有能さからカインさんの司書的ポジションだったりする。


「――あ、ボールスさん。ギルマスとのお話は終わりましたか?」


 ポーラはおぼんを両手で持ち。おぼんにはお茶が入ったコップが二個。もしかしたらボールス達にお茶を持って行く最中だったのかもしれない。


 ポーラさんは俺に気づくと直ぐに微笑みかける。流石人気ナンバーワンと言われるギルド嬢。「ポーラスマイル」と呼ばれる天使のような笑みも健在だ。


「あぁ。ちょうど話が終わったところ。もしかしてそのお茶は俺達に持って行くようだった?」

「そうなんです。すれ違いになっちゃいました」


 ポーラさんは「えへへ」と苦笑いをしている。その仕草もまた様になっている。


「もし良かったら頂こうか?」

「本当ですか! せっかくなんで飲んで下さい!!」


 俺の言葉を聞いたポーラさんはパッと笑みを浮かべてくれる。どうやら正解だったようだ。なんか飲んで欲しそうな顔してたからな。


 おぼんの上にある一つのコップを手に取り飲み干す。


「うん。美味しかった。カインさんはギルド長室にいるから持って行くといい」


 お茶を美味しく頂戴すると伝える。


「お粗末さまです。そうですか。では私はギルド長室に向かいますね」


 ポーラさんはおじぎをしてギルド長室に歩いて行く。その姿を見送った俺は色々と大変そうだなと思いながらその場を後にした。



 ◇◇◇



「――今日もボールスを避けますかぁ〜気づいてはいないと思うので運が良いのですね。いずれお茶を飲むでしょう。その時には…」


 ポーラはギルド長室に向かい…直ぐに迂回してボールスの背中を眺め、怪しい笑みと言葉を残す。一瞬その天使のような微笑みを歪ませた。今は普段の表情に戻っている。


 そんなポーラは非公式である「ボールス様ファンクラブ」と呼ばれるボールスのファンクラブ会員ナンバー3だったりする。



 ◇◇◇



 冒険者組合ギルドを離れて「日の園宿屋」に来ていた。宿屋に着いてからミリナさんに恒例のお弁当の感想を伝え。いつものように少し談笑してから自室に戻って現在ベットの上に腰を下ろしている。


「――不審者達の魔力はどのぐらい奪えたかね。「ステータス」」


 不審者ABから奪った魔力が気になり「ステータス」をさっそく確認した。目の前に現れる半透明のボードを見る。



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ボールス・エルバンス 29歳 男


L v.46→48

種族:人種

ジョブ:性技

サブジョブ:戦士


魔力:89000→97600(+8600)

筋力:1320→3020

防御力:730→950

魔防御力:400→630

素早さ:1800→4500

運:50


 ※()内は不審者ABから奪った魔力


加護:なし


スキル: 剣術lv.2 体術lv.2 身体強化lv.5 氷魔法lv.0(開花してない)性技lv.7 絶倫lv.9 性欲lv.10MAX 棍棒術lv.5 繁殖 悪食 鑑定lv.1


ユニークスキル:強奪lv.5


属性:氷・無


状態異常:正常


持ち物:なし


所持金: 146万ベル


 

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「ほうほう。「8000」以上も。【強奪ゼアスチール】で奪って自分の魔力になるのは半分だとしても多いな。流石厨二病」


 俺は感心し頷く。


 この数日間で劇的な強化を果たした。魔力に関しては「S」ランクの冒険者ともタメを張れるレベルの領域に達した。それも全てダンジョン様様だ。


 少し裏話をするとポップする野生の魔物達は理論上何処に出てくるかも多く出る出現場所なども不明。魔物の住処を見つけるか冒険者組合ギルドの『クエスト』依頼書を見て魔物達を討伐する。又は今までのボールスがやっていたように運任せに『野良狩り』をして魔物を探して討伐するぐらい。

 その点、ダンジョンでは魔物は倒してからのポップ、リポッブ場所が決まっており。倒してから数分したら直ぐに魔物が沸く。なので【強奪】という生物のステータスを奪う悪魔のようなスキルを持つボールスからしたらその場に待機するだけで楽に魔物を倒しステータスを奪える。毎日がボーナスタイムとなり、【強奪ゼアスチール】を使えるようになってからはダンジョンに住む魔物相手に手当たり次第という体で魔力を奪い続け、気づいたら魔力の数値がおかしく…正直、もう魔力がなくなる心配はないように感じる。


「理論上、万が一魔力が尽きた場合でも近くにいる生物の魔力を奪えばいい。馬鹿げている話だが…【強奪ゼアスチール】は


 そのことを自分で口にして「規格外だな」と言葉を溢す。


「試しに「魔封じのネックレス」とやらに魔力でも込めてみるか…どうせこの後寝るだけだし」


 その短絡的な考えで首元にあるネックレスに触れて


 その行為が何を示すかも知らずに。


「…こうか? お、吸われているような感覚が…これは、なんだか気持ち…い?」


 その日ボールスは気絶をするように倒れる寝る。自分の魔力が高くなったことで浮かれて慢心した末路を…。

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