第41話 呪いの 装備を 手に入れた


  

「……」


 完全に戦意損失状態に陥ったウィルソンを横目で見てその姿では何もできまいであろうと、自分の新たな力について考察していた。



 【強奪ゼアスチール


 新しく覚えたスキル【強奪ゼアスチール】。このスキルは元の【強奪】のレベルが上がった時に使えるようになった派生スキル。今回本番で初めて使用した。


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・強奪lv.5


 レベルに応じてスキル効果変化。

 各ステータス獲得量「1.5倍」

 各スキル獲得値「微小」

 ※任意で「ステータス」の項目を一つ上昇しやすくする。

 ※任意選択:魔力(固定)


 ・強奪ゼアスチール


 【強奪】派生スキル。任意選択で選んだ「ステータス」の項目に応じて効果変化。


【効果】

 対象を「5秒間」手で触れると発動。触れた対象の「魔力」を奪う(【強奪ゼアスチール】を行使された対象はその「ステータス」は金輪際反映されない)。任意選択の「ステータス」の変更不可。


 ※【強奪ゼアスチール】は対象者の魔力を全て奪う。奪った魔力の半分が使用者の物となる。


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 【強奪ゼアスチール】の効果を調べた結果このような説明が出た。


 始めの頃から強い強いとは思っていたもの正直これほどまでとは…マジもんのチートだ。それも5でコレだ。


 魔法職関係なく「魔力」と呼ばれるものは大なり小なり、「スキル」を行使する際に確実に使用する。そんな大変重要な物を触れただけで「奪い」、使。魔法職なら死活問題だろう。

 それもこのスキルの最も恐ろしいところは他にもある。もし「魔力」ではなく「体力」と選んでいた場合。対象の「体力」を奪う=「」だ。説明を見る限り今後の変更は「不可」。



「これで形成逆転だ。そちらの態度次第で今後の対応は変わる。さて、ハキハキと知っていることを話そうか?」


 相手の意識がまだある内に話を聞き出そうとウィルソンに語りかけ対話の機会を作る。


 甘いかもしれないが不審者達の命までは奪わないつもりだ。人を殺すのに抵抗があるのも事実だが。無駄な殺傷はしたくない。


 今回はあくまで調査のつもりだった。不幸にも不審者達の巣窟を見つけてしまった結果、これ以上無駄な労力は困る。


「クク、ク。誰が、話すものですか。貴方に話す、ぐらいなら死んだ方が、マシです」


 辛そうな表情も一変。嘲笑い見下したような視線を向け、こちらの意見に背く。


「…そうか」


 こういうパターン流れになることは想定済みだ。


「なら、もう一人の仲間の魔力を奪って聞き出すまでだ」


 今も意識を戻さない不審者Bの元へ向かう。


「それも、無駄、ですよ」

「…何故言い切れる?」


 背後から聞こえたウィルソンの声を拾い、振り向き様に聞く。するとウィルソンは質問に答えることはなく、突然自身の胸に持っていたナイフを突き立てる。


「こういうこと、ですよ…グフッ!」

「な!?」


 患部からは血が溢れ、早く処置をしないと手遅れになる。ナイフを何処に隠し持っていたのかは不明。ただただウィルソンの奇怪な行動に目を見張って思考が停止してしまう。


「……ゴフッ!」


 ウィルソンの不可解な行動に面くらい動けないでいると遠くから吐血を吐く声が聞こえた。そのお陰で意識が戻る。恐る恐るそちらを見ると…さっきまで微動だにせず倒れていた不審者Bが口から血を流し胸を押さえ、苦しそうに顔を歪ませて小刻みに震えていた。


「何が、起きている…」


 その光景を見て理解が追いつかず目の前の男に顔を向ける。男、ウィルソンは狼狽えるこちらの姿を見て嗤っていた。


「クク、ク。甘い。甘いんですよ。貴方達、『正義の剣ブレイバー』は」

「……」


 ウィルソンは不審者Bと同じように自分も吐血を吐く。

 

「ただ、気が、変わりました。私を倒した褒美です。貴方、には少し、話しましょう。どうせじき、私は死ぬ」

「……」


 話しを聞く意味などない。話しを聞く価値などない。俺は【回復魔法】は使えない。それに今持っているポーション類じゃ傷を治せても失った血は戻せない。だから、最後の花向けとしてその話しを聞くことを選んだ。


「…『アーク教』は、今も他の国、または街で暗躍しています。貴方はそんな彼らに今後、狙われる、でしょう。私を…『信徒』を倒したのですから…」

「『信徒』」


 その話を聞いてこれまでのことを思い返す。もしかしたら厨二病などではなく、本当の話事実なのかもしれないと思い始めていた。


「そうです。『信徒』です。ただ私達が、信仰しているのは「神」などという曖昧な存在ではありません。我が主にして我が教団が信仰し、我々に福音を授け、寵愛、してくださる偉大なる存在…「悪魔王」様です」

「……」


 と、思ったがやはり確実に厨二だわこれ。「神」とか「悪魔王」とかもう小学生が考えた妄想にしか聞こえねぇよ。にしてもなんで厨二病ってそんなことをスラスラと話せるのかねぇ? 設定を作ってるのだろうがよくもまあそんな生産性の無いことを思いつくわ。えぇ。


 今も何かペチャクチャと話す厨二病患者にジト目でその生態を観察する。


「――ククク。なので貴方はもう詰みです」

「…え? あぁ、そう」


 やべ、途中から聞いてなかったわ。てかこいつ死ぬとか言いながら全然話すじゃん。


「その間抜け面を、いつまで続けられるか」

「誰の顔が間抜け面だ!…いや、案外その通りかも」


 自分もといボールスの顔を思い出して同調してしまう。


「『アーク教』は裏切り者を、絶対に許しません。そして大切な情報を、保守するために、我々の「死」で秘匿する、処置を施すのです。その点、貴方は『アーク教』の「真実」を知ってしまいました。抜け抜けと私の話を聞いていた、お馬鹿な貴方は終わり、ですよ。ククク、ククククク」


 何が楽しいのか不気味に嗤う。


 コチラとしては厨二病の戯言など全く聞いていなかった為、早く死ねやとまで思い始めていた。


「……」


 そんな俺の表情と無言をどう捉えたのか小憎たらしい顔を作る。


「私が花向けに残したのは、貴方への『呪い』です。その業を背負いながら、惨めたらしく、残りの生を謳歌しなさい」


 そう満足げに語る。そして最後に何かを告げようとしたその時、天井が崩れ瓦礫が落下した。恐らくウィルソンが暴れた際に天井を傷つけた時にできた亀裂。そこから破砕したその瓦礫はピンポイントにウィルソンの顔に吸い込まれるように…。


「……」


 勿論落下する瓦礫の存在に気づいていた。ただペラペラと楽しそうに話すので最後ぐらいは邪魔をしないでやった。俺って優しい。


 そしてその時が訪れる。分かっていたからその場を一足先に一歩で離れた。


「あぁ、「悪魔王」様に祝ふぇぶっ!?――」


 何か最後ぶつぶつと語っていたが瓦礫に潰されたウィルソンの顔は見るに耐えない物に。モザイク案件やね。


 ウィルソンモザイクから顔を外し語る。


「…多分、お前がペラペラと内部情報を話した「悪魔王」とやらからの天罰だよ。良かったな最後に主からの天啓だ」


 それだけ告げると不審者Bの元に向かい心臓が止まっていることを確認。ウィルソンモザイクについてはあの状態で死んでいなかったらただの化け物なので調べるつもりはない。


 腕を組み今後の予定を考えていた。


「…どうするべコレ。不審者の死体が二体あるカオスな空間。一人は変死体だし…よし。見なかったことにしよう。大丈夫。きっと勝手に自然に帰るだろ」


 自己完結をし、初めから気になっていた祭壇に足を進める。


 祭壇は赤と白色の木製で作られた普通のもの。祭壇自体はシンプルかつ小さい。気になることは一つ。さき倒したウィルソンを凌ぐ魔力の残滓が祭壇近くで帯びている。供物などを祀る台に何かあると、魔力の白い残滓を辿る。


「…ネックレス?」


 祭壇の台には見た感じ金属でできている純白で小綺麗なネックレスが祀られていた。これが漆黒の何かだったら「うわ、呪いの呪具か何かかよ」と思うがそうでもなさそう。


「いやでも。あの不審者達が居た空間にある祭壇だもんな。そこにあるお供え物とか…アイツらの顔、よく思い返すと○人○貞みたいな顔していたから。ワンチャン「童○の呪い」とかかけられてそう。そして臭そう」


 不謹慎この上ないことを口にしながら他に何かないか探っていた。その時祀られているネックレスの近くに小さな木箱が置かれていることに気づく。


「宝箱か?」


 ダンジョンには各フロアまた魔物を倒す時、フロアボスを倒す時に「宝箱」と呼ばれる物を落とす、また見つける時がある。その木箱を「宝箱」と認識し、興味本位で手を伸ばしてしまう。そして光り輝く木箱。


「ぬぉっ!? 目が!!」


 目の前が光り輝き反射的に目を瞑った。


 その光も一瞬ですぐに治る。ただ直接両目に眩い光を浴びたため暫し目を擦っていた。


「カァー油断した。罠だったか。ただ…何が起きた?」


 目を開けれるようになってから周りを見て自分の体、体調を確認する。特に違和感もなく外傷は見当たらない。


「なんだ、子供騙しかよ。ふざけやがって。どうせあの童○共の仕業だろ」


 しらけた俺はを撫でる…は?


 自分で自分の行動の理解ができなかった。その撫でていた物を恐る恐る見る。


「な、なんで、ネックレスが俺の首に…」


 首にはいつの間にか祭壇に祀られていた純白のネックレスが装着されていた。祭壇を見てもネックレスが消えている。怖くなりネックレスを外しにかかる。


「ぬぐぐぐぐくっぅ!!!! は、外れねぇ!!!」


 しかし自分の体、肌と同化したかのようにネックレスは一ミリたりとも動かない。そこである仮説を立てる。


 自力で外せない=このネックレスは某ゲームで出てきたような「呪いの防具」改め「呪具」なのかもしれない、と。


「か、【鑑定】!」


 急いでそのネックレスに触れ【鑑定】を使った。この時ばかりは【強奪】で【鑑定】を入手できていて良かったと心から思った。



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 ・魔封じのネックレス(呪い)


 何かが封印されている痕跡がある呪われたネックレス。

 解放されるには一定の「魔力」を込めること。この「呪具」は主人を選ぶアーティファクト。


 ※一ヶ月以内に外さないと死にます


 PS.解放されたかったら魔力を溜めるんだゾ?


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「……」


 正直説明を見てムカついたね。うん。それもモノホンで「呪具」だったわ。えぇ。ただなぁ、一つだけ俺は物申したい。


「…なに、自然にPS付けてんねん! 「〜ゾ?」とか気持ち悪いんだヨォ!!!」


 「ゼェハァ、ゼェハァ」と荒い息を吐く。


 テテテテッテッテ〜ボールスは不審者の討伐と引き合えに「呪具」を手に入れた〜


 そんなやかましい声が何処からか幻聴のように聞こえるように感じた。それほどまでに疲れ果てていた。

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