第40話 魔法師殺し
ウィルソンの体を覆うドス黒い魔力が高まっていく。そして創世された黒い魔力の蔦はウィルソンを包み込み黒い膜を覆う。
「……」
こういうの知ってるぞ。どう見てもあれだよなあの…変身だよな。攻撃しちゃダメ?
そう思うもなんとか攻撃をしたいという衝動を抑え踏み止まり耐える。
「――ハァ!! これが本当の我の真の姿ダァ!!!!」
数秒後変身が終わったのかウィルソンは叫ぶと溢れる魔力を解放して体に纏わりついていた黒い蔦でできた膜を吹き飛ばし、その姿を顕現させた。
体は人間だった時より大きくなり、着ていたローブが体に同化し、ローブと同色になった上半身が露わにされている。
魔力の暴走で筋肉も肥大化し膨張している。髪色は変わらないが顔の半分は黒いペイントのように真っ黒に染まり、その身に宿す魔力の量は純粋に上がっている。
「しかし、醜いな」
俺は変身し、変わり果てたウィルソンを見て正直な感想を口にしていた。
「な、なんだと貴様!!」
ウィルソンはボールスの言葉を拾い上げてその言葉を理解し、激怒する。
その姿を見て肩を竦める。
「そう怒るな。実際醜い。魔力は垂れ流しになり汚い。魔力制御ぐらいどうにかしろ。強くなったようだが俺から言わせれば中途半端。未完成だな」
シノ達と戦った時のような畏怖が感じられない。だとしても油断はしないがな。
思うことをそのまま伝えた。ボールスとしてはシノや『聖堂騎士団長』のオーラス達という限りなく「強者」と対峙しているからか目の前の相手が劣って見えてしまう。
「…ならば我の力を見せよう」
ウィルソンは杖から魔力を解き放つ。魔力はウィルソンの目前でいくつかに分かれ形を成す。ドス黒い魔力が赤く染まり炎の槍に変化したものが10本ほど宙に空く。
「へー」
【
目の前の魔法を見てボールスは感心していた。ウィルソンが使った魔法は中級炎魔法の【
ただ、まぁ。
「だからどうしたって感じだけどな」
それでもボールスは余裕の表情で煽る。
「いいだろう。我ら『アーク教』に仇なす凡夫風情、この無尽蔵に湧き立つ魔力から生まれし炎の槍をその身に受けて消え失せよ!!」
ウィルソンの声に反応して【
「暑苦しい。こちらも応戦だな――【スイング・蓮撃】!」
ボールスは棍棒の取ってを右手で握りしめて振るう。振るう。振るう。その度に真紅の刃、『
「ば、馬鹿な!! ありえん!!」
自分の魔法を軽々く撃ち落とすボールスを見てウィルソンは後ずさる。
「これが事実だ。現実を認めろ厨二野郎」
数秒で全ての【
「ぐ、ぬぬぬぅ。ならばこれならどうだ!」
ウィルソンは無駄な足掻きをやめない。杖を前に掲げ魔力を解放する。その魔力は先程と同様にウィルソンの目前でドス黒い魔力がいくつかに分かれ赤く染まり形を成す。炎の槍に変化したものが今度は30本ほどあった。
ただ数を増やしただけか? いや、何かあるのか……さっきと同じ要領で叩き落として様子を見るか。
「ほら、こいよ。相手をしてやる」
俺はあえて右手に持つ棍棒を肩に乗せ、煽るように左手の薬指でクイクイと挑発する。
その姿にウィルソンは怒る。
「舐めるなヨォ!!!!」
ウィルソンの憤怒の声に反応して【
「チッ。狭い空間であまり火を使うなよな――【スイング・蓮撃】!!」
俺は空間の酸素が薄くなることを危惧してさっきよりも早く相手の【
「…あはぁ」
「――ッ」
自分の魔法が無効化されているのにウィルソンが不気味に笑ったように感じた俺は油断なく【
「……」
その時いくつかの【
そういうことね。
ウィルソンの狙いに気づいたので【
ボールスに迫る十数本の炎の槍。
「――ココだ――【スタンプ】!」
【
すると打ちつけた空気全体に魔力の衝撃が反響する。【
「う、嘘、だ…」
自分の最高火力の魔法が跡形もなく消されたことに上手く言葉が出ない様子。
「で?」
俺は【
「あ、あぁ…」
【
ボールスが使った【スタンプ】は【棍棒術】のレベルが上昇したことで覚えた新しいスキル。ちなみに【スイング・蓮撃】はボールス独自の蓮撃技。
「さぁ。もう終わりにしようぜ。お前じゃ俺に勝てねぇよ」
こちらに今も狼狽えた顔を向けるウィルソンに俺は問い掛ける。ただ奴の様子が少しおかしいことに気づく。
「わ、わわわわ、われ、我は、私は、選ばれし者。「悪魔王」様の寵愛、ちょうあい?――ちょうあいちょうあいちょうあいちょうあい! 寵愛を受けた、者だァァ!!」
両手で頭を抱えて狂ったように「寵愛」と叫ぶウィルソンの体から今までとは比にならないほど濃密で歪な魔力が膨れ上がる。その魔力はウィルソン自身を包み込み膨張を続ける。
「チッ! んな大袈裟な魔力溜めて自爆でもするつもりか。あんな魔力解放したら祭壇ごと吹き飛ぶぞ…」
俺は棍棒を腰に吊るし、無手の状態で右手だけに魔力を籠める。淡白い魔力の粒子が右手に貯まる、貯まる。
「あ、ガァァァァァ!!」
既に理性はないのか魔力に支配されたウィルソンは獣のような雄叫びをあげる。雄叫びに呼応してウィルソンの体から放出されるドス黒い魔力の蔦が見境なく洞窟内を攻撃する。
不審者Bについてはボールス達から少し離れた場所に倒れているので攻撃対象外だろう。正直に行ってしまえば敵なのでどうなろうが勝手だが。一人は情報源なので生きて貰わなければ困る。
「…シッ」
右手に溢れんばかりの魔力を籠めて地を駆ける。電光石火の如く一歩でウィルソンの懐に潜る。俺に気づいていないのかはたまた気づくほどの理性を保っていないのかはわからない。ただ俺は目の前の敵を射抜くべく腰を落とし、右手を弓なりに引く。
「オボェァォァェェァ!!!!」
ウィルソンは防衛本能からか獣のように叫び、溢れる魔力の暴風が俺を排除しようと襲うが両足に通した【魔力強化】のお陰で不動のように動かない。
「これで、終いだぁ!!」
ウィルソンの胴体目掛けて正拳突きを放つ。その時に「パリン」という【
「うおおおおぉおぉぉぉ!!」
そのまま一撃で決めると想いを込めて突き進む。
「グボッォォォォァ!?」
身を守る物がなくなったウィルソンはボールスの正拳突きを土手っ腹に炸裂した瞬間悍ましい叫び声を響かせて、口から血を流す。
致命傷だろう。俺の手に肉を撃ち抜く感覚が伝わる。ただなんだこの感触は。俺の拳を反発するような…。
気づいた時にはウィルソンに攻撃した右腕が徐々に返されていた。それにその体は地面に魔力で固定しているのかビクともしない。
「――ッ」
マジか。殺さない程度だが本気で殴ったぞ。それほどまでに魔力が暴走し濃密なのか。ならしゃあない。その魔力…奪うまで。
ボールスは右手から力と魔力を抜く。ただウィルソンの体に触れる手を離さない。そして余命宣告を告げる。
「――告げる。我、傲慢なる者、魔を奪い支配する者、その力を寄越せ、【
俺は切り替えてその一言を告げる。一呼吸入れた時、右手で触れているウィルソンの体が蒼白く光る。
「グオォォォォァ?」
一瞬、ウィルソンは何が起きているのか分からず声を唸り上げる。それも一瞬で変化が起きる。ウィルソンの体に纏わるドス黒い魔力が徐々に弱く弱く収縮していく。洞窟を攻撃していた魔力の蔦は根本から枯れ。ウィルソンはその体を維持できなくなったのか体全体を震わし縮んでいく。
「アァァァァァアガっ、ァァ、タタタ、タ、ス、ケ、てェェェァァ!?」
苦しみもがき、魔力を消失したウィルソンはその体を保つことができず元の体の大きさに戻っていく。
「……」
魔力を失った哀れな人間を見て俺は特に何も感じなかった。それがお前の行き着いた末路だとしか感じない。
「あ、あぁ、あぁぁ」
一瞬で魔力を失い体がミイラのような干からびた姿に変貌したウィルソンは微かに動くが既に死に体。目を通して視てもウィルソンの体の魔力は微弱すらない。魔力が本当に失われたことがわかった
俺は倒れ伏すウィルソンの元に散歩でもするかのような軽い歩行で歩いていく。
「ご愁傷様。厨二病にしては強かった。あ、暴走していたからお前の魔力奪わせて貰ったからな」
「な、何を、言って…」
理性を取り戻したウィルソンはまだ話せる体力はあるようだ。
「んんー、説明めんどいが…要はお前の体内にある魔力を全て俺が奪った。お前は金輪際魔法を使えない、ってところだ」
「そ、そん、なこと。嘘、だ」
「嘘じゃねぇ。現にお前はもう魔法を使えないからな。嘘だと思うなら試してみろ」
俺の言葉を聞いたウィルソンは地べたに倒れたまま何かぶつぶつと呟く。そして少しして顔を青ざめこちらを見てくる。
ボールスは中腰になりウィルソンの目を見透かすように見る。
「人はよぉ。何かを失ってそれでまた何かを得て成長する生き物なんだよ。お前さんは魔力を失ったかもしれねぇが、厨二病や悪さなんて辞めて真っ当に生きろや」
俺はそれだけ言うと立ち上がりウィルソンを小馬鹿にしたように上から見下ろす。
「…何者、だ。貴様、は。何者、なのだ」
その言葉に俺は少し悩んだ末に答える。
「名は匿名。底辺冒険者代表。お前ら魔法師の天敵…『
俺はそう告げる。決して『初心者狩りのボールス』という渾名がお気に召さなかったわけではない。
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