第34話 閑話 女性騎士の…日常


 ◇



 私の名前はレイア・フレンツァ。「フレンツァ侯爵家」の一人娘にしてあるお方に追いつきたく『聖堂騎士副団長』まで上り詰めた騎士。


 今は聖女であらせられるコルデー様の御身を守る騎士を担っている。そんな私は騎士となり「女」を捨てた、筈だったのだが…あのお方、ボールス・エルバンス様と再びお会いし私のひた隠していた「想い」が溢れ出し本物だと実感した。


 ボールス様は私の恩人であり10数年前からお慕い申している殿方だ。私は彼に人生を救われた過去がある。その時から「恋」を実感したのでしょう。



 ただこの恋は叶わなくてもいい。でも、そばに居たいという想いは傲慢でしょうか?



 ◇◇◇


 

 ボールス様が街を守って意識を失われてから数日。毎日のように聖女様とオーラス団長達と看病に参りました。


 明日もいつも通りボールス様のお見舞いに行く…と思っていた矢先聖女様からあるお話をされます。


「レイアさん。明日は手が離せないのでボールス様のお見舞いをお願いできますか〜?」


 明日はたまたま聖女様がギルド長と街長と大事なお話があるということで私一人でボールス様のお見舞いに行って欲しいとのことでした。オーラス団長達がそばについているとのことです。


「はい。私でよければ」


 私は断る理由が無いので返事一つで了承します。


「良かったです〜ではお願いします〜」


 聖女様は私にそれだけ伝えると何かが入ったバスケットを手渡してきました。バスケットの上に白い布がかけられているので中に何が入っているのかわかりません。


『そのバスケットはボールス様の怪我を早く癒すがされていますのでボールス様の近くに置いてください〜』


 聖女様からそう言われていたので私は翌日いつものように二の鐘が鳴った頃にボールス様が療養している病室に向かいます。廊下を歩いていると「ボールス・エルバンス様」と書かれたネームプレートが見えて来ます。ボールス様の病室だと確認してコンコンと2回ノックします。


「ボールス様、レイアです。入りますね」


 私はボールス様が目を覚ましているという僅かな希望を持って病室に入ります。


「スー、スー」


 ボールス様はやはりまだ目を覚まさないようです。ただ規則正しく寝息を立てていますので安心しました。


「失礼します」


 私は病室内に入りそっとドアを閉め、ボールス様が眠るベットに近寄ります。まずは聖女様から託されたバスケットをボールス様の近くにある机に置き。部屋の空気を喚起するために窓を開け、私は近くにある椅子に腰を下ろします。


「…ボールス様。本日も快晴で御座います。今日も病室に来る途中に街の皆様からボールス様に宜しくと言われました。皆様ボールス様のことを心配しています。もう貴方は嫌われ者なのではないのですよ」


 私は窓から見える青空を見上げ聞こえていないとわかっていながらボールス様に話しかけます。


「ボールス様は団長。オーラス団長の話を聞いたら驚くかもしれないですね。彼も彼でボールス様に隠し通すのが心苦しいと言ってましたから」


 レイアは以前オーラスが話していた言葉を思い出し微笑む。


『私はこの件が片付くまでエルバンス殿に自分の存在を隠し通します。彼を信じていないというわけではありませんが、騙すならまずは味方から。何かの拍子にに私の存在がバレて警戒されてしまうと厄介ですからね』


 オーラス団長はそう言うと苦笑いを作って「騙すのは心苦しいので本当は嫌なのですが」と語っていました。


 敵を欺くために他の聖堂騎士達と同じ騎士服に身を包みレイアがあたかもコルデー聖女を守るリーダーと周りに見せるように細工していた。オーラスの『至聖剣』という渾名はどの国でも有名だがその姿を見たことがある人は少ない。強者だとその雰囲気、佇まいでわかるようだが。


 オーラスはレイアが所属する聖堂騎士の団を率いる統率者『団長』だ。レイアと同じでコルデー聖女が何者かに狙われているという話を受けてレイアと同様に今回共に行動している。

 本来なら皇国の守りの要を担う存在なので国に残り他の団員の見本となり『教皇ナーサリー』の護衛をすることが役目。しかし『教皇ナーサリー』自らオーラスにコルデーの面倒を頼み込んだ経緯がある。


「…しかしオーラス団長がいてくださり助かりました。私一人では聖女様もボールス様も救えませんでした。私はまだ未熟ですね」


 レイアは自身の口から弱ごとを吐露すると眠っているボールスの赤茶髪を軽くすく。


 私は自分の弱さを見せます。ただこんな不甲斐ない姿を本来ならボールス様に見せたくありません。寝ている今だけなら。


 レイアは自分とボールスの二人だけがいる幸せな空間で静かに過ごす。


「さて、良い頃合いですし私も帰り…あら。あれは――」


 体感で三の鐘の鳴る頃合いだと思い帰り支度をしようと立ち上がった時レイアの目にはとまる。

 レイアが見た物はボールスが寝る姿。そして白い掛け布団。その掛け布団は生地が薄いのか何故かボールスの下半身部分が少し盛り上がっていた。


「えっと、この膨らみは…?」


 初めなんだ?と思っていたレイアだがボールス=男ということを思い出す。


「〜〜〜!!!!」


 その答えに行き着いた途端顔を手で隠して声を上げそうになる。


 あ、危ないわ。病院でそれも今の、その…ボールス様の状態を他のお方に見せるのはいけないわ。えぇ、いけないわ。


「(チラチラ)」


 そんなことを考えながらレイアは手の隙間から布団越しでもわかるボールスの想像以上に大きくいきり勃つアレを見ていた。レイアとてしっかりと知識は持っている。が男性のだと。

 ただ経験もなくそう言った下世話な話をする相手が居なかった生粋の生娘であるレイアは気になってしまう。それも自分が大好きな男なら尚更だ。

 

「――確か、本当に確かですが。殿方の状態は苦しいのですよね。私が鎮めて…って何を考えてるの私は!」


 レイアは小声でゴニョゴニョ何か言うと自分自身にツッコミを入れるがまたチラチラと気になってしまうのかアレを見てしまう。レイアは椅子から立ち上がった状態からさり気なくボールスが横たわるベットに近づき、ベットの端にチョコンと座る。レイアからボールスのアレまで残り一メートルを切った。横目で見ると手が届く範囲内。


「(サッ、サッ)」


 レイアは病室の周りに目を走らせる。その姿は戦場で隠れた強敵を探す時のそれだった。誰もいなく気配が感じられないことを確認。


「はー、私も帰りますか〜しかしこの頃暑くなりましたね〜」


 右手を団扇にして顔に風をおくる仕草を何気なく行う。そしてそんな思ってもない独り言を呟く。

 その姿は不自然極まりない。レイアはフリーの左手をボールスの下半身にゆっくりと慎重に伸ばす。


        40㎝


        30㎝

 

        20㎝


        10㎝



 そして――



「――ん。ボールス見舞い来た」

「――ッ!!」


 開けていた窓から突然現れる不思議ちゃんキャットシーことルル。レイアは誰も居ないとタカを括っていた安心からか驚きすぎて勢いあまりボールスの下半身に顔からダイブしていた。


「? レイアは何してる?」


 その不自然なレイアの姿を見てルルは当然の疑問を投げる。


「あ、い、いや。これはだな。その、そう! アレだよ。ルルも知ってるアレだ!」


 レイアはテンパってしまい目を回し「アレ、アレ」と支離滅裂なことを連呼して何かを伝えようとする。


「…あれ?」


 レイアが言う「アレ」がわからずルルは小首を傾げる。


「そ、そう。アレだ。全くルルはアレもし、知らないのか!」


 突っ伏していた布団から顔を上げながら普段より一回り大きな声を出す。


「ん。ごめん。知らない」

「無知はいかんぞ無知は。ただ安心しろ。私は優しいから特別に教えよう。あぁ、特別だからな」


 内心未だにパニック状態のレイアはそのまま早口で矢継ぎ早しに語る。ルルに考える時間など渡さない。


「ん」


 ルルはレイアの「アレ」に食いついてくれる。その間レイアはボールスの下半身の異常がルルに見えないように体を動かす。


「そ、そう。アレは…ボールス様がスライムから稀に取れる「スライムゼリー」を欲しいと言っていてな。「スライムゼリー」を沢山取ってきた人には"何でも言うことを聞く"という権利を与えるらしい」

「何でも!」


 ルルは私の話を聞いて目を輝かせる。何とか適当に出した内容に反応してくれた。


「そ、そう。何でもよ。それよりも今日はエレノアは居ないのね?」


 そしてすかさず話題転換。


 ボールス様からそんな話聞いてないもの。もしボールス様が起きた時に私が言ったことが嘘だってバレたら…。


 自分の身から出た錆だが後のことを考えると今更になって怖くなる。


「ん。エレノアはユートとダンジョン。そう言えばエレノアもスライムがどうたらとか言っていた?」

「エ?…あ、あぁ。でしょう?」


 ルルから「スライム」の話題が出ると思っていなかったレイアは一応話を合わせる。


「うちも何でスライムかはわからないけど」

「ふーん。エレノアも探してるのね。ならルルも早く見つけないとダメよ?」

「ん。そうする」


 ルルはそれだけ言うと窓から出ていく。


「え、えぇ」


 帰りぐらいドアから出て行きなさいよとは思ったが単純で良かったと安堵する。


「…私も帰りましょう」


 レイアは顔を真っ赤にしながらフラフラとその場を後にする。


「…逞しいの、ですね…」


 ルルが突如現れた時ボールスに飛び込んだその時、自分の顔にナニが当たった。その大きく布団の上からでもわかる雄の匂いを嗅いでしまった。


 火照る顔で自分の顔にあたったモノについて考えてまた顔を火照らせる。



 ◇◇◇



「……」


 コルデーはレイアにギルド長と街長に話があると嘘をつきホテルの一室でレイアの行動を聞いていた。


「――むー。もっと楽しいことがと思ったのに〜レイアさんとルルさんは何を話していたのですか〜「スライムゼリー」? わかりません〜」


 レイアに渡したバスケットの中に入っていた通信の魔道具を通して盗み聞きをする。


 元々レイアがボールスに淡い恋心を持っていることを知っていたコルデーはレイアとボールスの二人だけだとどんな会話をするのか気になり今回の作戦に出た。しかし結果は何もわからない。


「やはり映像が見える遠見の魔道具ではないと厳しいですねぇ〜バスケットは回収ですね〜」


 コルデーは悪びれもせず淡々と語る。


 

 コルデーがバスケットを回収した翌日にボールスが目を覚ます。ルル辺りが持って来たであろう机の上に置かれている青い物体。「スライムゼリー」を見てボールスが驚くのはまた別の話。

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