二章 監督官始めました

前編 ダンジョンに出会いを求め過ぎました

第37話 ダンジョンに危険はつきもの


 ◆


 

 各地である噂が広まっている。


 それはダンジョンに挑んだ探索者たちが戻ってこない、地上にいる冒険者たちが失踪した…などなど。

 冒険者稼業、探検者稼業どちらとも自分の身一つで行う仕事。凶悪な魔物やトラップ、災害また悪人と相対することは避けて通れない。ただ、それでもこの頃の行方不明、失踪騒動は今までの比ではない。


 今では各地の国から冒険者組合ギルドへ、冒険者組合ギルドから各領地の領主へ、またその地に住む住人へ…と、騒動にならない程度に留めて伝令を出している。

 住民たちはさほど気にはしていないが、原因の糸口が掴めない上層部からしたら悩みの種となっている。

 


 ◇◇◇

  


 【ダンジョン】


 ラクシアに数多く存在する「地下迷宮」の総称。


 ダンジョンに存在する魔物は『ダンジョンコア』、通称と呼ばれる物質から漏れる「魔素」から生成される。

 ダンジョン自体の構造は主に「洞窟」だったり「森」「海」「草原」エリア等々そのダンジョンで空間が異なるのが特徴的な閉鎖的な空間。

 各階層には「5階」「10階」と「5刻み」で階層のフロア内に「階層主」と呼ばれる魔物が存在する。最深層では『ダンジョンコア』を守る「番人」がいるとか。


 ダンジョンにも階級が存在し、下級・中級・上級・最上級の四つがある。下級は10階層。中級は30階層。上級は50階層。最上級は…100階層以上と言われている。ルクセリアに存在する『ルクスダンジョン』は中級ダンジョンと調査の結果が出た。



 そんなダンジョンを探索する人種を人は『ラビリンス』と呼ぶ。


 管轄としては同じだが冒険者と探索者は似ているようで全く別物の存在。似ているものの例で例えるなら…あえて危険なものに挑戦する愚者または勇者。目指す理由は人それぞれ。それでも富や名声、私利私欲を求める人間。人の道を外れた外道。その他にも夢や憧れを糧に挑む若人が少なくない。


 冒険者が受注する『クエスト』では冒険者組合ギルドから依頼人を通して冒険者達に依頼される。それを達成して信頼と信用を得るのが冒険者。街と冒険者は共存関係とも呼べる。『野良狩り』はソロ専用。

 ダンジョン探索者。通称『ラビリンス』はダンジョンのフロアに隠されている「宝箱」と呼ばれる物を探して探索をする人種の由来だ。別名『トレジャーハンター』とも呼ばれる。人間の文化、叡智をその目で確認したい変人の集まり。そんな『ラビリンス』達が一番望む物が――『出会い』。


 新たな魔物。新たな知識。新たな魔道具。新たな技術。そして新たな新たな新たな――出会い。

 

 『ラビリンス』を志すダンジョン探索者達の多くは出会いに飢えていた。


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「――そっちに二体行ったぞ!」

「ちょっ!? こっちも手一杯よ!」

「悪い! 持ち堪えてくれ!!」

「嘘でしょ!?」

「二人共喧嘩してる場合か! まだまだ魔物は沸いてくるぞ!」


 魔光苔まこけと呼ばれるダンジョン内の灯りを灯す苔が照らす鍾乳洞のような洞窟内。ジメジメとした淀んだ空気。そんな洞窟内でとある5人の冒険者パーティは目前にいる沢山の魔物達に苦戦を強いられていた。


 『クエスト』『ラビリンス』関係なくパーティメンバーは原則として二人以上を推奨している。その理由は単純明確で一人よりも二人。二人よりも三人と。人は多ければ多いほど生存率は上がり死亡のリスクが減る。

 例外はあるが今は省こう。パーティ編成だと前衛が三人。後衛二人が望ましい。それも後衛に【治療師】と呼ばれる【回復魔法】を使える術者がいると安定して戦える。

 その点この5人パーティは前衛が三人。後衛が二人いるため安定している…筈だった。ただこのパーティはダンジョンの魔物狩の慣れからダンジョンを少し侮っていた。

 ダンジョンは魔物だけが敵ではない。ダンジョン内に内包される「罠」というとなる。他にも同業者の妨害工作もある。「時の運」というのもあるが彼らはまだまだ爪が甘かった。


 そして今回このパーティに襲いかかったのは「罠」の中でも最も厄介な物だ。


「くそっなんてついてねぇ!!」


 リーダーと思しき皮鎧に身を包む燻んだ茶髪の若き男性冒険者は片手剣を無造作に振り回して魔物達の接近を防ぎながら泣き言を叫ぶ。



 【増殖の罠】


 ダンジョンにある有名な「罠」の一つで「宝箱」や高価な物に扮して冒険者達を騙し嵌るダンジョンの洗礼。


 「増殖の罠」のいやらしい点は外からフロア内に入ることは可能でもそのフロアにいる内側の人間は脱出不可能なのだ。『転移の結晶』という魔道具を使って脱出することは可能だがそんな高価な物は初心者の彼らが持っている筈もなく。

 触媒となっている物を探すか決まった数の魔物を討伐すると自動に止まる。それができなければそのフロアにいる冒険者達は"暴力"という名の理不尽な魔物達の総攻撃に合い亡き者となる。


「そんなこと言っている場合じゃないでしょ! 今は触媒になっている物を探すか少しでも多く魔物を間引かないと!」


 男性冒険者の近くで戦っていた短剣を持つ軽装の赤髪の女冒険者が焦り顔で叫ぶ。


「んなこと言ったってわかってる!」

「ならもっと手を動かしなさいよ!」


 二人は言い合っていた。パニックになってしまうのはしょうがない。不足の事態なのだから。


 ただ魔物達は止まってなどくれない。


「キャッーー!!」


 後衛にいた仲間の悲鳴が上がる。


「ルーナ!」

「ルーナちゃん!」


 その声が後衛にいた少女のものだと気づき二人は声を上げる。しかし自分達の周りにも魔物達がいて身動きがとれない。少女の近くにはもう一人の女性を守る「タンク」の男性が居るが襲いかかる魔物の攻撃を防ぐことで精一杯だ。


「―― ――!!」


 スケルトンと呼ばれる体全体が人骨でできている魔物が声にならない叫び声をあげてその腕を持ち上げる。周りにはスケルトン意外にも沢山の魔物がいてルーナと呼ばれた少女は襲われそうになっている。

 ただそれは自然の定め。冒険者、探索者と呼ばれる人物は危険に飛び込むことから短命な人が多い。一日一日人知れず魔物に敗れ命を落とすのはザラだ。今いつものように小さな灯火が消えようとしていた。


「やだやだやだ! 怖い、怖い、神様――」


 少女は恐怖から腰が笑ってしまいその場から動けなくなってしまう。あとは自分が生き残るために信じる神に祈ることしかできなかった。




「――見つけた」


 恐怖あふれる戦場の中灰色のローブを纏う一人の人物が外から増殖の罠が発動しているフロアに入る。


「我。力を求む者。心身共に強くあらん、【ブースト1段階アインス】――【スイング】!」


 その人物は詠唱を唱え自身の身体強化を施し、その勢いで魔物相手だけに当たるように最小限の威力を込めて武器を振るう。


 何処からか男性の声が聞こえる。そう思った時少女と魔物との間に一陣の風が吹く。


「きゃっ!」

「―― ――ァァ!?」


 風が吹き抜けるとスケルトンに真紅の刃が突き刺さる。刃に貫かれたスケルトンは断末魔を哭き魔石へ。その後にズドーーーーンッという爆発音。近くにいた魔物達はその何者かの攻撃に巻き込まれる。気づいたら少女の周りに魔物はいなくなっていた。あるのは無数の魔石だけ。


「――かみ、さま?」


 少女は一瞬のことで何が起きたのかわからず呆然としてしまう。戦場でその隙は致命的だ。だが冒険者達を襲っていた魔物達も幸いなことに突然のことで動きを止めていた。


「何が」

「誰?」


 他の冒険者達も少女がいる方向に顔を向ける。そこには少女を守るように灰色のローブを纏う人物が立っていた。


「あぁ、俺は怪しい者ではない」


 ローブの人物は視線が集まっていることに気づき被っていたフードを外す。


「助けに来た。よく頑張ったな」


 そこには棍棒片手にこちらを安心させる穏やかな笑みを見せるボールスが居た。


『『ボールスさん!!』』


 その場にいた冒険者達は声をそろえる。


「さて、他にも増援は来るが先にカタをつけるか。君達は今のうちに俺の近くに」


 周りにいる動かない魔物達を見て速やかに伝える。


『『は、はい!』』


 冒険者達は武器をしまいながらボールスの攻撃の余波で開いた通路を進み近づいてくる。


「積もる話もあるだろうが、終わらそう」


 背後に後輩冒険者を庇い灰色の棍棒を構える。「英雄」の姿。







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