第26話 閑話 鬼気奮迅の守人



 俺の名前はクトリ。「D」ランク冒険者だ。


 『ルクスダンジョン』近くに【魔物氾濫スタンピード】が発生したということで「C」ランク以上の冒険者達で急遽討伐隊を作り魔物達の殲滅に向かった。


 残された俺達「D」ランクから下の冒険者達は万が一街に魔物達が侵入した時の街の要として聖女様とギルマスと共に街に残った。そんな時突如街に魔物達が現れた。一時期パニックになったがギルマスや聖女様の言葉で俺達は正気を取り戻した。


 そんな時冒険者組合ギルドに"ある"人物に助けられたという街の住民達が血相を変えてやってきた。


 その人物の名前を聞いた聖女様達以外の俺達冒険者は驚いた。それはそうだ。冒険者組合ギルドで問題児の「ボールス・エルバンス」にのだと言うのだから。


 俺達はその事実を信じられず、唖然としてしまう。それでもギルマスの命で街の魔物の殲滅及び住民の救助に向かった。その時俺は仲間の「D」ランク冒険者やその下の冒険者達数名で動いていた。そこである光景を目の当たりにした。


 そこには話が上がったボールスが魔物相手に一人で対人していた。


「――オッラァ!!」

「グガッァ!?」


 三メートルほどの赤黒い鬼のような面と巨体を持つ「C」ランク指定の魔物、オーガ。ボールスは手に持つ灰色の棍棒でオーガの胴体を殴りつけて吹き飛ばしたのだ。


『『――』』


 その信じられない光景を見てまた唖然としてしまい俺達は誰一人として動けなかった。


 ボールスは吹き飛ぶオーガを電光石火の如く勢いで追尾する。建物にぶつかり倒れるオーガに近づくと頭をかち割るように真前に上げた棍棒を叩きつける。「ズガーンッ」という到底人の手で出したとは思えない音を轟かせる。爆音が鳴りオーガの頭は街の地面に螺旋状の亀裂を作りめり込む。


「ガッ、ァ、アァ」


 まともに抵抗すらできなかったオーガは魔石になる。そのことに「凄い」と思っていた俺達の方に顔を向けるボールス。


「死ねぇ!」


 ボールスは振り向き様に持っていた棍棒を俺達に向けて投げつけてきた。


『『なっ――!?』』


 その行動の意味が理解できず動けなかった俺達は目を瞑る。


「グキャャッァ!!?」


 自分達には痛みも衝撃も伝わって来ず近くから魔物の悲鳴が聞こえる。そちらを見ると「C」ランク指定のパラサイトスネークの顔面に棍棒がめり込んでいた。


 ボールスがパラサイトスネークの動きを止めていなかったら俺達は……。


「テメェら邪魔だ!! ボサッとしている暇があるなら少しでも街の住民を避難させろヤァ!」


 恐怖に駆られていた俺達にそれだけ叫ぶと既に虫の息のパラサイトスネークに勢いを乗せた正拳突きを与えて魔石に変える。


 そのまま魔石と棍棒を回収したボールスはクトリ達を無視して次の魔物へと目に追えないスピードで突撃していく。


「お、おいおい。アレがボールスか? 冗談だろ」

「いや。確かにボールスだった。どうしてあんなに強いのかはわからないが」


 同期の「D」ランク冒険者に聞かれてクトリは今起きたことを答えた。


「――今はそんなことよりも俺達は俺達でできることをするぞ。ボールスに頼まれたことについては少し癪だが住民の救助を優先する」

『『おう!』』


 俺の言葉に他の冒険者達は答える。


 その後住民達の救助をする時に口々に言われた。


『ボールスに救われた』

『数十匹はいる魔物相手に棍棒片手に全て蹴散らした』

『「B」ランクのブラッドベアと素手でタイマン張ってたぞ。信じられねぇ』

『私達は何か勘違いをしていた。ボールスさんは良い人だった』

『おじさんに助けられたんだ! 強くてカッコよかった!!』


 助けられた街の住民がボールスを賞賛する言葉を俺達は聞かされた。その時には既に俺達もボールスの強さを知り、考えが改まっていた。


 そんな時「ドゴーン」と一段と大きな音が広間から聞こえてきた。そちらはボールスが向かった場所だ。


「きっとボールスがまた人を助けるために戦っているんだろう。俺達は邪魔にならないように住民の避難を進めよう」

『『了解』』


 その時にはもうボールスという「希望」に俺達は後の事を託していた。


 自分達がアレほど嫌って無碍にした男のことを俺達は心の底から応援していた。

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