第31話 ルクセリアを守って
◇
ルクセリアで起きた事件が過ぎて5日ほど経ったある日。今は街も『ルクスダンジョン』及び周辺も復旧が進み徐々に活気が溢れ元通りの生活に戻ってきている。
魔物に襲われた街はある人物のお陰で被害は少なく。街の住民にも怪我はほとんどない。死者も一人も出さなかった。そんな一番の功労者にお礼を言うために「彼」の目覚めを待つ。
「ん、んぁ、ここは?」
「ボールス!」
「ボールスさん!」
ルルとエレノアの二人が見舞いに来た時ちょうど意識を取り戻したボールス。
「んごあっ!?」
二人が抱きつき騒ぎになっている病室に駆けつけたコルデー達も集まってこれまでのことを話し合った。
聞いた話では俺が何らかの要因で気絶した後に【
【
ボールスが意識不明の中街の復旧及び色々と話も進んでいた。今回起きた事件、犯人、目的、それぞれに検討はついていたが犯人と直接話したであろうボールスの意見を聞き今回の事件は本当の決着を着こうとしている。
今から機密事項を話すと言うことでユート達「黒曜の剣」には席を外してもらうことにしてボールスを含むコルデー達聖女陣営だけが残った。
「ボールス様が知っている内容を教えて欲しいのです。その内容と照らし合わせて今回の真相を確かめたいのです」
「はい。わかりました。俺は彼女。『闇ギルド』のシノから話を聞きました――」
そこで俺はシノから聞いた話を答えられる範囲で話した。「恋人(仮)」の関係だったりシノ個人の情報は少し伏せたが概ね必要最低限の情報を。
「…ありがとうございます。レイアさん」
「はい。こちらの知りうる情報と遜色ありません。聖女様を狙っている人物も目星はついていましたが…」
話を聞いたコルデー達は自分達の仮説が合っていたことを話し合う。
コルデー達がルクセリアに来た本当の目的は「救世主」との接触のついでにこの頃悪い噂が広がっている王国に狙われているコルデー自ら出向くことだった。なお
コルデー自身ルクセリアに来る前に情報及び信託で
「本当に王国のステンノ王太子が企てていたとは。『闇ギルド』までも動かしているので許すことはできません」
「はい。ですがこれで相手も尻尾を出したことになります。証拠も十分揃いましたので叩く時は今かと」
「そうですね」
コルデーとレイアの話を聞いていてなんとなく経緯は理解した。
なるほどな。そういうことか。
『聖堂騎士副団長』のレイアが
視線を感じたのか彼は苦笑いを作るとコルデーに「お許しください」と一言告げてボールスに顔を向ける。
「エルバンス殿。直ぐに伝えなかったことお許しください。私は聖堂騎士の『団長』にして『至聖剣』と呼ばれているオーラス・オルレアインと申します。今回は聖女様の護衛のもと参上致しました」
ベットに腰掛けるボールスの元へ歩くと自分の本当の名前を伝え頭を下げる。
オーラス・オルレアイン。『聖堂騎士団長』にして『至聖剣』という渾名を持つ超人。ボールスも記憶として名前は知っていた。元々冒険者でありその時の冒険者ランクは「SS」ランクだとか。「SS」ランク冒険者は世界に数人しかいない、その一人がオーラスその人だ。
「いえ。俺は特に気にしてませんよ。オーラスさんはオーラスさんですし」
謝罪を軽く受け取った俺はこちらも苦笑いを作り受け答えする。その様子に頭を上げたオーラスは神妙な顔つきになる。
「…あまり、驚かないのですね」
「まぁ。驚いていないわけではないんですが。オーラスさんは会った時からなんだか頼りになる感じがしました。決定打は「A」ランクのユートの攻撃を簡単に止めたことです」
ユートの攻撃を簡単に止められる人間など早々居ない。それをオーラスは後から助けに来ていとも簡単に止めてしまったのだから。実力者だとは初めからわかっていた。
「なるほど。あの時点でエルバンス殿には気づかれていたようですね」
「なんとなくですがね」
二人はいつものように笑い合う。
「それで、シノはどうしてます? 俺がこんなことを聞くのもおかしな話ですが。ある意味彼女には助けて貰った身なので…」
「彼女なら今頃『闇ギルド』に帰っているでしょうね。私も現場を見た時彼女がエルバンス殿に殺意を向けていないことに気づきましたので穏便に帰ってもらいました」
「そうですか。なら安心しました」
微笑を浮かべて話す俺にオーラスも表情を緩める。
「ボールス様。
二人の話し合いを見計らっていたコルデーが普段の間延びした声で話しかける。
「はい。大丈夫です。何かありましたか?」
「はい。実は――」
そこでコルデーから聞かされた話は意外な内容だった。
なんでも「今回の件に率先して動いたボールス様の働きに免じてこれにて「更生」を終わりにします」とのこと。街の人々も自分にお礼を言いたい人が多い。それは
「――皆様ボールス様に是非お礼を言いたいと告げています〜」
話を聞いていた俺は終始驚いたり安堵したり苦笑したりと感情が複雑に揺らいでいた。そんな俺は目を伏せて語る。
「別に、誰かのために動いたわけではないんです。人に褒められるような行動をしていない。俺はただ自己中心的に動いていました」
事実。俺は初めの頃酒の勢いで邪魔な魔物を狩。酒が抜けてもシノと会うまでは何も知らずこの際に少しでも「善行」を働こうと偽善にただ淡々と魔物を狩続けただけだ。汚い戦い方をした。罵詈雑言を言い戦った。建物だって壊した。周りを鑑みず立ち居振る舞いをした自分は決して誰かに褒められるような行動はしていない。
なのに。なのに。コルデーはそんな自分を優しく抱きしめてくれる。
「――ボールス様。それでも貴方様は街の皆様を救ったのです。誇っていいことです。勿論、【
抱きしめていたボールスから離れると慈愛を込めた瞳を向け、赤子を慰めるように柔らかな声音で肯定する。
「貴方様の勇気ある行動が無ければもっと被害は出ていました。死者だって出ていた可能性もあります。貴方様の行動は正しい。貴方様は既にこの街の「英雄」なのですよ」
聖母のようにただ信用し信頼して褒め称える。
「…わかり、ました。罪の精算ではないですが、こんな俺でも誰かの役に立てたのならよかったです」
顔を上げた俺はどこか憑き物が取れた晴れやかな微笑を浮かべていたと思う。
その後も今後のことや「更生」について話し合った。まず「更生」を終えたボールスは約束通り白金貨「50枚」を受け取った。ボールスの治療もあらかた終わっているため近いうちにコルデー達は王国に発つという。
ボールスも王国に出向きその活躍を讃える筈だがボールス自身が辞退した。「A」ランクのユート達ならまだしも自分のような「D」ランク冒険者が王宮に赴くなどと思ったから。
ぶっちゃけた話目立ちたくなかっただけだが。
「寂しくなりますね。何か俺でも役に立てればよかったのですが国絡みだと逆に足手纏いになりかねないので皆さんが無事なことを祈ってます」
話を聞き終えそれだけ口にする。
「んーそうですね〜ボールス様を巻き込むのは
何かいいことを閃いたようで嬉しそうに胸の前で手を重ねる。
「ならボールス様。全て終わったら
「え? お願い事、ですか? 別に構いませんがなぜ今そのお話なのですか?」
話の流れ的にも逸れた内容だなと思っていた時コルデーがそっと近づき小声で耳打ち。
「今回の女性との関係を不問にするから
「――ッ」
オーラスとレイアから見えないように黒い笑みを携えたコルデーが脅す。その手には「
じょ、女性の関係って…シノやルルとエレノアのことだよな。それにその魔道具は…またあの生活に戻るのはいやだ。絶対コルデーのことだから他のことも含めて伝えてきているようで怖すぎる。
「わ、わかりました。常識的なもので俺が、できるものなら」
「はい! それでいいですよ〜」
少し歯切り悪く言う俺相手に今日一の笑みを浮かべたコルデー。
蚊帳の外のオーラスとレイアは特に何も聞いて来なかった。
「
「わかりました。俺の怪我の治療まで本当にありがとうございました!」
「いえいえ〜ではでは〜」
一言、二言話すとコルデー達はボールスを残して病室を後にする。
「……」
3日ぶりに目覚めて起きて早々長々と話して疲れた。一人きりになった俺はベットに腰掛けながら自分の服装を見て辺りを身回す。
病人が着るような真っ白な服。自分しかいない小綺麗な空間。真っ白な天井を見上げてそれも直ぐに飽きてベットに横たわる。
「本当に終わったんだなぁ。生きててよかった」
ぽつりとこぼしたその言葉だけが静かな空間に響く。
「五体満足で生き残れて使命も無事終わった。お金も手に入ったから教会でようやくジョブも変えられる。借金はぼちぼち返そう。動けるようになったら…
そんなことを考えていた時自分の体の違和感に気づいた。
「痒くないぞ。股間が痒くない…なぜ?」
「あぁ。やっぱりイ○キンだったか。俺が体に入る前は不衛生だったからな。よし、これで一安心だ」
深く考えたくもなかったので治ったなら治ったでいいかという安直な考えて済ました。実際解放された気持ちが高くて性○のことなど考えたくもない。
ボールスはコルデーが使った【
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