第20話 魔剣姫の看病




「…熱は、結構あるな。具合はどうだ?」

「倦怠感と、少し寒い」


 布団に包まり体を小刻みに震わすエレノアは近くにある椅子に腰掛けるボールスの問いに答える。


「そうか。じゃあ毛布でも被ってまずは寝てろ。病人でも食べれる物作るから」


 額に置いてあった冷やしタオルを交換して立ち上がる。


「…ありがとう」

「おう」


 うさぎがプリントされた可愛い布団で寝る青髪の美少女エレノア相手にボールスは仏頂面で看病をする。エレノアの額には水で濡らしたタオルも置いてある。


 近くでは少しハラハラとしているルルが何をすればいいのかこちらの顔を伺う。


 なんでこんなことを俺がしているかというとルルから頼まれたお願いだから。


 ・

 ・

 ・


『エレノアが倒れた。助けてほしい』


 ルルの口から深刻そうに告げられた俺はエレノアが何かの病気に罹ったのかと思った。

 ルル一人では看病が困難だというので「ルクセリア」で人助をしている俺に助けを求めにきたとか。


 なんか普通に遊びにきていたし、いつものように大事なことを初めに言わないのは変わってないな…とかは思ったが病人がいるということなのでエレノアの住む場所に案内してもらうことにした。


 自分達がいた場所宿屋から少し離れた場所に赤色の煙突が目立つ小洒落た一軒家があった。その家がルルの話だとエレノアがルルと二人で住んでいる家だという。


 なんだルルも住んでいるのかと思ったが違和感に気づく。「この頃俺が泊まっている「日の園」にルルも泊まってね?」と。


 そのことを聞いたら「たまには気分転換も必要」とソッポを向かれてしまう。本当のことか怪しいので解せぬ。


 そんな話はいいとしてルルの案内の元家の鍵を開けてもらってエレノアの元まで案内してもらった。

 案内してもらう前に「男の俺が部屋に入っても大丈夫か?」と聞いたが「エレノアがボールスならいい」と言っていたと。


 パーティリーダーであるユートはどうしてるのか聞いたら「役に立たないからそもそも声を掛けていない」と辛辣であった。


 俺でもできることは限られている。なので「深刻な病気だったりしたら教会か聖女を頼れ」と伝えた。


 そしてエレノアのやけにメルヘンチックな可愛らしい部屋に入ってわかったこと「ただの風邪」だった。それでも「風邪」を侮っては行けない。

 この世界は「風邪」を治すための漢方薬は無ければ処方する薬も庶民じゃ手に入らない代物。薬草を探しに行っても薬学の知識が無ければ返って毒となる。


 それでなんで俺を頼ったかと問うと「ボールスなら治せると思った」と曖昧な言葉を返してくる。


 色々と言いたいこともある。あるが「これも人助」と思い行動する。


 エレノアと一言二言話し、まず熱を計る魔道具で熱を再度計る。そこで「38.5°」と出た。エレノアに聞いて毛布を何枚か持ってくる。額に氷水で冷やしたタオルをエレノアの額に置く。その時に「ひうっ」と可愛らしい声が上がったが無視をしてそれを何回か繰り返す。赤らめた顔で少しジト目で見つめてくるがこれも看病なので許してほしい。


 いまできることを終えた俺はエレノアでも食べれるお粥でも作ってあげようと考えた。しかし冷蔵庫に似た魔道具の中を見ても空っぽ。そのため只今買い物に向かっている最中。ルルが着いてこようとしたがエレノアの看病を任せている。


「――食材も揃ったし帰るか…と思ったが教会も寄ってみるか。もしかしたら風邪に効く薬か薬草を譲ってくれる可能性もあるし」


 食材が入っている紙袋を持ってその足で教会に向かう。

 別に性○やジョブの変更について聞きに行こうとかは――少ししか思っていない。


「まんま教会だな」


 教会に着くと白と黒の建物を見上げて言葉を溢す。建物は「日本」にもあったような教会まんまだった。


 特に人の気配は感じなかったが足を一歩踏み入れる。その時に少し神聖な空間に入ったような感覚があった。不思議な感覚に陥りながら教会の扉を「コンコン」と2回ノックする。


「…反応はないか」


 中から反応はない。取手を掴み引いて扉を開けてみる。ギィーという扉が軋む音を立てながら黒い扉が開く。


「お邪魔しまーす」

「あら〜ボールス様どうか致しましたか〜?」

「うおっ!?」


 扉を開けたそこには微笑むコルデー聖女の姿があった。誰もいないと思っていたのといきなりの登場に驚き悲鳴を上げる。


「あらあら〜どうかしましたか〜?」

「あ、いや。聖女様が近くにいると思わなくて」

?」

「……」


 呼び方が気に障ったのかコルデーは目を細め黒い笑みを作り首を傾げ問い返す。


 俺は周りを見回す。そして人がいないことを確認。


「…コルデーさん」

「はい〜」


 内心「めんどくさい」と思いながらも目が笑っていなかったので「怖い」という感情を殺して名前で呼ぶ。二人の時限定の名前呼びにコルデーはご満悦。喜んでいるところ悪いがさっそく質問をしてみる。


「あの、司祭様に会いに来たのですが」

「司祭様は只今ご病気でお家で療養中です〜」

「あ、そうなんですね。じゃあ私は用事があるので帰り――「わたくしでも司祭様のように頼み事聞きますよ〜?」――コルデーさんに頼むことでもないので…」


 帰ろうとしたが自分の言葉に被せてくる。それでも聖女にわざわざ頼むことでもないと伝えるが。


「……」

「うっ」


 間近で期待のこもった目で見られてしまいその目に後退ってしまう。


 別に隠すことでもないから素直に話すか。ただ「女性の看病」だと『善悪計君一号』に引っかかる可能性がある。


 そのため少し端折りながら。


「わかりました。実は――」


 冷静に判断し経緯を話す。


 今は知り合いの看病をしている。お粥を作るために買い物に来た。帰り道に教会に行って風邪を治す薬か薬草でも譲って貰えれば御の字と思った、と。


「――ということがありまして」


 俺は話し終えて目の前にいるコルデーに全て伝える。よくみるとコルデーは涙を流していた。


「う、うぅ。ボールス様はお優しいのですね〜」

「え、あ、はい」


 どう反応をすればいいのか分からず、相槌を打つ。そこでコルデーは大きく頷く。


「わかりました。本当はボールス様のお話を聞いた時点で『善悪計君一号』の数値を「−10000」にしようとしましたが人助ならまた話が変わります〜」

「は、はぁ」


 てか危ねぇな。なんだよ「−10000」て。


 そんな内心を悟られないように「あはは」と苦笑い。


「ボールス様が頑張っているというのでわたくしも人肌脱ぎましょう〜」


 そう言うと自分のポケットをゴソゴソと漁りある物を取り出す。


「こちらはわたくしお手製の風邪薬です〜とてつもなく苦いですが効き目は抜群です。処方すれば次の日には元気MAXです〜こちらを頑張っているボールス様に贈呈です〜」

「あ、はい。ありがとうございます」


 白い布巾で包まれた「風邪薬」だという物を素直に貰う。この頃の経験則で断っても無駄だとわかっているのでそこは抜かりない。用意いいなとも思ったが余計なことは言わない。


「病気の方、良くなるといいですね〜」

「そうですね。本当にありがとうございます。では」

「はい〜」


 珍しくコルデー聖女から何もアクションをしてくることはなく解放された。



 ◇◇◇



「コルデーもたまにはいいところあるじゃないか。これでエレノアの病気も安心か…んなんだこれ?」


 何事もなくコルデーと別れた俺はエレノアの家まで走っていると手に持っていた風邪薬を包む布巾から小さな用紙が足元に落ちる。


 その紙に気づいて拾う。そして読んでしまう。


「……」


【今回は見逃しますがくれぐれもには不埒な行為をしないこと。信じていますがいつでも見ているのでお忘れ無く コルデー】


 自分は「女性の看病をしている」などと一言も口にしていないのにこの内容。恐ろしくなった俺は振り返ることなくその用紙を手で丸めるとかけ足で向かう。


 【コルデー、貴様見ているなぁ!!】


 ふざけてみたかったが今そんな気力はなかった。二人が待つ家に向かうと買ってきた食材で簡易的なお粥を作りエレノアにコルデーから貰った風邪薬を処方して自分は宿屋に戻った。


 エレノアやルル達女性陣に無闇な接触をしていないことをここに告げる。



 ◇◇◇

 


 後日お見舞いで顔を出すと前日にコルデー聖女から貰った風邪薬をエレノアに処方したところ本当に一日で治った。そのことはボールスもルルも風邪を引いていたエレノア本人も驚いていた。


「ボールスさん、ありがとう」

「ボールス、エレノアを助けてくれてありがとう」

 

 エレノアとルルからお礼を言われた。


「俺は別に。少し看病して後は聖女様の風邪薬のお陰だし。風邪が治って安心した」


 コルデー聖女の恐ろしい一面は告げることなく素直に御礼を受けとる。


「ボールスさんって結構、S」

「え?」


 「漸く解散か」と思っていた時エレノアから突然そんな脈略もないことを言われる。


「S?」


 言葉の意味がわからないルルは首を傾げていた。


「私が苦しんでいるところを見て笑って冷たいタオルで私の反応を見て遊んだり、苦い薬を飲ませて愉悦に浸る」

「ま、待ってくれ! 俺はそんなこと――」

「いいの。私も嬉しかったし」

「えぇ」


 その言葉に「俺はそんなことをしていない」と告げるはずだったがエレノアの続きの言葉を聞き困惑というか少し引いてしまう。


 鬼畜な行為?をされた美少女が目の前で「嬉しかった」と突拍子のないことを言って頰を染めていたら誰でも驚くだろう。


「ま、まあ。よくなったならよかった。俺は用事もあるからもう行くよ」


 なんか嫌な予感がしたので二人の言葉を待たずにその場を離れた。


 その翌日からルル+エレノアからの熱烈なパーティ勧誘が始まるとも知らずに。



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