第19話 白猫との話し合い
人目のつかない路地裏まで来ていたボールス達は少女について話し合う。結果オーラス達「聖堂騎士」達に頼むことにした。
『――では、エルバンス殿。私達はこの少女を安全な場所に連れていきますね』
『はい。何から何までありがとうございます』
『いえいえ。それよりも本当にこの少女から攻撃された理由は聞かなくて宜しいのですか?』
俺はオーラスさんに担がれている意識のない青髪の少女のことで質問されるが首を振る。
『はい。先程も言いましたが俺にも非があるんですよ。その少女もさっきの青年達にも。だから攻撃されて当然です』
『…わかりました。深くは問いませんがこの後も気をつけてください』
『了解です』
それだけ言うとオーラスさん達は走っていってしまう。その背中を少し見てから街を離れて『野良狩り』に向かう。
◇◇◇
後日、ルルとまた会う機会があり聞いた話。黒髪の青年の名前は「ユート・カンザキ」。北東の生まれ。顔が整っており黒髪、黒目は生まれつきだとか。ユートの指示でエレノアは動いていただけだからユートだけが悪い、と。
話を聞いていて「誰が悪い」とかよりも黒髪の青年ユートについて気になった。その名前を反対にすると「カンザキ・ユート」と日本人にいそうな名前として読めなくもなくやはり自分と同じ「転生者・転移者」と疑ってしまう。
本人はルルと同じ「A」ランク冒険者で『影人』というジョブ。通り名は「黒曜の剣」という。ユート達の冒険者パーティはユートの通り名そのままの「黒曜の剣」らしい。
青髪の少女の名前は「エレノア・スイヘルス」。ロングの青髪、青目の美少女。美人だが無口でクールな印象。
ユート、ルルと同じ「黒曜の剣」の初期パーティメンバー。エレノアも「A」ランク冒険者で『魔法剣姫』というジョブ。通り名はそのクールさとジョブから「魔剣姫」と呼ばれる。
『自分のパーティメンバーがボールスに危害を加えようとして、ごめん』
街でばったりあって早々謝られる。今回は近くの噴水がある広場のベンチに二人腰掛けて話し合った。
『いや、別に。それよりもルルはあの後大丈夫だったか?』
『ん。うちの腕をいつまでも掴んでくるユートがうざくて金的喰らわした』
『お、おお。程々にな』
ルルから「金的」という話を聞いた俺はマイサンが「シュン」とした感覚を覚えた。
『ん』
ルルはルルで無表情なので本当に意味を理解しているのか怪しい。その後も当たり障りのない話をした。「ユートがパーティを抜けさせてくれない」だとか「ユートがうざい」とか「
話を聞いていて「君達のパーティって全員強いのね」と思い。相槌だけでほとんど愛想笑いで切り抜けた。その中でも厄介な話がでた。
『そう言えばボールスはエレノアに何かした?』
『ん?…エレノア。あぁ。青髪の少女か。いや? 俺は騎士達に任せただけだが…何かあったのか?』
『んー、エレノアが昨日戻ってきてからボールスの話を聞かれる。エレノアは無口であまり他の人の話を話さないから珍しい』
「ユートも驚いていた」というその話を聞いて覚えがない俺も首を傾げる。
『昨日のことを思い返したけど別に何もないな。剣を突きつけられて、会話もそんなにしていないし…なんだよその目』
昨日のことを思い出して話すと隣に座るルルからジト目を向けられていた。
『ん。ボールスはおっぱい星人だからエレノアが寝ている間に悪さした?』
『するか! それになんだよおっぱい星人って…』
いつものことながらルルの突拍子もない言葉に辟易としてしまう。
『ボールスの周りの女性のおっぱいは大きい。聖女様も大きい。そして女性の騎士。アレは脱いだら凄い。エレノアも大きいし…うちはなんで小さい?』
『知るか!』
自分の小ぶりの胸をムニムニと手で揉みながら聞いてくる。そんなルルにツッコみを入れた。それでも自分の胸を揉むのを止めることなく虚な目で虚空を眺め呟く。
『男はみんな大きいおっぱいが好き。でもユートはうちのおっぱいが好きだと言った。ボールスは?』
『そ、それは』
質問に直ぐには答えられなかった。何を言ったら正解なのか。何を言ったら地雷を踏むことになるのかわからない。
考える。考える。考えた末に…答えを出す。
『俺は別におっぱ…胸の大きさで優劣をつけない。胸の大きさはみんな良くてみんないい。胸を男が好きなのは母性を一番感じるからだと思う』
少し哲学風に自分の思う本心を告げる。俺自身胸にこだわりはない。「大きい」も「小さい」もみんな平等だと思っている。
『なんか変態っぽい』
『おい』
質問に答えたのに返ってきたのは軽蔑の視線と言葉。
『ん。冗談。でもボールスもうちの小さいおっぱいも好きと言うこと』
『まあ、そうなるな』
『むふー』
自分の胸を好きと言質を取ったルルは「フンスフンス」と鼻息を荒らげる。
『今日はいいことも聞けたからここまで』
『お、そうか。この後は何かあるのか?』
『ん。ユート達とダンジョンに潜る予定だったけどボールスとの会話の方が優先だから』
『それ大丈夫なのか?』
初めて聞いた内容にこんなところで油を売っていて良いのかと不安になってしまう。当の本人は無表情を継続で特に気にした感じもない。
『問題ない。ユートはうちに甘いしエレノアは無口だから』
『それでいいならいいけど。ダンジョン潜るなら早く行ってやれよ』
『ん。わかった』
ルルはベンチから立ち上がる。
『行ってくる』
『おう、気をつけてな』
ルルの言葉に俺も片手を上げながら返事を返す。それにルルは少し微笑を浮かべて答える。
『…さて、これからどうなるのやら』
ルルが駆けていく姿を見て黒髪の青年達と二度目の邂逅を果たした俺は考える。
確定ではないがユートという青年はルルのことを好きなのだろう。そしてルルは俺のことを好き――なのかもしれない。本心はわからないし「恋愛」ではなくてただの「親愛」としての好意の可能性もある。だが今までの会話とユートと自分を比べてしまうと。それに俺は別に鈍感ではない。
ただこのままルルが自分を好きだとまずいこともある。
一つ、ルルはユートのことを本当は好きで他の男に好意をわざと見せて焦らしている可能性。
二つ、
三つ、ユートはルルのことを妹のような存在と猫可愛いしているだけで本当に自分のことをルルが好きな場合。
四つ、ユートがルルのことを好きでルルが自分のことを好きなケース。
最後の四つ目だけは回避したい。四つめのパターンだと「修羅場」又は「寝取り」という表現が出てくる可能性があるから。
考えてもみてほしい。ユートはどう見ても「主人公」でルルは「ヒロイン」。そしてそこに割り込む俺こと「脇役」or「悪役」。ボールスが担う役は確実に主人公やヒロインを邪魔する「お邪魔虫」。そうなると自ずと――
・
・
・
そんなことを目の前にルルがいる中で内心で考えてしまう。
ま、杞憂だろうけど…
嫌な未来を見たくないボールスは一番現実的であり自分が巻き込まれない未来を願う。
「ん。うちを見つめてどうした? はっ!――おっぱい揉む?」
俺の無言を何と勘違いしたのか自分の胸元を両腕で強調する。その姿を見て本当に何を考えているのかわからなくなり額を片手で押さえる。
「あのなぁ。こんな人がいる中で揉むか。もっと自分を大切にしてくれよな」
「ん。ボールスだけにしか言わない」
意味不明なことを言うルルだがそれはいつものことなので無視をする。
「はいはい、わかったわかった。それで? 本当の要件はなんだ?」
「冗談じゃない」などとブツブツと呟きながらもルルの耳がピコっと反応する。
「…以外と頭、回る?」
「お前がわかりやすいだけだ」
「むぅ」
少し気に食わなそうな不満顔だが何も反論はしない。もしかしたら過去に誰かに同じことを言われたことがあるからかもしれない。
そんな中、ルルは本当の案件を告げる。
「エレノアが倒れた。助けてほしい」
それは意外な内容だった。
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