第18話 ルル達との回想



 ルルに安易に口にできない内容について思い返していた。それはコルデー聖女とデート(death)をした後の話。


 ルルと今度話し合うことを完全に忘れて街の中を歩いているとルルの方から接触してきた。近くのカフェらしき場所に連行された俺はルルの対面に座らされ聞かされる。


『恥ずかしいから耳と尻尾は今すぐに触らせることができない。でもパーティメンバーになってもっと親密になったら考える』

『え?』


 少し頰を朱色に染めながらそんなことを言って来る。俺は目前のルルが何のことを話しているのか理解が及ばず疑問符を立ててしまう。そんな俺の姿を見たルルは怒ることなく無表情でもう一度一から話してくれた。

 俺がルルの耳と尻尾を触りたいと頼んできたこと。その時はルルが「考える」と言って一旦保留として別れたこと。今日は自分ルルと冒険者パーティを組んでくれるなら吝かではないと伝えにきたらしい。


 そこで漸く自分が墓穴を掘ったことを理解した。なので直ぐ様に言い訳を並べる。


『いや〜アレはあの時の冗談というかつい口が滑ったというか、な?』

『じゃあ、アレは、嘘?』


 前回の話を笑って「冗談」だと口にする。ルルは目をうるうると涙目にし寂しそうな顔を浮かべ見て来る。よく見るとピンと立っていた白い耳はルルの内心を表しているのか垂れていた。その姿を見た俺は居た堪れない気持ちになるとともに自分が招いた事態であることを再確認する。

 自分も悪いと感じつつどうにかして現在の回避方法を模索する。女性ルルと接触したことで見なくても安易にわかる『善悪計君一号』の数値が「−」を加算させながら。

 

 そこで良い案を思いつく。


【ルルは黒髪の青年達と行動している。なら以前悪いことを三人にしているためそんなパーティに入れない】


 いい案だと考えた俺は話す。


『――ルルは青年ともう一人のお嬢さんとパーティを組んでるじゃないか? 俺じゃなくてそちらに居た方が絶対に良いって』


 その旨を伝え優しく諭す。


『ん。やだ』

『えぇ…』


 一言で断られてしまう。


『ユート達とはたまたま知り合ってパーティ組んでいるだけ。別に深い情はない。ユート達が邪魔ならうちがパーティを脱退してボールスと組む』


 と言われる始末。そこで何を言っても無理だと感じたのであることを提案する。


『なら、他のパーティメンバーと話し合って決めてくれ。そこでルルがパーティを抜けて良いと決まったのなら考える』

『…ん。わかった。ユート達に伝えて来る。だからボールスはここで待つ』

『え、いや別に後日でも』

『いいから』


 強い口調で言うと俺を置いてルルは何処かに駆けて行ってしまう。その時別に逃げても良かったがルルがコルデー聖女の手の者だと疑っていた俺は後からリークされてもいやなので素直に待つ。



 そして数分経った頃だろうか。自分がいるカフェもこれ以上長居するのも…と思っていた時カフェの扉の前にルルが現れる。ただその顔は落ち込んでおり俺の顔を見るなり申し訳なさそうに顔を伏せる。


『ボールス、ごめん。しくじった』

『え? それはどういうこ――』


 なんとか聞きとれた言葉、その理由を聞こうとしたらカフェ近くから大きな足音が聞こえて来る。その足音は自分達がいるカフェに近づいているように感じて――


『ルル! 大丈夫か!!? 助けにきたぞ!!!!』


 カフェの扉を勢いよく開けた男がいた。その男は店内に人がいることも考慮せずに大声をだし、顔を真っ赤にして辺りを見回す。


『ルル!!!! 無事だったか!!!!』


 近くにいたルルの姿を確認した男はその珍しい黒髪と着ているロングコートを揺らしルルに接近。


『ルル。大丈夫だな。何もされていないな。良かった。俺が側に居てやるからな。もう安心だぞ!!』


 そんなことを早口で言うとルルの体をサワサワと触り華奢な体を抱く。公衆の面前で。


『――』


 その光景を見てドン引きしていた俺は何もできず、何も言えず固まる。


『ん!! ユート暑苦しい。それに気持ち悪いから離れる!!!!』


 ルルは抱きつかれたことが嫌なのか抵抗している。その姿は野良猫が見知らぬ人間に「シヤッー!」と警戒を表す様子と似ていた。


『いいじゃないか! 俺達の仲なんだから!』

『や! うちはボールスとパーティ組む!』


 青年の言葉にイヤイヤと嫌がり自分から剥がそうとルルは拒絶の構え。


『な!?――考え直すんだ。あの男は君達に何をしようとしたのか忘れたのか? 聖女様経由で謝礼金を渡してきたが、逆に聖女様をこき使う男なんだぞ?』


 ルルの態度と言葉を聞き目を剥く青年。それでも幼な子を諭すように優しな声音でルルに話す。

 痴話喧嘩のような二人を周りは奇異な目を向けられている。他所にカフェでの会計を済ました俺はこれ以上周りに迷惑を掛けないために自分だけでも外に出る。


『…あんなめんどくさい奴ら相手にできないわ』

『ほんと、呆れるわ』

『っ!?』


 言い合いがヒートアップしている二人にバレることなく外に出れた。ただ何処からか自分の声に同意するような女性の声が聞こえる。その声に動揺して背後を向こうとした――がこの頃の魔物との戦闘で培った危機察知で反応する。


     【動いたら死ぬ】


『動かないで、動いたら切る』

『――ッ』


 背後を取られ不覚を取った俺は安易に動けなかった。何故なら自分の首元に白銀の刃が見えたからだ。背後に立たれたことすらわからなかった俺は静かに冷や汗をかく。


『――ボールス!!』


 そこで俺の危機を察したルルが救出に向かう。


『ボールスだと!? アイツがいるのか!!』


 ルルより速く動いた黒髪の青年は腰に下げていた片手剣を素早く抜刀し切り掛かる。

 この時ばかりは死を覚悟し反射的に目を瞑ってしまう。


       キンッ!


 いくら経っても痛みは伝わって来ることなく鉄と鉄同士がぶつかった音だけが鳴り響く。そのことを不思議に思い片目を開ける。


『ふぅ。どうやら間に合ったようですね』

『な、んだと。俺の剣を』


 そこにはいつぶりかの茶髪の騎士。オーラスさんが驚愕した顔を作る黒髪の青年の片手剣を自分の騎士剣で防いでいた。そして何もなかったかのように背後に庇う俺に顔を向けて白い歯を向ける。


『お、オーラスさん?――あ、でも俺の背後に』

『問題ないですよ』


 騎士オーラスさんの言葉と共に俺の首元にあった剣から「キンッ!」という先程と同じ金属同士がぶつかるような音。


『きゃっ!』


 女性の悲鳴が聞こえた瞬間「ザッザッザッ」という固いもので地面を走る音が聞こえてくる。


『『エルバンス殿、御無事でしたか!』』


 そこにはオーラスさんと同じ騎士の甲冑を着る複数の騎士の姿があった。横目で見ると気絶しているのか動かないローブのような白と藍色の軽装を着ている青髪の少女を三人の騎士が囲んでいる。恐らく彼女が俺の首元に剣を突きつけていたのだろう。オーラスさんの他にも俺を守るように二人の騎士が騎士剣を構え黒髪の青年に構える。


『――ぐっ』


 危害を加えるのは厳しいと思った黒髪の青年は苦虫を噛み潰したような顔を作る。一瞬俺のことを憤慨したような表情で見るが自分達が不利だと思い近くにいたルルの左手を掴む。


『今回は命拾いしたな。だが次はないぞボールス・エルバンス! 次合う時までに首を洗って待っていろ!!』

『ユート、手を離す――』


 ルルが何かを呟いていたが「ユート」と呼ばれた黒髪の青年は捨て台詞だけ放ちルルを連れて逃げ出す。


 その姿を見て黒髪の青年ユートはあんな性格だったか?と思考してしまう。そんな俺を他所に騎士剣を納刀したオーラスさん達が近づいてくる。

 

『なんだったんですかね?』

『俺にもわかんないす』

『変な輩に目をつけられたのですか?』

『いや、多分俺にも…非はあるので…今回は助けてくれてありがとうございました』

『いえいえ』


 オーラスさん達はそれ以上何も聞いてこなかった。ただ十中八九コルデー聖女の指示だろうと思うことにした。


『ところでエルバンス殿。こちらの少女は如何します?』

『え、あぁ、道端に放置するのもアレですしその少女を連れて少し離れますか』

『わかりました』

『『了解です』』


 俺の指示に従うオーラスさん達騎士は少女を背負いその場を後にする。オーラスさん達がいくら「聖女」の「聖堂騎士」だとしても周りには人だかりが出来ていたためこれ以上騒ぎを大きくするわけにはいかずその視線から離れることにした。



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