第21話 逃走、逃亡



「――ルル。そっちに行った」

「りょ。今日こそ捕まえる」

「同意。ユートの返事なんて待たずにボールスさんを捕まえてパーティ組ませる」

「もち」


 黒い軽装と白と藍色のローブのような軽装を揺らした二人の美少女がロープを片手に路地をかけていく。誰かを探しているようで血眼で周辺を探りながら。


「……」


 その様子を空家の窓からこっそりと覗いている男こと俺は息を潜めてその場から美少女達が立ち去るのを待っている。


「この世界の女性、恐ろしいわ」


 二人が立ち去ったことを確認して一言。人知れずため息を吐く。



 ◇◇◇



 エレノアの風邪が完治した後の話。その日からボールスはルル+エレノアからパーティ勧誘を受ける頻度が増えた。

 ルル単体の時は3日に一度のペースだったがエレノアが加わり何があったのかは知らないがルル達の行動はエスカレートしていく。毎日のように追われる日々。そして加算していく『善悪計君一号』の負の数値。


 正直なところ「更生」は諦めつつある今日この頃。


 自分が泊まる宿屋「日の園」の部屋を開けたら当然のように二人がいたなんてザラ。二人が「日の園」に泊まるのも当たり前となりストーカーというか半同棲生活となっていた。

 ルル達が『ラビリンス』や『クエスト』を受けてボールスが一人『野良狩り』に出掛けるも別々の行動をしていた筈が気づいたら二人が横に立っていた、と。もうここまでくると恐怖ホラー

 案の定パーティリーダーのユートに何も言わずに来たらしく二人がいないことに気づいて「ルルに加えてエレノアも」とユートがキレて大騒ぎに。


「本当に勘弁してほしい。コルデー聖女のお陰で信用も大分取り戻せてきたのに次は「」だもんな…はぁ」


 もうため息しか出なかった。


 カールじいや宿屋「日の園」の店主達。コルデーやレイア達聖堂騎士はそんな話信じていないのがまだ心の支えだ。


 噂を聞いてコルデーが黒い笑みを作っていたのは見なかったことにしたけどな。


 他の人達はユートの話しを鵜呑みにしてしまったのか悪い噂もあった俺はこの頃また煙たがられることが多くなった。

 ルクセリアの街の街長に何か言われるかと思ったが俺が聖女の命の恩人だと知ってか音沙汰なし。


「本来だったら街長に追い出されてもおかしくない。本当はそれが俺の望む展開だったがいまさら。後はギルドとユート関連をどうにかするかか」


 敵ではないが厄介な相手が現れたと。


冒険者組合ギルドは元々ボールスのことを毛嫌いしていた気がある(昔のボールスの暴虐無尽を知っているから)。そんな冒険者組合ギルドとユートが結託している様子だから手に負えないよなぁ」


 冒険者組合ギルドは「D」ランクのボールス嫌われ者よりも「A」ランクのユート有望株を推している。

 ボールスには元々「売却」の禁止があった。今はそれ以外に冒険者組合ギルドへの立ち入りを禁止。『クエスト』を受けることもダンジョンへの立ち入りも禁止されるなどボールスの徹底排除。



 【ここで少し小話】  


 【冒険者ランク】


 冒険者ランクには「F」〜「SS」ランクまである。何処の冒険者組合ギルドでも「A」ランク以上の冒険者には優遇している。


・「F」ランク: 冒険者登録をしたら必ずなるランク帯【一般的に「仮冒険者」と言われる】


・「E」ランク: 『クエスト』を何でも良いから10個達成できれば自動的にランクが上がる。【「初心者冒険者」と呼ばれる】


・「D」ランク: 「E」ランクよりも少し難易度が上がり『クエスト』を50個達成の上、人々からの好感度・貢献度を貯める事。

【「初心者冒険者」と「中級者冒険者」の中間と言われる「中堅者冒険者」と呼ばれる】

※好感度・貢献度の基準値は冒険者組合ギルド側が決め、この冒険者なら大丈夫と感じたら『クエスト』を50個達成した人からランクが上がる。


・「C」ランク: 『クエスト』を100個達成の上、人々からの好感度・貢献度を貯める事。

【「中級者冒険者」と呼ばれる】

※好感度・貢献度の基準値は冒険者組合ギルド側が決め、この冒険者なら大丈夫と感じ。『クエスト』を100個達成した上に『試験』を受けて無事「合格」を貰った人からランクが上がる。

※『試験』とは名前の通り複数の「D」ランクの冒険者達が集まり冒険者組合ギルドが出したお題を達成する事。内容はその都度変わる。

※このランク帯はどの冒険者でも通る最難関の道、ここで大体の冒険者が上のランクに上がれなく挫折して下のランク帯で燻っている人が多い。それがボールスだったりするが。

※ランクが簡単に上がらないのは「C」ランククラスになると魔物も強さの難易度が上がり抗える強さを持たないと死人が簡単に出るからだ。


・「B」ランク: 「C」ランクよりも難易度がぐんと上がり、『クエスト』を500個達成するとランクが上がる。

【ここから「上級冒険者」と呼ばれる】

※好感度・貢献度を上げない分簡単かと思われるが「C」ランクにもなれば一つのクエストでも難易度は高いものばかりなのでかなりランクを上げるには苦戦する。


・「A」ランク: 『クエスト』を1000個達成の上ギルド内の教官役「A」ランクと模擬戦を行った上認めて貰らう。

【「最上級冒険者」と呼ばれる】

 ※ユートやルル、エレノアなど。


・「S〜SS」ランク: 「A」ランクになった上に何か偉業を達成するとランクが上がる。

※世界には現在「S」ランクが50人。「SS」ランクが5人しか存在しない、

【S〜SSランク帯の冒険者達は総えて「極級冒険者」と呼ばれる】

※「S」ランク以上の冒険者達は国で管理できない程の存在で自由にできると言う(自由と言っても違反行為は駄目だが)



「オーラスさんから聞いた話しだと俺の「冒険者剥奪」を検討しているとか」


 そのことにルルとエレノアが抗議してくれたからまだ確かなことは決まっていないが彼女達が何もしなければボールス自分は普通に過ごせたと思ってしまうことも暫し。


「二人とはしっかりと話したんだが、人生うまくいかないなぁ」


 窓から外を見ていた俺は色々と考えて疲れてしまいその場で腰を下ろしあぐらをかく。


 二人に「ユートから許可が出ないならパーティに誘うのは禁止」「接近も禁止」と伝えたのだが二人は首を縦に振らない。


 二人にも言い分はあるらしい。


 なんでも三人で何回も、何度もルルとエレノアのパーティ脱退の件を話すがユートが一括として否。パーティを脱退するにはリーダーの同意と冒険者組合ギルドの許可がいる。ユートの意思を尊重して冒険者組合ギルド側も許可を出さない。

 ボールスのせいで「黒曜の剣」という「A」ランクパーティが消滅するのも嫌だし、今まで散々嫌がらせをされた奴の望みが叶うのが耐えられないとか。


 その時に「どんだけ嫌ってるんだよ」と苦笑いを通り越して嫌味すら沸かない。


 最終的にユート達から出た提案。


『俺に勝てたのならになるのを認める』


 という内容だった。ルルとエレノアは「そんなこと決めていない」と言っているがそんなのはわかっている。わかっているがパーティリーダーが言うことならそれが全員の合意とみなす。


「うぅーん、今は時間を置いたほうがいいのかねぇ」


 その話しを聞いた俺は何とも言えない表情を作る。


 まず自分は「パーティ」に入りたいなど一言も言っていない。それも「雑用係」など。そもそも「A」ランクと「D」ランクが戦って勝てるわけがないのは目に見えているのにユートと冒険者組合ギルド側は要求してきた。


「初め嫌われ者ボールスを止めた好青年はどこに行ったのやら。まあそれはしょうがない。自分が可愛がっている女性を襲う男と一緒にいることだけでも胃が煮えたぎるのだろう」


 二人からは「ユートが嫌い」と聞かされている身としては男女のもつれは怖い物だと痛感した。



「結局俺は間男扱い。ユートの話に乗ってやってもいいが殺されても何も文句言えないからなぁ」

  

 元々ボールスアホがユート達に関わらなければ何も起きなかった出来事ではあるが今更次郎。後の祭り。

 ボールス自分がやったことには変わりないのでどうするか決断する時かもしれない。それでも今はルルとエレノアに見つかるわけにはいかない。近くにユートがいる可能性がある。三人でいるところを見つかったら今度ばかりは終わる。



「――俺が行きそうなところは手当たり次第あの二人なら行きそうだな。外に出てもいいが待ち伏せされていたら…あそこいくか」


 ある場所を思い出し自分の記憶を頼りにその場所へと赴く。



 



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