第8話 茶番劇
◇
自身のことを「レイア」と名乗る女性騎士から自己紹介を受け、先程のことを謝られた。俺は特段怒っていないので許しお互いに無難に自己紹介を終えた。その後諸々の事情を聞いた。
まず、女性騎士の本名は「レイア・フレンツァ」。「フレンツァ侯爵家」の令嬢にして『聖堂騎士副団長』…だという。
今日俺が拠点としている街ルクセリアにレイア引率の元コルデー率いる聖女一派が来た。なんでもルクセリアに「救世主様」が現れると「神」から
ただ、目を離した隙に自分達の元から
「――本当に申し訳ありません。恩人のボールス様に武器を向けてしまうとは…」
「あ、いや。さっきも言ったけど双方怪我も無かったし別に気にしないでさ」
「…変わらずお優しいのですね」
紳士的(笑)な対応にレイアはその凛々しい顔を朗らかに緩める。
まあ俺はどう見ても怪しい男だからな。うん。しょうがないだろう。見た目も浮浪者と変わらないし。でも「救世主」ねぇ…それって
「うんうん」と、頷き自分が「救世主」ではないことを再確認する。
「ただ、恩人って?」
レイアの口から出た「恩人」という言葉を聞いて聞き覚えもなく、身に覚えもないので首を傾げてしまう。
「え? ぼ、ボールス様は、お忘れに、なってしまったのです、か…?」
「え、いや、その、なんかごめん。本当にあまり覚えてなくて…ごめん」
何気ない一言にレイアは過剰に反応し、その凛々しい顔が一瞬で絶望したような面持ちになる。そんな表情をされるとは思っていなかったので居た堪れない気持ちになった。
「…わかりました。ではそちらも私の口からお話しします――」
一息吐くレイアは語る。その時に少し不満気な顔をしていたが。
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レイアと俺…というよりもボールスの出会いは今から15年前。ボールスがまだ冒険者になりたての時の出来事。その時のボールスは夢と希望に溢れた好青年。平民としては顔もよく、同期の冒険者達よりも優れていた。
そんなボールスは大人からも将来を有望視をされていた。当時仲間内でゴブリン狩りをしていたその時、たまたまゴブリンに捕えられている少女をボールスが救う。
その少女が――後に聖堂騎士の『副団長』になる侯爵家令嬢のレイア・フレンツァだった。
ボールスはレイアを助けた直ぐに騎士に任せ、何処かに行ってしまったので御礼すら言えなかった。
そんな中、レイアはあの時自分を助けてくれた
それも全て有名になりボールスに気付いて貰う一心。「ボールス」という名前と顔をしっかりと覚えていた為、昔の面影が残っていた顔を見た瞬間直ぐに自分を助けてくれた恩人だと気付いた、と。
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「――その節は助けて頂きありがとうございました。感謝の言葉しかございません。貴方のお陰で今も清い体を持ち聖女様の騎士として使命を全うできます」
「あ、あぁ、あの時の少女ね。うん、思い出した。忘れてて、ごめん」
頭を下げてくるレイアに俺も苦笑いを作り応える。俺も話を聞き思い出した。
あぁ、知ってる…と言うか思い出した、の方が正しいかな。
ボールス・エルバンスという男は14歳の頃まで普通の冒険者として他の同期と一緒に切磋琢磨して魔物を倒し、人々の為に貢献していた。
そんなある日気付いてしまった。自分の同期達は強く、成長していく中一方自分は何一つ変わらないことに。今まではスタートラインが周りよりも秀でていたということで頑張れていた。天狗にならなかったのは元々の性格のおかげだったと思う。
だがそんなアイデンティティが無くなると同時に自分は何歩先も同期達に先に抜かれ、次第に後から入ってきた後輩にも抜かれ、馬鹿にされるようになり――「英雄」になるという夢を叶えられないことを知り、2年、5年、10年……と大人になるにつれて今の捻くれた性格になってしまった。
その時諦めないで「努力」をして頑張ればもっと違った未来に変わったのかもしれない。それでもボールス・エルバンスという人間は自分から未来を閉ざしてしまった。
「……」
自分とは違う
「い、いえ! そんなことは! そ、それに私こそ恩人のボールス様と会えて、思い出して頂いて、その話せて、あの、えっと…」
あたふたとするレイアを見た俺は表情を戻し、クスリと笑う。
「いや、本当に大きくなったな。元気そうで良かった」
「あの、はい」
直接恩人から言葉を頂いたレイアは頭から湯気を出し、顔を真っ赤にし俯いてしまう。
そんか初めて見る初々しいレイアを見て他の騎士達は「副団長、恩人と会えて良かった」「あのお方が副団長が認めるお方なんですね」「もしや聖女様も助けられたのでは?」「それだったら正に聖人のようなお人だ」と、色々言われていた。中には二人が再会できたことに泣いている騎士もいた。
ただ一人、話を聞いていて気に食わない人物はいる。
「どーん〜!」
「グエッ!」
俺は体に突然衝撃が伝わり、レイアから少し離れた茂みに吹き飛ばされる。
良い雰囲気のボールスとレイアの間に入ってきた人物はコルデーだった。コルデーは不満顔を隠すことなくボールスに体当たりする。そしてまたもや爆弾発言を投下する。
「いま騎士さんの中でも言われてましたが〜
「うなぁっ!?」
レイアは驚き、その話を聞いた騎士達は騒めき出す…ボールスのことは特に触れず。
『聞いたか? 聖女様自ら男性の名前を口にしたぞ』
『ああ、聞いたぞ。しかも大分親しげだ』
『やはりあのお方は聖女様の命の恩人だったのか』
『エルバンス殿を二人の女性が取り合う図…のようにも見えなくもないぞ』
『確かに。それが本当なら血が流れるな』
『俺は聖女様に賭ける』
『いいや、俺は副団長だ』
『俺はエルバンス殿だ』
『え?』
『は?』
『おいおい』
『やれやれ』
『まさか…』
『お前…』
『今度から話しかけんなよ』
ボールスを支持する騎士をそっちの毛があると感じた騎士達は少し離れる。
『ち、違うわ! 単純にエルバンス殿だけ支持されないのも不憫だと思ったからだ!!』
『『……』』
それでもその騎士を疑った目で見る騎士達。そんな茶番劇が行われている中、顔から茂みにだらしなく突っ込む俺の元にレイアが近寄る。その顔は笑っているのに目だけが笑っておらず何故か頰がヒクついていた。
「へ、ヘェ〜ボールス様は随分聖女様と親しげなご様子ですね〜?」
「……」
責めるように問いかけられる。俺はそれにどう反応していいか分からず、無言。
「レイアさん。ボールス様を責めてはいけませんよ〜」
「べ、別に責めてなどいません! 私の恩人が神聖な聖女様と…その、あれです! 会ったばかりの男女で名前を呼び合うのは些か、はしたないかと!!」
ニコニコと笑うコルデーが間に入りレイアを宥める。ただそれは火に油を注ぐだけ。レイアは目を回すとしどろもどろに支離滅裂で意味不明なことを口にしていた。
「……」
女性達の話を近くで聞いていた俺は思う。
そもそも
「ん〜困りましたね〜では、
「――それは、妙案ですね。わかりました。私も助けて頂いた御礼をボールス様とお会いしたら、と思っておりましたので」
「それはいいですね〜」
さっきまで雰囲気が悪かったのは何処えやら、コルデーの提案に乗るレイア。二人して何やら話しだす。勿論、ボールスの意見を聞かずに。
「いや、あの、ちょっと…」
話の雲行きが怪しくなってきたことを察した俺は茂みから抜け出し二人を止めに入るが――
「エルバンス殿、大丈夫です。私達がいるので魔物を警戒することはありませぬ」
『聖女様とエルバンス殿は私達が警護します!』
「……」
さっきまで盛り上がっていた騎士の一人、茶髪の騎士に笑顔で遮られてしまう。
それに続く他の騎士達。そんな笑顔で伝えてくる騎士達を見て思った。
違う、そうじゃない。
と、思ったが、騎士達の圧からかそんなことも言えず。
「…あ、はい。お願いします」
『喜んで!!!!』
「……」
もう、どうでも良くなってきた。
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