第9話 謝礼



 

「――俺は一体、何をしてるんだ」


 豪華な浴槽で一人湯船に浸かり嘆く。



 ◇◇◇



 話が纏まった面々はまずラグの森を抜けて街に戻ることにした。その後は俺を


 ただ女性達と同じ部屋は流石にまずいと思ったので「男女で一緒の部屋は流石に…」とお茶を濁す感じで騎士達に懇願し自分に明るく話しかけて来た茶髪の騎士「オーラス」と同じ部屋に同乗させてもらう運びになった。

 安心していたのも束の間。ラグの森から出てルクセリアに戻る際、騎士達に護衛されながら。それも絶世の美少女を二人近くに侍らせ街を歩くという図になってしまい街の住民から不審な目で見られてしまった。

 そんな羞恥プレイに晒されながらも何とかホテルに着いた。その際もホテルの従業員や泊まる人達に不審な目で見られたが、レイアから「このお方は聖女様の命を救ってくれた恩人なので御礼をする為に同じ部屋に泊まらせる」という強引な物言いの元、俺は現在進行形でホテルに泊まり何日かぶりの風呂を入り疲れを流していた。



「この服、俺が着るのか?」


 風呂から上がりスッキリ。脱衣所の棚に置いていた自分の衣服に着替えようとしたが、そこには自分の衣服がなく代わりに藍色の肌着、洒落た茶色いコートと茶色のロングパンツ。そして黒色のネクタイが置いてあった。

 他に着る物がそれしかないならしょうがない。ずっとバスタオルを腰に巻いているわけにはいかないし…そう思い着替えてみた。

 着替えが終わり置いてあった立て鏡でボールス自分の姿を確認する。


「ヘェ〜結構似合ってるじゃん。赤茶髪も相まって。それにボールスこいつ自堕落な生活していた割には痩せていて筋肉あるんだよな。顔も、中々…」


 風呂で綺麗になり、衣服に着替えてマシになった俺は立て鏡の前でナルシストのように様様なポーズを取る。嬉しいことに鏡で見た自分の顔は「汚じさん」ではなかったので大いに喜んだ。


「…髭がなぁ」


 ただなんだかなぁ、無精髭がなぁ。


『エルバンス殿〜準備が済みましたのなら大広間に向かいますよ〜』


 唯一気になる自分の髭を撫でていると、脱衣所の外から声をかけられる。


「あ、はい。直ぐに向かいます」


 正装に着替えたら貸切にしている大広間に集まって欲しい、と言われていたことを騎士オーラスの声を聞いて思い出した。

 脱衣所から出ると騎士オーラスと合流した。その時マジマジと見られてしまったが何故そんなに見られるのかわからなかった。

 騎士オーラスに案内される形で大広間に向かう。少し歩き大きな扉が見えてきた。そこに近付くと止まる。


「――エルバンス殿。こちらに聖女様と副団長達が待っていますので中に入ってください」

「わかりました。オーラスさんも案内ありがとうございます」

「いえいえ、これも仕事ですので」


 話し終わり、目の前にある大きな扉を押す。開けた先には豪華なシャンデリア、真っ赤な絨毯の上にある数個の白いソファー。そのソファーに腰を下ろすウィンプルを外し綺麗な桃色の髪を見せるコルデーと甲冑を脱ぎラフな格好になっているレイアの姿があった。

 他には先程と同じく騎士達の姿もチラホラとある。その騎士達も騎士オーラスと同様に目を見開く。


「ボールス様来たのですね〜わあ! カッコいいです〜」


 座っていたソファーから立ち上がったコルデーは胸の前で手を合わせ歓喜。


「んっ、ま、まあ? ボールス様はその衣服が似合うと思っていましたからね」


 チラチラとボールスの顔、衣服を見ながら甲冑を着ていた時はあまりわからなかった豊満な胸の前で腕を組み一言。その口元を緩ませながら……実は衣服を選んだのはレイアだったりする。


「いや、あはは。お褒めに頂いて恐縮至極」


 周りから見られ、女性陣に褒められた俺は照れてしまう。


「ボールス様も立っているのも疲れると思いますので〜わたくしの隣に来てください〜」

「え、はい――」

「なっ! 聖女様の隣はいけません。そこは神聖な領域です。ささあ、ボールス様は私の隣に」

「え、あぁ、うん」


 コルデーに誘われたので隣に座ろうとしたらレイアに腕を掴まれてしまい同じソファーに同席することになった。正直何処でもよかった俺は戸惑いながらも腰を下ろす。

 腕を掴まれたときに伝わってきた「むちっ」という女性特有の柔らかさと「むにっ」という胸の感触は性○に悪影響なので「 2、3、5、7、11、13、17 ――」と素数を数えて煩悩を消すために無心を貫く。

 

「むーーー!」


 対面に座るコルデーは自分の思う通りにいかないからか頰を膨らませて――俺を睨む。


「あ、あはは」


 いや、俺関係ないと思うのだが。


「――♪」

『――おお!!』


 コルデーが憤慨しボールスの隣の席を勝ち取ったレイアは満足げに夢見心地のように表情を和ませている。その様子を見た騎士達はまた何か話し出している。


「……」


 その光景を横目で確認し、早く本題に入ってくれないかなぁと黄昏れる。


 

 ・

 ・

 ・



 少し経ちゆっくりと立ち上がったレイアは「コホン」と一つ咳払い。


「――では、ボールス様も来ましたのでさっそく話し合いを始めたいと思います。まずボールス様、こちらを」


 レイア自ら進行役となり話を進める。持っていた白い巾着を横から手渡してくる。


「えっと、これは?」

 

 巾着を手渡された俺は少し重みがあるその巾着を右手で持ち問う。


「はい、そちらは今回聖女様を救出して頂いた御礼の白金貨50枚で御座います」

「白、白金貨、ご、50枚ィィ!?」

「はい、本来それだけでは少ないのですが、まずは今の手持ちから手渡しました」

「ボールス様、そのような金額で申し訳ありません〜」


 レイアとコルデーの話を聞いた俺は驚いた。それでもレイア達は白金貨50枚という謝礼でも平然としていた。そこに普通だったら驚くが俺の中でもそれはという思いがあった。



 【白金貨】


 まず白金貨とは1枚で日本円で言う「100万」の価値がある。ボールスが受け取った金額は白金貨50枚なので「5000万円」=「5000万ベル」の謝礼となった。初めの所持金である「500ベル」の約10万倍の金額だ。


 現聖女の救出はそれ程までに重要なことだった。何でも今世の聖女こと「コルデー・ブロッサム」は歴代の聖女を超える才覚を持ち、何よりも神に近しい存在として崇められている。それも公爵家令嬢ということも拍車がかかり「聖女コルデー」の言葉が絶対とまで言わしめる。

 そんな人物を救った(救ってないが救ったことになっている)ボールスは命の恩人どころかこの世界ラクシアの救世主と言っても過言ではない。


 参った。非常に参った。この状態で「俺は聖女様を救ってないのです」と言っても聞いてもらえないだろうし、コルデー聖女が嘘をついたということになってしまう…実際嘘なんだが…クソォ。聖女は一体何を考えてるんだよ。



「…わかりました。謝礼受け取ります」


 コルデー聖女に内心不満をぶつけながら聖女と出会った時点で詰んでるんだと思うことにし、潔く受け取る。


「ただ、これ以上の謝礼は私は望みません」


 お金を受け取る。だがコルデーの目を見てそのことだけは確かに伝える。


「――それは何故でしょうか〜?」


 コルデーの言葉に同じ気持ちのレイア達も「何故?」という思いで俺の顔を見る。


「はい。私にはこのお金だけで十分だということもありますが、私が私自身がそれを許せないからです。皆様は知らないかもしれませんが、私はこの街のなのです」


 みんなが聞いている中、俺は隠すことなく自分の真実を話す。



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