第7話 聖堂騎士



「ボールス様もそうなのですね〜わたくしも同じ気持ちです! わたくし達はもはや、ですね!」


 彼女は興奮しているのかその立派に実ったお胸様を揺らして熱弁する。そのあられもない姿を見ないように目を逸らす。ただじゃなかったことに安堵して。


 彼女が初心?世間知らず?でよかった。多分雰囲気的に箱入り娘とかだから常識に疎いのだろう。


「そ、そうですね。私とコルデーさんは親友ですね!――と、私ももっと話をしたいのですが、森の中ここだとさっきのスライム同様魔物が襲ってくる恐れがありますので、安全な場所まで離れましょうか」

「そうですね〜ではさっそく親友としてお手を拝借して…森を楽しく駆けましょう〜」

「え?――て、うぇっ!?」


 森から出ようと提案をした途端突然彼女に右手を掴まれる。そしてそのまままた連行される。俺は俺で必死だったが彼女は「ルンルンルーン」と鼻歌なんか歌い出して楽しそうにスキップ(走りながら)しながら進む。その姿はさながらピクニックを嗜むお嬢様といったところだろうか。


「――ッ」


 て、てかこのお嬢様聖女マジで握力強ぇェェ!! 全然振り解けねぇ。やば、バランス崩れるぅぅ!!


 俺は喚くこともできずただ耐える。その間彼女は終始楽しそうにしている。途中魔物なんかも出てきたが彼女の【ホーリーアロー】という掛け声一つで瞬殺。その光景をしかと目で確認した俺は――


「……」


 無の感情しか湧いてこない。さっきのゴブリン戦もそうだが、自分が汗水垂らしてなんとか倒した魔物達をいとも簡単に消し去るのだから。それも中には強そうな狼や熊もいたがゴブリンとスライムと何も変わらない末路を辿った。


 そんな時「ガシャガシャガシャ」という金属が擦れる明らかに魔物とは違う数名の足音が二人の前方から聞こえてくる。


「あら〜何でしょうか〜?」

「ハァハァ、や、やっと、止まった…」


 音が気になるコルデーは足を止めて特に緊張などしていない間延びした声で正面を向く。


 連行されていた俺は今度は吹き飛ばされることなく安全に止まり解放されたことによりようやく人心地つけると思い近くの木に手を付け寄りかかる。


「はぁ、はぁ」


 死ぬ。マジで死ぬ。このお嬢様聖女は猪かなんかか。止まってと言っても笑みを見せるだけで一向に止まらないし…。


 汗を垂らし木に手をつけ、新鮮な空気を体内に送り込み体力の回復を待つ。疲れからその場でしゃがみ込んでしまう。そのせいか周りの状況など気にしている暇もなかった。


「――漸く見つけました! 聖女様、勝手に一人で何処かに行かれては困ります!!」


 二人の前方から現れる複数の騎士達。その代表と思われる赤毛の髪をポニーテールにし、少し気の強そうな目つきの女性がコルデー聖女の姿を見て胸を撫で下ろす。

 女性騎士の姿は他の騎士達とは異なり赤色の甲冑に白色のプレートが付き細剣レイピアを腰に下げている。他の騎士達はシルバーの甲冑に蒼いプレートが付いている。腰には同色の片手剣を装備していた。


 そんな人物達は教皇や聖女といった教会に仕える騎士「聖堂騎士」達だ。


 

「あ、レイアさん、探しに来てくれたのですね〜」

「はぁ、探しに来たではないです。聖女様が目を離した隙に居なくなられたので今まで探していたのですよ! 無事でしたからよかったものを――!!」


 いつもと変わらない呑気なコルデー聖女を見てため息を吐きそうになっていたレイアと呼ばれた女性騎士。だが、そこでコルデー聖女の近くにいるボールスの存在に気づく。

 素早く細剣レイピアを抜き、近くに寄ってきたコルデー聖女を背後に庇う。他の騎士達も女性騎士に続くように各々の武器を抜きボールスに向ける。


「……」


 くそ、いきなりしゃがんだら股と股の皮が擦れて股間が痒くなってきた。ふざけやがって…やっぱ早く性○を治さなくては。


 今の状況というか騎士達の登場すら気づいておらず。自分の置かれている状況よりも股間の痒さに気を取られていた。


「――ッ」


(何だこの男は? 私達が殺気をあて武器を向けているのに微動ともしない、だと。私達など気にもとめる相手でもないということなのか…?)


 今も木に寄りかかり右膝に右手を置き、こちらをただ一瞥してくる(ように見える)ボールスに女性騎士レイアは冷や汗を垂らし、一歩後ずさる。


『…ッ』


 リーダーのその姿を見た他の騎士達は「コルデー聖女様だけでもこの命を賭して守る」と誓い生唾を呑む。


 痒い。痒すぎる。マジでボールスこいつの体クソだわ。娼館なんて通ってるからこんな目に遭うんだよ。くそ、俺がやったわけじゃないのに、悲しい。


 実際は右膝を立てそこに右手を置く。左足を右に曲げ、周りから見えないように左手で股間を掻いていた。視線が気になるのは気のせいだ。殺気が効かないのはそもそも股間に全集中してるから無意味。


 そんな勘違いが発生しているとも知らぬ両者。


「――フッ!」



 レイアはその素早い身のこなしでボールスに突っ込む。コルデー聖女を守るために自分の身を犠牲にしてもボールスの足止めをしようと、細剣レイピア片手に挑む。


「はっ!――むむ〜」


 レイアの動きを察知し、ボールスの身に危険が及んでいると感じたコルデーは防御の魔法【聖楯プロテクション】をいつでも発動できるように待機する。


「――ん? 何が――」


 そこで何か周りが騒がしいことに漸く気付きナニを触っていた手を止め顔を上げる。目と鼻の先には白銀の刃が迫る。そして突撃してくる女性の姿。


「私が貴様を――えェェ!?」

「――うぉぉぉ!?」


 ボールスに向けて切り掛かったレイアはその人物の顔を見た瞬間、悲鳴を上げる。ボールスも目の前に白銀の刃が近づいてくることを知った。ただ知ったはいいが避けれるわけもなく叫び頭を両手で抱え、縮こまるのが精一杯。


 驚き軌道がズレたレイアの細剣レイピアの刺突はザシュッと、ボールスの頭上スレスレの木に刺さる。


「ほっ〜」


 コルデーは何もなく無事だったことに安堵する。


「な、何? 何なの? 誰? 敵??」


 状況が全く何も理解が及ばず忙しなく首を振りガタガタと震える性○患者雑魚


 そしてボールスに手をあげようとしたレイアは――


「あ、あぁ、あぁ…」


 と、声にならない声を溢しボールスの近くに歩み寄る。細剣レイピアは木に刺さったままだ。


 な、何? マジで、何。怖いんだけど。新手の魔物…?


 俺に手を伸ばし肩をワナワナと震わす。顔を俯かせ譫言のように「あぁ、あぁ」と口にして歩み寄ってくる人物。その人物は俺含むみんなが見ている前で…何故か俺の前に来て膝立ちをする。そしてこうべを垂れるような体勢に入り――


「お会い、お会いしたかったです。ようやく会えました。私です。貴方に救われたレイア・フレンツァです――!」


 女性騎士はそれだけ口に出し顔を上げる。その顔は泣き顔で、でもやっと思い人と会えた喜びから嬉しそうに微笑を浮かべていた。


 ただ一つ、俺の内心は。


「……」


 だれ?


 真面目に誰かわからなかった。殺されそうになり、突然「お会いしたかった」と言われる。それも見ず知らず(多分)の人物に。



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