第二六話

 真哉は通信制中学校で大学受験用の世界史を勉強し、教会で聖書を勉強する。


 (本当にこの子にスターレット資格を取らせて牧師の道に進ませてよかったのだろうか?)


 しかし真哉は毎日が楽しいという。普通の中学校に行ったらいじめにあっただろうと。


 (息子が幸せになってくれたら、それでいい)


 通信制中学校は卒業式も修学旅行もない。替りに家族が修学旅行のプランを立てて修学旅行とすることが五日分許されている。もちろん五日分は出席扱いになる。国内旅行限定である。息子が選んだのはなんと大阪であった。定番中の定番である京都・奈良をわざと外し西日本最大の都市である大阪を選んだのだ。お笑い劇場や大阪城を見る。まさに京都や奈良にはないものが隣にはあった。息子はそのまま通信制高校に進学した。そしてついにその日がやって来た……。真哉はスターレット試験の合格発表の場に来ていた。掲示板を見る。自分の受験番号はあるのかどうか。そして……。


 「あった!」


 一斉にどよめいた。


 こうして親子で二代史上最年少スターレット資格者が誕生した。「胴上げだー!」の声が響く。真哉は胴上げされた。


 ――ばんざーい! ばんざーい!


 合格発表の空は晴れ渡っていた。

 拓哉は合格発表の場を後にする。博士後期課程入学から六年後、とうとう博士論文の最終口頭試問を終えた拓哉は八景学院の掲示板の前に居た。そして博士後期生修了候補者の名前に……自分の学生番号があった。文系の世界では博士号を取る事は至難である。しかし拓哉は見事に六年掛かったが神学の博士号を課程博士で取得したのである。スターレット資格職関連の査読論文は既に十本以上持っていた。理系と違い文系この世界で博士号を取るには六年という年月はかなり短い方である。自分の教会に戻るとパーティーと例の箱があった。


 「恒例の卒業旅行をおこないま~す」


 「まだやるんかい!」


 「伝統行事だからな。あきらめろ二人」


 「川越」と「高松」と「稚内」を抜いた行先は根室、旭川、札幌、函館、青森、盛岡、秋田、仙台、いわき、日光、東京、千葉、銚子、大宮、高尾山、横浜、鎌倉、箱根、名古屋、伊勢、広島、鳥取、福岡、長崎、熊本、別府、那覇の計二七の地名が書かれているものをそれぞれ丸めて箱の中に入れて拓哉が選ぶというものであった。拓哉が引いた行先は「那覇」だ!


 「当たりも当たり、大当たりじゃねーか!」


 「でも、一泊二日だから飛行機に乗ってるだけようなもんかもな」


 「それと重要な事言うけど、二月の沖縄は泳げないから。海開きは四月だ。実は那覇の行先は『はずれ』なんだよ」


 「うぎゃ~!」


 こうして家族で那覇に行く。息子にラウンジの使い方も教える。これも勉強だ。今度は息も帰りもスーパーシートだ。スーパーシートだと国内線でも食事が出るのだ。ワインまで出る。こうして那覇に到着した。まず人の多さにびっくりする。沖縄は日本で唯一少子高齢化にならなかった都道府県である。そしてもう一つの特徴は沖縄だけ一部離島を除き唯一空き屋問題が起きなかったことだ。経済は順調に成長し、沖縄だけ「失われた三〇年」にならない。ゆえに本土より物価が高い。沖縄旅行というのは今や本土に住む人間にとって贅沢なのだ。ゆえにペット霊園用地の確保が大変だった。北部バプテスト派が用地を取得した費用は本土平均の三倍の額だとも聞く。このためペット霊園もミニサイズだ。別にペット霊園兼宿坊といった聖域を設けなくとも沖縄の人は気楽に生きていけるのだ。そして沖縄の人は全員とは言わないがブラック企業とは無縁である。なぜならチェックインした直後宿坊管理人は管理所を後にして隣の家で泡盛呑みながら踊っていたのであった。もちろん拓哉たちも……。沖縄は比較的同じ北部バプテスト派の米軍兵士家族も利用する。翌日、首里城を観光して急いで那覇空港を後にする。沖縄の人は「幸せとは何か」を心から理解しているから失われた三〇年にならなかったのだ。


 「沖縄って羨ましい」


 真哉が言う。


 「沖縄のように日本全国の人が幸せになるよう、お前も聖職者として頑張るんだぞ」


 「うん、お父さん」

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