第二四話

 多忙の日々の中洋子は新たな命を宿し、そして子が産まれた。


「この子があまり人間関係がうまく築けなくても幸せに出来る社会にしないとね」


「ああ」


「ところでこの子の名前は?」


「それはね……」


 真実の真に拓哉の哉、真哉よ。


「すばらしいよ、洋子」


 空は新たな命を祝するかのように晴れ渡っていた。洋子は退院し子育てに奔走していたある時、教会に手紙が来ていた。差出人は加藤神父である。


 『私も少年時代に生きづらさをかかえ、地獄の日々を送っていた。そんな犠牲者を二度と出すまいとスターレット資格を創設し、ペット霊園兼宿坊を普及させた。あの時高校生聖職者である君の存在を反対したことについて謝罪したい。申し訳ない。ところで、私は公立通信制小学校、公立通信制中学校を提唱し、宗教の垣根を越えた超党派で国会に誓願する。貴殿もいかがだろうか? いい返事を待っている』


 拓哉は悩んだ。この子だって俺と洋子の子。将来は「ボッチ」になる可能性大である。そもそも発達障害を持って生まれてきた可能性だって十分にある。将来、二次障害であるうつ病を患う可能性だってある。

 過去の事はいったん棚に上げて加藤神父の提唱に賛同し、「ボッチ人生完結コース」を目指すべく公立通信制小学校、公立通信制中学校の賛同を得るために奔走した。人間は人間をきずつけ罪な生物ものである。極力人間と関わりたくない人の人生の選択肢を作る。既に消費生活はネットで完結し、職業生活はペット霊園兼宿坊や仏教や神道の宿坊職で成立している。あとは小学校、中学校という学校生活だけが集団生活を強制されているのである。学校生活で精神を病むくらいなら通信性教育にするべきである。体育や美術はスクーリングにしてしかもマンツーマン教育にすれば十分ではないか。

 公立通信制小中学校の請願は宿坊職を中心になんと五百万人、家族を含めると一千万人を超えていた。とうとう国会で審議され、公立通信制小学校、公立通信制中学校制度が実現した。加藤神父とは国会で出会い、二人の確執はこの時和解した。

 牧師になってから超党派でやらねばならないことがもう一つあった。職安は宗教色の求人を受け付けてくれない。宗教の勧誘になってしまうからだ。そこで仏教、キリスト教、神道の超党派で求人や求職ができる「ハローワーク宗教」を作ったのである。ハローワーク宗教も空家を改造したものである。もう一つの目的はカルト宗教の餌食になる人間を防ぐという点にある。

 ハローワーク宗教は普通のハローワークと一緒だ。タッチパネルで求人を検索する画面に「仏教」・「神道」・「キリスト教」とある。これはかならず一つしか選べない。次に進むと勤務地などのこだわり条件を検索する。紹介状を求人者に渡し、面接するだけである。ただし、書類選考は不可である。その代り応募者多数の場合は一斉に筆記試験を受ける。いかに公平に採用するかに力を入れる。

 超党派で生活自立支援センターも作った。ホームレスになってからまず生活を自立させ宗教職業に応募もする。知的障害や精神障害があれば手帳を取らせ、福祉のお世話になってもらう。もちろん仕事は宿坊管理人のバイトからである。「リスタート業務」と読むことが決まった。まさにホームレス・ゼロ運動である。なぜ無人仏閣になったのか。なぜ無人教会になったのか。答えは人を救ってこないから宗教が見捨てられたのである。そんな当たり前の使命を取り戻すべく、宗教界は日々奮闘を始める事となった。ホームレスに落ちる人は人間関係を築く人が難しい人たちである。だからこそ「ぼっち」でも勤められる宿坊職は彼らにとって福音なのである。

 

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