第二三話

 赴任直後、彼らは戸塚教会で式を挙げ結婚した。両親やお世話になった人たちの顔が次々見える。教会赴任したばかりなのにもう新婚旅行で教会を一週間も開ける事となった。なにか申し訳ない。旅行先はトンガである。プロテスタントの国で南国のリゾート地として有名だ。さすがに今回は宿坊ではなくホテルに泊まった。トンガはGDPこそ発展途上国の水準だがとても暮らしやすそうだ。必要以上のものを求めない。労働時間も短時間なのだ。ビーチでぼーっとしたり泳いだり……。そんな日が続いた。トンガの教会にも行ってみた。みんな楽しそうにゴスペルを歌っている。まさに楽園である。日本に足りない何かが、ここにはあった。帰国して二人は教会に戻った。

 拓哉たちは第二成人式に出席した。拓哉は学部・修士と出てから第二成人式に出ているので割と早い第二成人式出席となった。本物の成人式には2人とも出ていない。同期にからかわれるからだ。中には三〇代、四〇代が第二成人式に出席している。これでも大分中高年の第二成人式出席数は減った方なのだそうだ。スターレット資格者や仏教・神道の宿坊の増加で社会に生きにくさを感じている人間は大幅に減ったのだ。拓哉は牧師十か月目にして第二成人式に出席している。


 「成人というのは二十歳になったら誰もが成人するのではない。自分で経済的にかつ精神的に自立出来た日が本物の成人の日だ。みなさんはようやく本当の意味で成人出来たのである。神に感謝」


 「神に感謝」


 ちなみに仏教の第二成人式だとお経が、神道の第二成人式だと祝詞が述べられる。加藤神父はやっぱり偉大だ……。第二成人式に出られる人というのはそれだけでも救われた人が多いという意味だ。ちなみに経済的に未成年でも自立していても二一歳以上でないと第二成人式に出席は出来ない。あくまで「第二」の成人式だからだ。成人式が終わると教会でパーティーが行われる。自分はもう牧師なのだ。スターレット資格で働く人間じゃない……。本来今日は日曜礼拝の日である。替りの人が説教などを行っているのである。洋子も第二成人式に出席している。洋子はもうおなかに新たな命を宿している。残念な事に女性牧師の職を解かれてしまった。洋子は産休に入ったのだ。


 ――俺も父ちゃんになるんだ……。俺で大丈夫かな?


 「拓哉どうしたの……?」


 「なんでもない」


 「あまり思いつめないでね女性牧師なんて復職できるんだから」


 「何でわかったのさ」


 「だって、あんたの妻でしょ」


 「ありがとう」

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