第二一話

 学部の卒業式と大学院の入学式の間に約一週間ある。そこで恒例の卒業旅行に出る事となった。「川越」を抜いた行先は稚内、根室、旭川、札幌、函館、青森、盛岡、秋田、仙台、いわき、日光、東京、千葉、銚子、大宮、高尾山、横浜、鎌倉、箱根、名古屋、伊勢、高松、広島、鳥取、福岡、長崎、熊本、別府、那覇の計二九の地名が書かれているものをそれぞれ丸めて箱の中に入れて拓哉が選ぶというものであった。今度は洋子も一緒だ。引いたくじは「高松」である。今度は当たりだ!!と喜ぶ。うれしい声と残念がる声に二分される教会内。今度は仏教系の宿坊に泊まる。さっそく新横浜駅から新幹線で約三時間で岡山駅に行き、そこから快速マリンライナーグリーン席に乗る。グリーン席は二階席である。瀬戸大橋と海の景色が絶景だ。一時間ほどで高松に到着した。史上最年少スターレット資格合格者及び史上最年少女性スターレット資格合格者が仏教宿坊に泊まると言うので仏教系の新聞の報道陣の取材を受けた。無人だったこの寺も今では対人関係が築けなかった氷河期世代の元ニートが運営している。まさに宗教を除けば全くペット霊園兼宿坊と同じなのだ。チェックインを済ませると無料拝観券をもらう。明日使える拝観券だ。二人は早速本場の讃岐うどんを堪能し宿坊に泊まった。翌日、無料拝観券を使って仏像を見た。本尊は千手観音で二十八部衆も風神も雷神もそろっていた。よく一旦無人仏閣に落ちて仏像が無事だったものだと感動する。幸いにもこれらの仏像は窃盗に会わなかったのだ。そしてやっぱり二十八部衆の中に居た阿修羅はやっぱりかっこよかった。興福寺の阿修羅像や京都・三十三間堂の阿修羅像や京都・清水寺の阿修羅像だけが「阿修羅像」じゃないことを2人は再確認した。やっぱり朝食も讃岐うどんでそのまま琴平の金刀比羅宮にむかった。定番の観光を終えた二人は坂出駅から快速マリンライナーグリーン車に乗って岡山まで行き、新横浜に戻った。


「宿坊で生きづらい人の居場所が確保されて、しかも仏像の管理と拝観まで出来ている。いろんな意味で仏に救われた人が多いんだね」


「キリスト教ももっと人を救わないとな」


「佐藤君はカトリック系の天使像のある宿坊に就職したしな」


「プロテスタントは何か別の方法でもっと宿坊を増やさないとだめですよね」


「そうだよなあ。正教会はイコンを売りにしてるしな」


二人は今回も旅行で収穫があったことを再確認した。

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