第十四話

 修学旅行とは別に卒業旅行も行われた。卒業式の後に行う事となった。卒業式は淡々としたものだった。というかとっとと高校の敷地内から出て制服など脱ぎたかった。拓哉も洋子も今、自由となったのだ。卒業旅行は一泊二日でこれもまたペット霊園兼宿坊に泊まる。今度はくじを引いて行先を決める。行先は稚内、根室、旭川、札幌、函館、青森、盛岡、秋田、仙台、いわき、日光、東京、千葉、銚子、大宮、高尾山、横浜、川越、鎌倉、箱根、名古屋、伊勢、高松、広島、鳥取、福岡、長崎、熊本、別府、那覇の計三〇の地名が書かれているものをそれぞれ丸めて箱の中に入れて拓哉が選ぶというものであった。

 拓哉が選んだものは「川越」であった。はずれもはずれ、大外れである。教会の一同は「戸塚から日帰りで行けるんじゃね!?」と笑った。

 「うぎゃ~!」

拓哉が叫ぼうが卒業旅行と「本物の修学旅行」は別の物。彼の卒業旅行先は川越となった。翌日上野東京ラインのグリーン車に乗って戸塚から大宮まで行く。少しでも旅行気分を味わうためだ。定番のシュウマイ弁当を買って食う。ここから川越線で川越駅に着く。川越観光を堪能した後に彼は的場という観光エリアの駅から二駅ほどの近所にある神社の宿坊に到着する。観光エリアとは違いやはりここも都心回帰現象と少子高齢化が深刻で空き屋だらけである。川越はやはり都心から約三〇キロしかないベッドタウンにすぎないのだ。むしろこの姿が川越の本当の姿なのである。神社宿坊にしたのは川越が舞台の漫画原作『神主始めました』の舞台が川越だったことだ。宿坊はなにもキリスト教式のペット霊園兼宿坊や無人仏閣から再有人化した仏教寺院宿坊とは限らない。むしろ観光都市として再出発する川越にとって神社系宿坊は外国人に大人気で地域創生の教科書にもなっているほどだ。もちろん神社系の宿坊も「ぼっち」でも勤められるように出来ている。むしろ日本全国圧倒的に神社やお寺の方が多いのだ。だったら「キリスト教のペット霊園兼宿坊にしよう」とするにはどうすればいいのだろう。うかうかしていると神道の宿坊や仏教の宿坊にお客を取られかねないのである。と言うか既にそうなりつつある。外国人にとって特に欧州は北米、南米、豪州の人にとってキリスト教は日常の世界である。彼らは非日常を求めて神社や仏閣の宿坊に泊まっているのである。これに対しキリスト教系のペット霊園兼宿坊は「二二きっぷ」のシーズン以外は苦戦する。外国人客もあまり来ない。考えさせられる旅となった。

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