第十三話

 卒業目前に『本物の修学旅行』の時がやって来た。もちろん宿泊先はスターレット資格者が運営するペット霊園兼宿坊であった。拓哉と川本牧師はパスポートを取った。洋子は家族側が拓哉と行くことを許なかったので成田空港でお別れとなった。航空機を見送る洋子。行先はワシントンD.C。空港に到着すると「日本の高校生スターレット資格者拓哉君いますか?」というプレートを見つけた。お世話になるのはチャーリーさんだ。スターレット資格は今や国際共通資格。もちろんアメリカにも多数いる。そしてアメリカにも高校生聖職者が誕生したとのこと。ぜひ、日本高校生スターレット資格者を見たいとのことであった。ペット霊園が見える。昔、ここは治安の悪い地域だった。富裕層や中間層は郊外に移り住んでしまったのだ。ドーナツ化現象の典型であった。スラム地域を教会の力で大規模ペット霊園兼宿坊にする。こうして職も確保し貧困撲滅も行う。このため米国のスターレット資格の方が資格の重みが違う。文字通り「地域再生人」なのだ。今ではこの地域の治安も良いという。とはいえ窓は防弾ガラスだし、カードキーで厳重に管理される。


 「今は大変治安がいいんだよ」


 チャーリーさんは苦笑いする。通訳の川本牧師も苦笑いしながら拓哉に伝える。支払はクレジットカードが主流だ。日本のように鉄道系電子マネーが主流ではない。もちろん日本のペット霊園兼宿坊と同様外で食事をする。

 チャーリーさんはリーマンショック後に名門リルリンチ証券を首になった。国民皆保険制度じゃないアメリカ合衆国で解雇されるという事は最悪命にもかかわる。そして失業中のチャーリーさんに病が襲いかかる。幸い治療のおかげで命を落とすことは免れたがチャーリーさんは治療費で破産した。これがアメリカの現実だ。チャーリーさんは家を失いホームレスとなった。教会の炊き出しの時にスターレット資格の事を知り政府の「チャレンジプログラム」を受け、四回目の試験で合格した。今宿坊横の寮に住んでいる。寮費は日本同様無料だ。文字通り地獄から這い上がってきた人物だった。知れば知るほど「ペット霊園で町づくり」の本場はアメリカなのだという事を思い知る。

二日目の宿泊先はNY郊外のペット霊園兼宿坊であった。NYでも同様の話を聞いた。宿坊管理人はケントさんで自動車メーカーアメリカモータース通称AMを解雇されてデトロイトからニューヨークに流れ着いた人物だ。彼も教会の炊き出しの時に政府の「チャレンジプログラム」を受け、二回目の試験で合格した。


 「日本車が憎いと思った時もあった。だけどよ、この国は錆びついているんだ。俺たちの住んでいる地域は『ラストベルト』とよく言われたよ……」


 彼が勤務していたAMは後に破産した……。もちろん整理解雇となった。


 自由の女神など典型的なニューヨークでの観光を楽しんで帰国する。拓哉はあまりにもえられるものが大きかった。まさに本物の修学旅行であった。

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