第十一話

 拓哉は研修で習った通りのままの呪文を唱える。ものものしい文句がペット霊園に響き渡る。最後に「安らかに眠れ!」と言って札を貼った。


 (ふっ、決まった)


 噂を聞きペット霊園内でこの姿を見た高校生がいた。


 ――あれが噂の高校生聖職者らしいよ……。


 ――ばっかじゃね!?いい年齢こいて。


 ――中二病そのものだな。


 とざわついた。しかし、洋子は違った。


 (かっこいい……私も早く除霊業務やりたい)


 平日は普通の高校生に戻る。屋上で洋子に今度は手作り弁当を渡す。


 「おいしい。ハンバーグに野菜炒めね。シンプルだけどおいしいよ」


 拓哉にとってはその笑顔だけで十分だった。屋上にしか居場所のない俺たち。でもそこは最高の居場所だった。


 土日にしつこく除霊業務をやった成果が出たのか、やがて『霊が出る』という噂は消えた。うれしいことは続いて起こるものである。洋子が十七歳でスターレット資格に受かったのだ。女性史上最年少の合格者となった。


 「ばんざーい、ばんざーい!!」


 教会中でお祝いが行われる。


 「ありがとう」


 「洋子さん、でね……実はめったに産休や育休の枠があるわけじゃないんだ。でも、バイト枠はもう確保してある。久里浜で平日にバイトしている村上さんがもう七五歳で定年なんだ。そこで……」


 「えっ!!まさか!」


 「そう、拓哉君が土日。洋子さんが平日の担当だよ。時給は一一〇〇円。清掃とかは一切なし。それは午前中の産休・育休代替臨時職員の仕事だ。君はチェックイン業務の合間に受験勉強しても構わない。どう?」


 「はい、頑張ります!」


 この瞬間、女子高生聖職者が誕生したのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る