第十話

 伊藤の二年次三月の模試の結果は英語が偏差値三七、国語が偏差値四二と散々であった。もっとも高校三年生や高卒の浪人生も受けるのだから二年の拓哉の成績がかんばしくないのはよくわかる。世界史も偏差値五〇であった。東洋史や近代史はまだ全然勉強していなかったからだ。一般入試ですらこれでは八景学院なら受からないかも……。もっと偏差値の低い千葉にある日本キリスト教大学や三鷹にある日本神学大学ならどうにか受かるだろう。だが、学費の事を考えると彼は莫大な奨学金を背負う羽目になる。それどころか戸塚から三鷹に通学するのは厳しい。しかも三鷹と言っても武蔵境駅からバスで二〇分はかかり事実上調布市に近い場所に日本神学大学はある。通学できる距離ではない。アパート代や下宿費用を入れると現実的な選択肢ではなかった。千葉にある日本キリスト教大学は成田市でまず戸塚からでは通えない。三鷹よりも遠い。


 「英語だ。英語どうにかしよう!」


 以来神学用の英語も使って関係代名詞などを勉強する。が、彼は中二あたりからつまずいていた。不規則動詞などを勉強することから始まった。いかに拓哉は理科や社会が出来て英語や国語が出来ないため公立高校に行かざるを得なかったのかよくわかるものである。

 水曜の夜間礼拝以外の日に英語塾を川本が無料で実施する。土日はペット霊園兼宿坊管理人の仕事である。幸い葬式は上位神職者の仕事である。粛々と業務をこなす。最悪俺はペット霊園兼宿坊職を一生の仕事に出来る。でもそれだけじゃ物足りない。


(牧師になってスターレット資格者をも救う人間になりたい!)


 そのためにはまずスターレット資格者の業務を肌で感じる必要があった。それだけではなかった。今無人仏閣だけではなく無人教会が問題になっているのだ。あまりにも人が少ない過疎地域は教会の高齢化どころか無人化が進んでいるのだ。そういった地域を救うことも出来ないか。拓哉はそこまで考えていたのであった。

 そもそも拓哉のバイト先のペット霊園兼宿坊だって久里浜という首都圏郊外から地方に戻りつつある地域なのである。横須賀市は少子高齢化が深刻であまりにも有名で首都圏から最も近い廃村まで出現した市で有名である。米軍や自衛隊、巨大な自動車工場だけが「横須賀」ではないのである。そんな時、川本牧師から業務命令が出た。


 「君、スターレット資格者は除霊業務が出来る事知ってるよね。実はまたしても幽霊話の噂が出てね。だから来週の土曜日に除霊業務を行ってほしいんだ」


こうして高校生初となる除霊業務の時がやって来た。


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