第九話

 写真部のコンテストと言っても困った。まあ、まず覚えることは一眼レフの使い方である。覚えた後に何を被写体にするかが問題だった。教会を撮るのが一番なのだが、宣教活動を禁止されているため、教会建築物をアートとして被写体にすることは難しい。しかもペット霊園兼宿坊の仕事で二人とも忙しいのだ。神社というサプライズはもう使った。なにかないものか……。動物なんてありきたりなものは駄目だし……。そういえばペット霊園の本当の目的って空き屋解消による都市再生だよな……。空き家……。そうだ、都市の遠景を取ろう。


 二〇xx年の首都圏の光景はある意味滅びの美学を備えていた。元ニュータウンのオールドタウン。自立できずにフリーターやニートに甘んじる四〇代や五〇代のフリーター。そこらじゅう介護の車でいっぱいなる午前中の県営団地の駐車場の光景。都市の遠景を二人は取り続けた。写真は残酷だ。言葉はなくとも真実を写してしまう。いくら「美しい国日本」と言おうとも「日本凄い!」と言おうとこれが日本と言う国の現実なのである。タイトルも衝撃だ。「衰退国の一光景」というタイトルなのだ。これらの写真を高校生写真コンテストに出した。見事に佳作に入賞した。ただ、学校内の反応はさらに複雑になった。一部の高校生から「日本を貶めやがって」と非難が来たのだ。しかし、写真はいろんな見方ができる。その写真をどう感じるかは見る者に委ねているのである。二人は何も語らない。とりあえず、写真部は偉業を達成したことだけは確かだ。


◆◇◆◇


 年を越し高校二年の二月にとうとう修学旅行の時がやって来た。四日間の間代わりの人間がバイトに入る。それだけでも嫌だった。しかもバイト代の稼ぎが修学旅行に回る。貴重な学費が……。拓哉と洋子はまるで上の空だった。しかし、誓約書にサインした以上修学旅行に行かざるを得なかった。別に仏教や神道が嫌いだったわけじゃない。むしろ好きである。しかし無理やり行かされるのと自分から行くのとでは話が別である。二人は見事四日耐えた。そして無事だったことを二人は牧師に伝えた。


 「よくやった!!」


 「よく耐えたな!お前ら!!」


 教会中から祝福された。


 「そうだ、本物の修学旅行やろうぜ!」


 「教会の資金で視察旅行やろうよ、海外研修!!」


 みんなの意見に涙を流す拓哉と洋子。


 「ありがとう。本物の修学旅行楽しみにしてるよ」


 「僕たち北部バプテスト派にとってアメリカはいろんな意味で修学の場なんだ。修学旅行の場所はアメリカにしよう。ワシントンD.C.にいる友人に声をかけてみるわ。ちょうどペット霊園兼宿坊管理人の知人もいるみたいだし」


(ワシントンにニューヨークだって!?)


 京都や奈良に負けないぐらいの名スポットであった。しかも自分のやっている仕事場は海外ではどうなっているのか興味津々だった。


 「貯金しておかないとな」


 「教会からも資金援助するぜ」


 「みんな、本当にありがとう」


 教会は、暖かった。

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