第六話

 それまで変わり者扱いでいつも「ボッチ」だった拓哉は学校内の立場が変わった。誰も話しかけてこないのだ。だが坂本洋子だけ「ちょっと拓哉、いい?」と話しかけてきた。

 校舎の屋上にやって来た。

 「実はね、私の父もリストラされてね……。それで私も拓哉君を見習ってスターレット資格を取ろっかなって思うの。勘違いしないでね。私はあなたよりもっと上の神代大学の給費試験を受けるし洗礼を受けるつもりもないよ。私はあくまで学生時代のバイト代のための武器の為だけに取るの」


 「分かったよ」


 「要は受験サポートだろ? 一緒に教会のスターレット対策塾に行こう」


 「何で分かったの?」


 「顔に書いてあるぜ」


 こうして戸塚教会はスターレット受験対策の名門校となった。戸塚教会は八景学院だけでなく神大の給費生受験対策まで行うようになったのだ。


 「みんな、受験勉強の後はカードゲームしようぜ!」


 今まで笑った事のない洋子が笑っている。


◆◇◆◇


 洋子は屋上で手作り弁当を持ってきた。


 「これ大丈夫かな?教会で料理覚えたんだけど……」


 拓哉は食べた。


 「うまいよ。これ、うまい!!」


 「教会っていろんなもの作るじゃない? だからあなたに実験台になってもらおうと思って」


 「今度、僕も君の分まで作るよ」


 その言葉を聞くと洋子は真っ赤になった。


 「楽しみ」


そういうと階段を下りてしまった。


◆◇◆◇


 春がやって来た。二人は高校二年生になっていった。

 母は独身時代の経験を活かして事務職の派遣を始めた。派遣の収入でどうにかなって行った。母の派遣の収入で世帯年収は三〇〇万になった。家庭はようやく落ち着いた。健康保険も加入できた。父はまだ働ける状態ではないが家事全般をこなすようになっていった。おかげで母は残業も出来るようになり収入がさらに増えた。県立高校だから、ようやくこれで学費が払えるというものである。県立高校の学費は年額十万である。ギリギリ払える金額であった。


(やっと落ち着ける……)


 教会に行くと川本牧師が血相を変えて拓哉に伝えた。


「大変だ。拓哉君。君の労働がカトリック側から反対されているんだ!」

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