第五話

 拓哉はスターレット資格を手にしてバイトしながら水曜夜間の教会学校に通い洗礼の準備をしていた。もっともスターレット資格があるので聖書の知識は既に十分にあるとみなされている。あとは心構えだけであった。スターレット資格は何も職業に就くためだけの資格ではない。特にプロテスタントにとって聖書の内容を理解しているかどうかが重要なので聖書百点だけでも合格した場合は洗礼許可証にもなる。

 しかし拓哉の通っている教会は会衆制の宗派である。教会員全員の許可が無いと洗礼の許可がもらえないのだ。みんなが認められて初めて洗礼を受けることが出来る。幸いみんなからの信頼も篤い拓哉は洗礼の許可が出た。日曜に信仰告白をして拓哉は受洗した。こうして拓哉はクリスチャンになった。親が泣いている。北部バプテスト派は幼児洗礼を認めていない。ちゃんと聖書を理解しないとキリスト者になれないのだ。だから信徒としても拓哉はかなり早い方になる。


「おめでとう」


「お前の信じた道だ。応援するよ」


「ありがとう」


 洗礼を受けたからと言って何も生活が変わるわけではなかった。お寺や神社に行こうが全く問題などないし、お賽銭もOKである。誤解している人もいるが一切他宗教を拒否するのがキリスト者の立場ではない。というか北米最大宗派の北部バプテスト派のカナダ人、アメリカ人がよく日本へ観光しに来るがカナダ人もアメリカ人も普通に京都や奈良に観光してお賽銭を投げている。キリスト者とはそんなものなのである。拓哉も同じである。

 唯一変わったことと言えば拓哉は教会員になったということである。すなわち共同体の一員として教会を運営する一人になったのである。


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