第二一話

 加藤は佐藤誠のような若者を集めて第二成人式も行った。彼らは好きで社会に出なかったのではない。無理やり非正規労働の枠に押し込められ、さらには本来なるべき「大人」世界への立ち入りを拒否された者たちである。「第二成人式」参加資格は正社員経験が通算三年未満の者も含まれる。「第二成人式」の会場はもちろん教会だ。そしてもちろん成人式を行う日は成人の日だ。開催時間は彼らの負担を考えて午後からである。第二成人式に聖歌が響き渡る。


 「今ここに居る者は三五歳、四五歳、あるいは五五歳になってようやく大人の門を叩けた。それはまことにうれしい事である。あなた方は今、本当の意味で大人になったのだ。だからここで第二成人式を行うことを宣言する!」


 拍手喝さいが教会中に起こる。


 加藤神父はTV局の取材を受けた。加藤神父はこう答えた。


「彼らは『社会のせいにするな』、『自己責任』とずっと社会から叩かれながら『子供』として生きることを強制された人たちです。でももう親元から経済的に自立できたのです。これこそ本当の意味での『大人』です」


 メンバーを見ると合コンが成功して結婚してから第二成人式に参加した者もいる。いかに彼らにとって文字通り「失われた30年」だったかを思い知らされる出来事となった。

 加藤神父と松田洋介助祭は第二成人式後にこっそり居酒屋に入った。松田洋介は所属する教会の神父のアシスタントはもちろんの事、ペット霊園で葬式を行い聖句を唱えペットに引導を引き渡す仕事もこなしている。


 「大人ってなんですかね?」


 「じゃあ逆に聞くけど成人式終わったらみんな『成人』すると思う?」


 「そうじゃないから『第二成人式』やってるんですよね?」


 「大人って自分で責任取れるやつが大人なのさ」


 「経済的な自立もそう。自分で経済的な責任もって生活してる。それが大人」


 「ということは……」


 「そう。今の大人はみんなガキだよ。大人になれない大きな子どもを非正規雇用で酷使してる。最低な『大人』だよね。それを『コストパフォーマンス』とか彼ら、彼女らに言ってね。で、都合のいい時だけ『おまえらは人間力が無い』とか『協調性が無い』などと説教する。最低だよね。彼ら、彼女らの人間力を奪ってるのは俺を含むてめえらなのにね」


 「どうでもいい便利なサービスや価格の安さとやらで本来未来を担うはずの大人を子供のままで酷使しないでほしいね」


 「『大きな子ども』を作ったのは我々大人の責任だって事すら我々は自覚してないんだからね。そういうの無責任って言うんだよね。無責任って子供のやることだよね。『俺は悪くねえ!』とか言ってね。まさにガキだよ」


 「そうすっね」


 「傷ついた彼ら、彼女らの心を癒しながら彼ら、彼女らを救い、同時に彼ら、彼女らも天国に召された動物の心を癒しながら大人になる。それって『神の愛』を与えてると思うんだ。全員が。素晴らしいことじゃないか」


二人はビールを飲みまくった。


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