第二二話

 気が付けば、加藤はペット霊園で町おこしをしたことに気が付いた。街ではない。町である。ペット霊園の中に宿坊があり、さらにペット霊園管理兼宿坊管理者の寮がある。宿坊も寮も空き家を転用したものだ。ペット霊園には椅子もある。駐車場もある。向かいには墓参り客向けの生花店も石材店もある。宿坊はベッドメイキングが必要なためペット霊園兼宿坊の近所にはコインランドリー店が増えた。元々コンビニだった店舗がコインランドリー店になっている。もはやちょっとした町なのだ。加藤が行ったのはペット霊園主体の町づくりだったのである。

 加藤がキャッチフレーズとして世に出した「ペット霊園で町づくり」は特に地方のシャッター商店街によく利いた。シャッター商店街の一部を更地にしてペット霊園にし、横に宿坊と寮をそのまま空き店舗兼事務所転用した。すると時間が経つにつれて空き店舗だった店が生花店として開業し始めた。いつのまにかシャッター商店街に銭湯が出来た。犬や猫の写真データをもとに銅板メッキを施す墓石販売店も出来た。プラスチックメッキの量産化はミッション系大学の八景学院大学が世界で初めて行ったものだが、その技術が応用された。ペットの生前の写真データを銅板メッキや金メッキとして墓石に施すことが出来るようになったのである。まさに技術と宗教がつながった瞬間であった。そのほかにコインランドリー店も出来た。駐車場も広い。駐車も楽々だ。驚いたことに商店街にはドックカフェや猫カフェまである。ドックカフェとは犬同伴可のカフェの事で猫カフェとは店が飼ってる猫と戯れるためのカフェの事だ。もちろん猫カフェで活躍する猫が死んだらペット霊園に埋葬される。

 コンビニはあるが無人店舗である。ICをかざしてゲートに入り、ICをかざして支払い、ICを店内でチャージ出来、ICカードをかざして退場する。未会計の商品を持ちだすことが出来ない。商品の入れ替えはICタグによって管理され、陳列時に除去するだけである。

 外食店舗も一緒である。調理もすべてロボットが行っている。会計はICカードで済ます。つまりこれらの業種は元から人間など要らなかったのである。

 生花店店主は加藤に言う。


「こんなにもキリスト教式のペット霊園って明るくて花でいっぱいなんですね……」


加藤が聞くと店主は生花店を一旦休業したが再開業にこぎつけた人物だという。


 「あ、トラックが来た」


 花を積んでいるトラックも無人だ。もうトラック運転手悲惨物語などない。

 都会のマンション型ペット霊園から郊外型のペット霊園に墓を移す人も見られる。納骨堂は一年三千円~五千円が相場で納骨された壺を陳列するのが一般的だが良く考えて見れば、十年経てば5万円である。ペットの寿命は犬や猫の場合十五~二十年なので飼い主が継続してペットを飼った場合二匹目の寿命が来ることになる。そうなると納骨堂に収める金額が六千~一万円となってしまう。ならばペット用の土地付きのお墓を最初から作ったほうが長期的に見れば安上がりなのである。コストパフォーマンスの観点から都会のマンション型ペット霊園はこうして衰退していった。やはり都心は人間が住むマンションのほうがふさわしいのであった。


◇◆◇◆


 加藤らが最後に提言したのは民泊法の廃止である。これほどまでに宗教界を中心に簡易宿泊施設こと宿坊が普及し、空き屋も減少したことで民泊の意味が全く無くなったのである。それどころか民泊施設は違法滞在(特に不法就労)に悪用されるケースも多い。そこで加藤神父らは宗教の垣根を越えて国会に誓願した。加藤らの努力は実り民泊法つまり正式名称「住宅宿泊事業法」を廃案に追い込んだ。


◇◆◇◆


 加藤は視察に訪れた栃木県のあるホテルから街並みを見て周りにこういった。


 「見てみろよ!俺たちはペット霊園で町を作ったようなもんだ」


 このセリフを言った翌日埼玉に戻った加藤は長らく司教への昇進を拒んできたが「ペット霊園関連の仕事に区切りがついた」ことを理由に司教職に就くことを上層部へ伝えたという。

 彼らの物語は今、やっと始まったばかりである。

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