第十七話

 加藤らが最も恐れていることがついに起きた。それはペット霊園隣の宿坊で霊が出るというデマが起きたのだ。デマ発信源はある巨大掲示板の書き込みであった。いかに日本という国は墓地に対して偏見を持っているか。宗教上層部はそこでペット霊園管理者に除霊の儀を許可する案を出した。

 本来の霊園管理者というのはお供え物に対して害獣や害虫が出ないかなどを管理するのが仕事である。しかし、霊園管理も宿坊管理も単なるルーチンワークだとAIやロボットに仕事を奪われる時代である。加藤は思った。

 ―この事件はむしろチャンスである。いいチャンスだ。そうだ、人間にしかできない仕事にしよう。

 こうして霊園内に限り魔除けや除霊の文句を言う事許可され魔除けや除霊のための札を使用することがスターレット資格者でも行えるようになった。

 宿坊については「墓が見えます。墓地が苦手な方、霊感の強い方は宿泊をご遠慮ください」と強く注意書きした。

 宿坊と寮は完全に別宅とした。空き屋を転用した寮を壁としてさらに空き家を転用した宿坊を設けるという形を絶対とした。元からそのようなタイプがほとんどであるが中にはお客様の緊急要望に応えたいという声もあったため廊下などを設けていた宿坊もあった。このようなタイプは廃止とし、緊急時には直通電話で連絡するようにした。プライバシーの面でさらに向上した。

 この科学の世紀で何が霊だと加藤らは思っていた。また除霊=祓魔師(エクソシスト)のイメージも強く、例の映画「エクソシスト」がこれに拍車をかけていた。実際の祓魔師(エクソシスト)は二〇世紀なって形骸化し一九七三年の第二バチカン公会議に置いて廃止されており、またプロテスタントなどには元から存在しない職階である。したがってスターレットの魔除・除霊業務は事実上の祓魔師一部業務の復活ということにほかならない。

 なお、スターレット資格は洗礼を求めない資格で宗派を乗り越えた資格である。魔除け・除霊方法は管理する墓地がどの宗派によるのかで変えることとなった。このため採用後に宗派ごとに研修期間が設けられることとなった。

 祓魔の呪文がペット霊園にこだまする。特に「深夜0時~一時に動物の死霊が蠢く」というデマに対しある程度呪文が利いているようだ。デマは祓魔業務によって鎮静化に向かった。当然、ペット霊園管理者の呪文を唱える姿や言葉がかっこいいのか真似する人も主に中高生でちらほら出始めたという。つまり中二病患者にも最適なお仕事となったのである。

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