第十五話

モデル人物の紹介後に加藤は「ペット霊園管理兼宿坊管理者」が底辺職と差別される実態を報告する。特に年収ランキングを持ち出してネットで誹謗中傷されると言う。給与所得者の平均年収は四三〇万(令和三年実績)という。手取り月収二〇万ボーナスなしの場合は平均年収二四〇万となる。つまり、「ペット霊園管理兼宿坊管理者は平均年収の約半額しかない底辺職だ」というレッテルを貼る者が多くなった。しかもペット霊園管理兼宿坊管理者は業務1年目であってもベテランであっても定期昇給がない。要はベアゼロなのである。将来日本がインフレ経済になり様々な物価が上昇すればいくら簡易宿泊所と言えども宿泊費を値上げし、宿泊費値上げ分を給料に反映させることが出来るが、今の日本は約三〇年にも渡るデフレ経済が進行しているのでそのようなことは期待できない。

 それに年功序列賃金制度ではないからこそ中高年であっても容易にペット霊園管理兼宿坊管理者正社員になれるのである。スターレット資格さえあれば。要はキツイ仕事を担っている人達からの妬み、やっかみが起きたのである。なんでも人を見下したりマウントを取る日本人の悪い癖がここにも現れたのである。

 加藤はこの年収ランキング至上主義に対抗するために積極的に同じペット霊園管理兼宿坊管理者同士とお見合いを勧めさせた。するとどうであろうか。世帯平均年収は五六〇万(令和三年実績)という。年収二四〇万同士が結婚すると世帯年収四八〇万である。霊園管理兼宿坊管理者は原則短時間労働の為育児休暇後の復帰も楽であった。業務は高度なスキルなど要らないためブランク期間を気にする必要すらない。ゆえに夫正社員、妻パートの世帯と世帯年収が接近するのである。日本はいまだに女性差別国家である。ゆえにこんな現象が起きるのである。それでもボーナスが出せない状態である。そこで墓参り代行業や天使像の拝観料なども入れる。これでなんとかボーナスが夏に一か月、冬に一か月分を出せるようになった。月収二〇万ボーナス二か月支給の場合は平均年収二八〇万となり、夫婦合わせると世帯年収五六〇万とこれで世帯平均年収と同じになった。

 世帯平均年収が五六〇万ともなるとさすがにゆとりを持って子供を産み、育てることが出来る。一日六時間労働週休二日制の生活は夫婦ともに心にゆとりある生活が送れるようになった。それだけでなく息子・娘の就職先を心配する必要も無くなった。ただ親の「ペット霊園管理兼宿坊管理者」職の後を継げばいいだけだからである。したがって子供の精神状態も安定を保ちやすくなった。

 フリーター率の激減と所得増は日本経済を押し上げる結果となり消費が拡大した。日本のGDPの約四分の三は内需のため内需さえ元気になれば消費が拡大し、成長するのである。こうして「失われた三〇年」に終止符が打たれたのである。同時に少子化にも終止符が打たれたのであった。

 加藤は言う。「社会に適応できない人をなじったり仕事を選ぶなという根性論を振り回すのでもなく、その人に会った能力で豊かな生活の受け皿を作るのが我々聖職者の仕事であり、それが『救い』なのです」

 世帯平均年収と全く同じ年収をもらうことによってペット霊園管理兼宿坊管理者を「底辺職」と攻撃する者はこうして居なくなった。それだけでなく高齢者雇用の受け皿にもなり特に無年金者や低年金者へ救いの手を差し伸べる結果にもなった。ただしあまりにも高齢の方の就業は就業困難であるので加藤らはペット霊園管理兼宿坊管理者の定年を満七五歳未満と定めた。加藤らは高齢者ワーキングプア―の撲滅にも努めたのであった。

 なお、七五歳を過ぎても低年金者の場合は本人の体が許す限りペット埋葬時に歌う聖歌隊のバイトの斡旋を行った。一般的に聖歌隊は洗礼を受けた方のパート・アルバイト枠として活用されている。特に外国人留学生の貴重な収入源となっている。求人は教会に張り出すのが一般的である。

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