第十四話
フェルディナント・カルロス。二三歳。フィリピン人。加藤神父が「モデルケース七」で取り挙げた人物。日本式でキリスト教式のペット霊園をフィリピンに持ち込むべく技能習得生として来日した。仕事先は静岡県の富士野市のペット霊園兼宿坊である。目の前は富士山である。外国人技能習得生の場合は特例で一年限り有効のスターレット資格が特別付与される(通常のスターレット資格は取得日から満七五歳になる前日まで有効である)。
「ぼっちでも仕事が出来るという事は言葉の壁がほとんどない」はずだ。加藤のもくろみはほとんど当たり成功した。さすがに宿泊のチェックイン、チェックアウトは簡単な日本語習得を必要としたがそこまで高度な言葉じゃない。最悪の場合、ヘルプラインとして教会に電話で翻訳を求めることも出来た。
フィリピンは中高度経済成長国である。なのにいまだに主に女性が国外へ出稼ぎに出るのである。国民のおよそ十パーセントも。そこで特に技能が無くても国内で安定した就労先を作ることと、生活が豊かになったフィリピンでのペット霊園の需要拡大を見込んでのペット霊園システム輸出となった。
カルロスは休みの日に神社仏閣などあらゆる観光地に出かけた。このため他のペット霊園管理兼宿坊管理者からも有名であった。もちろん宿泊先は宿坊であったからだ。
カルロスは性格が明るく活発で皆から好かれるような人物であった。萩原健二助祭と共に富士山の頂上まで登ったこともあった。特急列車で新宿まで行ってロボットレストランも見た。オフの日はカルロスの口から「ビューティフル」、「ワンダフル」という言葉が出ないほど充実していた。英語が出来る萩原健二助祭の負担が大変なのでカルロスとの旅行は特別に業務とした。広島の原爆祈念館や三陸の被災地では共に泣き、プロ野球の試合観戦ではともにエキサイトした。フィリピンにとって野球は割と珍しいスポーツの部類なのでどうしても強豪国日本のプロ野球を見ておきたかったのだそうだ。伊賀ではカルロス念願の忍者ごっこを体験した。もちろんカルロスは旅行に散財ばかりしていたわけではなく、母国にいる家族へ仕送りも忘れずにしていた。お小遣い程度のお金でも向こうの通貨に換金すればそれは大金だ。母国の家族は親孝行のあまり泣いたという。
カルロスは新古書店であるブックオンにもよく言った。カルロスはブックオンで買った日本の漫画を貪るように読んだ。カルロスが大量に買った漫画本は母国の村では宝物となる……。
こうしてあっという間に一年が過ぎ、彼は帰国の途に就く。帰国の際、彼は泣いた。こんなに素晴らしい人達に出会えたなんて僕の人生は最高だったのこと。そしてカルロスと萩原健二助祭は共に誰も日本人が誰も居ないフィリピンの村でペット霊園の建設に挑むこととなる。もちろんフィリピンにもスターレット資格制度を導入することも大事な仕事となる。スターレット資格は国際共通資格にするためだ。その話はまた別の話となる……。
フェルディナント・カルロス技能習得生の成功例は他の国に建設する日本式・キリスト教式ペット霊園のシステム輸出にも役に立ち、また外国人技能就労受け入れのノウハウの構築にも役立った。
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