第十三話

加藤神父が事例に挙げた六人目は山本和子。五二歳。茨城県在住。夫がリストラされ、失業保険も切れたことをきっかけに夫がコンビニのフランチャイジーを決意する。自営業主となった。「開業資金も少なく安定した収入」という甘言に騙されたのであった。実態は年中無休勤務で特に深夜帯は人手が集まってこない。このため山本和子も無休に等しい状態で特に深夜のバイト応援に出る。

 売り上げの半分がロイヤリティーで持って行かれる。そして恐怖だったのが近隣に同じコンビニ店が進出してきたことである。夫婦の収入はたった年収二四〇万円。そんな中夫隆が倒れ、そのまま契約解除になった。残ったのは莫大な借金だけであった。夫婦ともども破産。自宅は手放す結果となった。子ども竜也は高校卒業後に就職するもブラック企業で体を壊し、和子はコンビニアルバイトで一家を支えるという悲惨な生活になった。家は幸い市営住宅を確保する事が出来た。市営住宅に入居できなければホームレスだったであろう。

 病院のMSWの勧めもあって和子は生活保護申請した。和子は生活保護受給に成功し、夫の医療費をタダにすることに成功する。しかし生保受給の条件は「和子・竜也共に生業扶助を受け、共に正社員への就職を目指す事」であった。

 和子が受けた衝撃はそれだけではなかった。なんとコンビニバイト代は全額没収であった。健康で文化的な最低限度の生活とは何かを本気で考えさせられた瞬間であった。

 和子はそんな中TVCMでスターレット資格の存在を知る。五年間かけて合格した。破産後に知ったことは従業員の為にロイヤリティー等の支払いが無いことである。現在では一家の大黒柱となっている。息子竜也が心身ともに回復したことをきっかけにスターレット受験を決意し、合格した。

 生活保護受給時代よりも短い時間で働くことが出来、しかも医療費を払っているのにペット霊園兼宿坊管理人時代の収入の方がよかった。「健康で文化的な最低限度の生活」を本当に守ってくれたのはペット霊園兼宿坊管理人職であった。

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