第十一話

 加藤神父が事例に挙げた四人目は工藤徹67歳。栃木県在住。魚屋を経営する自営業であった。九〇年代から巨大SCエオンが郊外で次々開店し魚屋の経営が悪化。工藤は二〇〇〇年代前半に店を閉めることとなる。さらに駅前のGMSムトーナノカドー閉店をきっかけに自分の店を含め街全体がシャッター商店街となった。悲劇はこれだけではなかった。妻がガンを発症。帰らぬ人となった。工藤は魚屋を廃業後警備員として生計を立てているが国民年金に加入する期間が長かったためなんと年金収入額が月額約7万と言う結果となった。とても年金だけでは暮らせずまた年齢も高齢でいつまで肉体的にもかなり負担な警備員を続けられるか不安であった。そしてAI社会が到来し、工藤徹が行っていた警備業務も警備ロボットに置きかえられることとなり無職となった。65歳を超えており年齢が理由でアルバイトも含め採用に至らなかった。自営業という職歴をマイナス評価する面接官も多く居た。「君、会社勤めに向いてないよ」の言葉に衝撃を受ける。失業保険が切れ、住居兼元店舗を売ろうにも買い手がつかなかった。工藤に固定資産税が重くのしかかった。

 最終手段として生活保護に申請も六〇代なら高齢者パートの職がうなるほどあるし、子どもに頼るべきとして却下された。息子に頼ろうとするも東京の大学を出た息子もブラック企業を転々とし、とうとう栃木にある親元に戻ってきた。途方に暮れる中、どうにか週三日のエオン食品売り場でのバイトを見つけた。工藤はかつての商売敵の店舗にアルバイトで勤務という屈辱を味わった。しかもバイトの収入を入れても月収は一三万と大変厳しいものであった。固定資産税を抜くと手取りは十一万ほどである。息子のバイト代を入れて月収二〇万ほどになりどうにか生活できている。とはいえ工藤徹が大病などをしたら破滅が目に見えていた。一応工藤徹は民間医療保険には入っている。が「誰でも入れる」とは言っているこの手の医療保険は「誰でも補償金が受け取れる」わけではないのは周知のとおりである。

 そこで工藤はスターレット資格にチャレンジ。工藤は三年がかりでスターレット資格を取得した。今では一日六時間勤務なので肉体的負担もあまりなく、また社会保険もフル加入なので七五歳の誕生日前日まで安心して働ける人生を歩めるようになった。さらに厚生年金にも加入しているので、年金受給額が毎月徐々に増えた。こうして高齢期の生活保護転落の恐怖は消えた。

洗礼希望は無い。「私は仏教を信じていますから。それでもキリスト教には感謝でいっぱいです」との事。息子も親の姿を見てスターレット資格を取得した。息子も洗礼の意思はない。なお、住居兼元店舗の実家はお盆や年末年始の時だけ使用しているとの事である。

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