第十話

 加藤神父が事例に挙げた三人目は伊藤拓哉。一六歳。神奈川県在住。誰もが知るであろうある大手電機メーカーに勤務する父親が「追い出し部屋」に送り込まれ退職を余儀なくされる。その後も父親は正社員としての仕事が決まらずそのままニートとなった。母はフルタイムパート職として一家の大黒柱となった。

 スターレット資格試験は中卒以上が受験資格の要件であるが、実際聖書100点はともかく世界史二百点はセンター試験世界史Bで百点中八〇点~九〇点を取らないと合格できない水準に設定されているため容易に中卒や高卒では受からないようになっている。しかし、伊藤拓哉は大学受験勉強の一環として世界史を徹底的に勉強。見事に合格。一六歳にしてスターレット資格を手にする。伊藤拓哉が資格を取得の時、父親はちょうど失業保険が切れ無収入となっていた。

 ペット霊園管理人兼宿坊施設管理人が産休及び育休に入ったのをきっかけに土日のみの産休代替臨時職員及び育休代替臨時職員、つまりバイトとして伊藤拓哉はペット霊園管理人兼宿坊施設管理人職になる。ペット霊園管理人兼宿坊施設管理人は基本アルバイトでの募集は無い為極めてラッキーな部類に入る。ペット霊園管理人兼宿坊施設管理人になったことをきっかけに部活は文化部に転部した。幸い伊藤拓哉が通う県立高校は家計の事情悪化に限り校長に申請さえすればアルバイトを認めている。彼が通う県立高校の校長は事実上の聖職者であるペット霊園兼管理者職のバイトを認めた。なぜなら伊藤拓哉の将来の希望はプロテスタント系大学である同じ神奈川県にある八景学院大学神学部神学科進学希望(しかもスカラーシップ生枠での合格を希望)であり仕事内容と進学希望先の世界がマッチしていたからだ。伊藤は資格取得をきっかけに八景学院大と同じ宗派であるいわゆる北部バプテスト派の教会に通い、水曜の夜間礼拝に参加している。北部バプテスト派の教会での洗礼を希望している。両親は洗礼を受けていないが子供の洗礼は了承している。

 つまり伊藤拓哉はバイトも受験勉強も部活も信仰生活もすべて両立させたのである。

 高校生なのに事実上の聖職者となったことに対し周りの高校生の反応は様々だが、幸いにもいじめは受けていない。ただし、元から友達は少なく友人もあまりおらずもっぱらスマホゲームと深夜アニメがお友達という典型的な「コミュ障」である。

 加藤神父らをはじめとするカトリック側の最大の懸念は例えバイトであっても高校生がペット霊園管理人兼宿坊施設管理人になったことをきっかけに学校内でいじめを受けるリスクを考え「一八歳高卒以上」にスターレット検定受験資格要件を引き上げようとしたところ主にプロテスタント系牧師から反対をくらい、実現には至らなかった。「高校生は学業に専念するべきだし奨学金を頼るべき」との理由も却下された。「求人応募すべきはリストラされた父であって子供である高校生じゃない。もっと十代なら親に甘えていい」という声も却下された。なぜなら生活苦にあえぐ高校生も多かったからだ。このためスターレット検定受験資格は「満十五歳以上かつ中卒以上」のままである。

 プロテスタント系牧師は「ペット霊園管理人兼宿坊施設管理人を増大させる理由は『コミュ障』でも生きていける社会を目指すはずだ。なのに生きずらさを感じる高校生を除外するのはおかしい」という論も強かった。また高校生のうちに大学受験用世界史と並行して勉強するのは受験者にとってもメリットが大きいというもっともな理由もあったし、スターレット資格は就職が無い時の保険として高校三年次の就職活動にも使えるという理由も大きかった。プロテスタント系の信者は聖書研究会(勉強会)の成果としてスターレット資格の「聖書百点」のうち自分がどれだけ取れてるかを知りたいという需要も大きかった。

 加藤神父は個人的な意見として「高校生が労働するのは好ましくない。青春と言うのは二度と戻って来ない。十代にしか出来ない事をするべきだ」と述べている。

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