第九話

 加藤神父が事例に挙げた二人目は山田里香四二歳。東京都在住。それなりに入学難易度が難しい仏協大学を二〇〇〇年に卒業。就職超氷河期だがどうにか就職。就職直後から徹底して婚姻活動を行いめでたく二〇〇二年に結婚。だが結婚相手が失職し暴力を振るいはじめ二〇〇五年に離婚。子どもは出来なかった。親元に身を寄せる事となった。

ここからが地獄であった。ブランクを突っ込まれ正社員の職がありつけなかった。派遣もPCスキルが壁となって採用に至らなかった。結局彼女が職にありつけたのは病院の調理場補助であった。時給八百円である。一日平均十時間労働(残業平均二時間)である。フルタイムパートであるため社会保険はフル加入である。月収は手取りで約一八万である。彼女はその後一念発起して調理師の国家資格を取得も時給額が二〇円上がったのみであった。手取り額が一九万になっただけである。その後最低時給の引き上げに伴って時給額が増加し、手取りは二〇万になった。

 朝は五時から勤務と言う過酷な職場であった。出会いもなく三九歳まで経ってしまった。 

 やはり努力が報われない人生に嫌気がさしたのか課金制ゲームにのめり込むこととなった。そんな時ペット霊園管理人兼宿坊の存在を知り、山田里香は「スターレット」資格を取得。晴れて正社員となった。一日六時間月収手取り二〇万の正社員となった。勤務時間が大幅に減ったことから心理的にも余裕が生まれた。それでいて収入は全く変わらなかった。

 ところで彼女の住居は東京都である。東京都もなるとさすがに空き家問題に苦しんでいる地域は今のところまだ少ない。とはいえ多摩川を超えるか多摩モノレールの西側はやはり空き家問題が深刻化するエリアとなる。そう、彼女の職場は多摩地区のペット霊園兼宿坊である。

 彼女の一番の希望はもう一回結婚をすることと子供を作る事である。もちろん、結婚してもペット霊園管理人兼宿坊管理人を離職せずに結婚することが彼女の大前提である。一日六時間勤務なら育児と仕事の両立も可能だからである。

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