第八話

 加藤茂はある日さいたま司教区で七人のペット霊園管理人兼宿坊施設管理人の代表的な勤務例を伝えることとなった。まず一人目。彼の名は佐藤誠47歳。埼玉県在住。小学校からずっといじめられてきた。彼の世代は団塊ジュニア世代という受験戦争世代であった。一念発起して勉強。高校は進学校に進学するもそこは文武両道でまたしてもいじめられる。どうにか高校を卒業し一年浪人して埼玉国際大学に進学するも超就職氷河期で無職。ブラックバイトで心も体も壊した人物である。当時倍率五〇倍超えは当たり前だった公務員試験も筆記を何度も突破するも面接ですべて落ちてそのまま年齢制限に引っかかって正規職員への夢を絶たれた。

 今やゲームだけが心の支えでしばしば家族と対立した。すでに親は八〇歳を超えており、ギリギリセーブである。洗礼は受けていない。スターレット資格は持っている。四五歳時に初めて正社員となった。

 まず宿坊隣の管理寮に入るので家賃はただである。寮費がないのだ。宿坊は火曜と水曜が定休日である。それ以外の日は六時起床、七時~八時に宿坊のチェックアウトを行う。チェックアウトした部屋から清掃を行う。清掃が終了するのは十時。次にペット墓地の清掃を四区画(この墓地は全三百区画ある。一年に二回清掃する)行い、正午に終了する。お昼休憩が終わるとそのまま昼寝タイムとなった。午後、スーパーへ買い物に出かける。夕方六時にチェックインを行いながら七時にチェックイン業務が終了する。チェックインと言っても鍵を渡すことと外国人観光客に英語で注意を言うだけである。中国人の場合は中国語で言う。と言ってもマニュアルに書いてある文章を読むだけでそのマニュアルもカタカナが振られている。まれに樹木の銑鉄を行う日もあるが本当にまれである。

実働はたった六時間である。最終チェックイン時間の七時を過ぎると夕食に入り、ゲームをして夜十時に就寝する。これで手取りの月収は二〇万である。事実上ほとんどの時間誰とも会わないし、誰ともしゃべらない。キャンセル対応などは自宅のPCで行う。とはいえ孤独ではない。ネットで知り合った友人とPCを通じでSNSなどで会話している。

 佐藤誠は休日、親との同居時代では考えられないような生活をしている。自分のお金で買った十年落ちの軽自動車を所有して、ドライブなどにも出かけるのだ。趣味はドライブとなった。

有給は六日消化する。年末年始の六日分を休業日とし、そこに有給を割り当てる。今年最後の有給消化日は自動的に十二月三一日になる。いざと言うときに年末以前に有給を消化した場合、年末年始は営業日となる。このため有給消化率は百パーセントである。慶弔休暇はむしろ義務となる。慶弔が発生した場合はお客を近隣の宿坊に割り当て、慶弔割引千円分を割り当てる。したがってこの日の宿泊費をお客様に請求する額は千五百円となる。ペット霊園は臨時休業としホームページで通知し、入り口にもその旨を掲示する。

 佐藤は人間らしい生活が出来るようになり、親元からも自立が出来ようやく毎日がほっとしている。佐藤の今の夢は同じ境遇にあった女性と結婚することである。結婚願望があるので上級の神父職に就く希望はない。

 試用期間は一年である。ニート期間があるため本当に働ける能力があるのかを見極める期間となる。特にお客様に暴言を吐かないか、寮に閉じこもってネットゲーム中毒などに陥らないか(特に課金制ゲーム中毒に陥らないか)、パチンコなどに生活費を投じて困窮しないかなどをチェックする期間である。佐藤は無事試用期間1年を乗り越えた。

これはあくまで一例であり、彼のような若者はカトリック系、プロテスタント系、仏教系の寺院管理兼宿坊管理者、神道系の神社兼宿坊管理者を合わせると就業人口は百万人を超える。以上が加藤茂の言うもっとも代表的な勤務例と人物例である。

 試用期間一年クリア率は九五パーセントと高い。逆に言うといかに世間が言うニートやフリーター像というものは偏見と誤解に満ちているかを社会的に実証したことになる。

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