第七話

 ペット霊園と宿坊の増大は学校教育をも変えた。まず、キリスト教側は洗礼の有無にかかわらず宿坊兼墓守の職を資格制にし、検定試験を課した。内訳は聖書百点、世界史(キリスト教史)二百点の計三百満点である。合格基準は聖書百点中七〇点以上、世界史(キリスト教史)二百点中一四〇点以上取ったうえで合計二三〇点以上取ることである。「世界史(キリスト教史)」は高校世界史Bに準拠する形となった。資格の名前は「スターレット」とした。駆け出しという意味である。車の名前にも採用されたことから周知された名前なので採用された。

 スターレット検定試験要件は「一五歳中卒以上」とした。そのほかにも公務員欠格事項に準じる欠格事項が存在する。欠格事項に該当するにも関わらず合格して資格を取得した場合は資格そのものを剥奪され満二年間の受験が禁止される。

 ミッション系大学に行った場合は非神学部でも神職課程二〇単位以上を履修する事でキリスト教検定試験「聖書百点」免除と言う形で「スターレット」資格を受験する制度を作った。これは学校教員になる教職課程と全く同じである。「聖書百点」免除者は聖書科目を百点満点取得として計算される。これによりミッション系大学は真の意味でミッション(宣教)を果たすこととなった。なお、通常大学二年修了次に最短で神職課程20単位以上を取得でき、免除証書をもらうことが出来る。

 仏教系は既に仏教系学部でなくとも得度の資格が得られる聖職課程が設けてあるので積極的に仏教系大学は聖職課程、俗に言う「得度課程」を次々開講した。これにより宗教系私学の高等教育が復権した。

 仏教系大学生はそのまま得度課程を修了すると得度資格取得者となるがキリスト教の場合は洗礼を受けないと「スターレット」以上の資格にはたどり着けない。しかし、逆に言うと洗礼を受けた場合はもっと高位の聖職資格をもらえる仕組みになっていた。なお、神道系大学の場合、神道学科以外の者は聖職資格の講習を受けるには宮司の推薦が必要である。

 神職課程二〇単位以上を履修し、大学院修士課程(博士前期課程)を修了し、かつ世界史研究になんらかの形で該当する内容の修士論文を書いて提出した場合は二重に試験が免除され無試験でスターレットの資格を得ることができる。この場合修士論文の梗概提出と学位証明書提出が義務となる。博士論文でももちろんO.K.である。博士論文梗概を提出した場合はもちろん博士号学位証明書提出で無試験取得となる。

 この制度のおかげで文系大学院は就職が不利ではなく、逆に有利となり、大学学部生であってもまじめに勉強する者が劇的に増えた。

 「スターレット」導入によって教会も変化した。聖書百点分の対策講座を開く教会が増えた。文字通りキリスト教版寺子屋である。この動きを見て、仏教も得度資格のペーパーテスト化の移行を検討することとなった。昭和中期まで仏教寺院は文字通り寺子屋としての社会機能を果たしてたが民間の塾・予備校業界に機能を奪われてしまった。しかし宗教科目ならば塾・予備校業界に勝てる。何と言ってもこちらが本物の聖職者であり、プロなのである。こうして信仰心の有無にかかわらずお寺や教会に学びに来るものが多くなった。特に観光化されていないお寺はお盆やお彼岸の時以外ほぼ無人となる有様だったが、こういった状況は改善した。この動きを見て神道も神道資格のペーパーテスト化と資格取得の際絶対に必要だった宮司推薦制度義務の廃止を検討した。神社に神道の知識を学びに来るという当たり前の光景が実現しそうである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る