第六話

 AIの進化は様々な職業を奪っていった。銀行員や信用金庫職員、証券マン、信販審査員、公務員行政職、コールセンターの派遣社員といったものから運転手、工員、警備員、販売職、外食チェーン店の店長、建設作業員に至るまでである。見逃せないのは経理などの一般事務職もAIの進化によってことごとく消えて行った点であろう。しかし、信仰心というものは機械が知ることの出来ない領域である。厳密に言うと実はAIが聖職者の職を奪おうとしたことがあった。しかし、魂の無いものが魂を理解することなど所詮無理なのである。既に二〇一五年ごろロボットのポッパーに「南無阿弥陀仏」をオンステージで読経させた実験があったがロボットの合成音声がむなしく聞こえるだけという結果であった。

 AI社会の到来によって職を失った人が次々寺の住職や神父、牧師、神社の神職に殺到した。当然ペット霊園管理職求人にも職が殺到したのである。AI社会の到来は人間の職を奪ったのではなく、厳密に言うと「人間にしかできない」仕事は必ず残るという意味に他ならなかった。近現代社会は伝統宗教の喪失あるいは新興宗教の跋扈という時代であるがここに来てようやく伝統宗教が復権したのであった。機械化が宗教の復権を担ったのは誠に皮肉な結果であった。

 中にはロボットに魂を込めさせるという狂気な実験が見られた。しかしそれは中世期のユダヤ教徒が泥人形にお札を貼ったゴーレムと本質が一緒だった。要は主人の命令のみ実行する人形でしかなく、魂などないのであった。これらの実験はことごとく失敗に終わった。

 こうしてAI社会の到来は伝統宗教の復権と言う社会を築いたのである。

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