5-6
京都から帰って、2日後、私は宇都宮の駅に降り立っていた。コウが迎えに来てくれていて、コウの実家に向かった。小さな山の手前に瓦屋根の大きな家が、そして、少し離れたところにハウスが並んでいて、その横には倉庫みたいなのが二つ建っていた。
直ぐに、家の中に、そして、お父さんとお母さんに紹介してくれた。お父さんは腰が悪いんでと椅子に座ったきりなんだけども。お母さんが
「まぁ まぁ ようきたのぅー あがってけっ 麦茶でも のー」と、迎えてくれた。
「舟留美海です よろしくお願いします」と、頭を下げてご挨拶を。
「へぇっ 可愛いいんじゃのぉー こんな子じゃぁー ウチにはもったいなかっぺっ」と、お父さんが
「あぁ 素直でいい子だよ」と、コウも言ってくれていた。その後、2階の私のだという部屋に案内してくれて、畳にカーペットが敷かれて、ベッドが置いてあった。
「兄貴が使ってた部屋だ この秋に、結婚するんで、今は、家を出て隣の新居に住んでいるよ 僕の部屋は押し入れを挟んで隣なんだ」
「そうなの あの一番奥は?」
「あぁ 空いている 要らない物とかが置いてあるんだ」
「そう じゃぁ 2階はコウと二人っきり?」
「そうなるなー ダメかい?」
「うぅん ちょっとネ」
「ちょっと なんだい?」
「あのねー 誤解されないかと・・」
「まぁ そういうこともあるかなー でも、別に構わないよ」
「あのさー コウはそうでも・・ 私 ふしだら・・なって」
「ふふっ 僕は2階で寝るなって言われてる 安心したかい?」
「もうー 意地悪なんだからー」だけど、私達、軽く唇を合わせていた。
その後、着替えて、ピューレを作っているという作業場に、そこではお兄さんとその婚約者という女の人を紹介された。
「ミミはここでピューレの製造をネ 兄貴はハウスのほうに行くから」
「ほお ほお コウ すんごく可愛い娘 見っけたな 眼がクリッとしてぇー おめえの彼女なんだっぺ?」
「あぁ 彼女 いじめるなよー 莉子ちゃんもな よろしくな」
莉子ちゃんというのはお兄さんの婚約者なのだ。ぽっちゃり気味で明るそうな人だった。
「ミミちゃんっていうのよね 幼く見えるよね よろしくネ この仕事 簡単だってぇー、直ぐに慣れよるからぁー」
「よろしくお願いします 私 どんくさいから 出来なかったら、叱ってくださいネ」私、高校の時の体操ジャージにマスクもしていたから、余計に幼く見えたのかも知れなかった。
「ふふっ 大丈夫よ 私もどんくさーって いつも この人に叱られてるからっ」と笑って応えてくれた。
その後、早速、作業に・・・苺のヘタを取って、洗浄、撹拌機に入れて、低温でボイルして、チューブに詰めて、冷凍するといった簡単なものだった。そして、出荷の際にラベルを貼って出すらしい。だけど、二人だけでするから、割と忙しくて、次の作業へと手際よくやらなければならないのだ。
しばらくは、コウも手伝っていたけど、配達に行くといって出て行ってしまったので、莉子さんと夕方まで、びっしりと働いていたのだ。
その日の夜、私の歓迎ということで、叔父さん夫婦、お兄さん、そして莉子さんも集まっていてくれた。広い座敷の食卓には、すし桶が二つと霧降高原の牛肉だという冷しゃぶ、大きな鮎の甘露煮とナスとか唐辛子の炒めたものとかが並べられていた。
お父さんの音頭で歓迎の乾杯を済ませた後、私は麦茶だったので、莉子さんが
「ミミちゃん お酒だめなのー?」
「えぇ 私・・・」
「莉子ちゃん ミミはまだ未成年だよ」と、コウが冷しゃぶにドレッシングをかけながら言ってくれた。
「あっ そうかー 私等なんて 男女別々の高校なんだけど、中学の時の仲間が集まってぇーガチャガチャやってたけどなー」
「あのなー もう時代が違うし この辺のもんみたいにガサツじゃぁないんだよー」
「あらーら ミミちゃん コウちゃんはね こんなだから 昔からね この辺りじゃぁ可愛い娘と付き合うんだけど、直ぐに振られとったんよ 強引で我儘だからね 女の子の気持ちなんて考えとらんのよー 本当は優しいんだけどネ」
「莉子ちゃん しゃべりすぎだっぺ おとなしく食べてろやー」
「あはぁー 照れてるんけっ ミミちゃん お茶の水だって? すごいヨ 高校は?」
「はい 一女です」
「やっぱー そうけぇー 才女コースだんべー」
「もう いいっぺっヨ 莉子ちゃん 詮索するなよー 仲良くすんのは良いけどなー」と、コウは私に気を使ってくれているようだった。
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