1-4

 夏休みが近づいた頃、岬から


「ねぇ 手紙の返事来ないのー?」


「ゥン なんにもー」


「そうかーぁ 無視してんのかなー でも、添乗で忙しいのかもしれないよ ねぇ 夏休み 皆で海に行こうよー」


「えぇー 海水浴?」


「だよ 海の近くに泊まってサー」


「お泊りかー 4人で?」


「そう だから、あそこの旅行社にいって予約するの それで、一倉さんのこと聞いてみようよ なっ 私も行くし」


「どうしょっかなー でも、わざわざ押しかけたんじゃぁないもんネ」


 そして、夏休みになって直ぐに岬とふたりで訪れた。房総の勝浦にするつもりでホテルを探してもらった。予約がすべて取れたとき、対応してくれた女の人に岬が


「すみません 一倉さんって居られます?」


「一倉? ・・・えーと」と、考えている素振りだったけど、奥の女の人が


「もしかして 添乗してる人?」と、聞き返してきた。


「ええ 男性の・・私等、就学旅行でお世話になったから・・特別に・・お礼言いたくてー」


「あぁ あぁー 団体のー 団体の事務所はここじゃぁなくて別のとこなの だから、そこの人だわ 私達、あんまり、そっちとは・・知らなくてー でも、多分、今居ないわよ 添乗に出てると思うわ」


 ふたりして、店舗を出て、少しガックリきていた。私達は意を決して出掛けてきたのだけど


「まぁ 仕方ないよ ところで、一倉さんの年 幾つなんか知ってる? あのさー 志賀先生に聞いたんだけど、旅行の後に先生方の反省会があってね。一倉さんもお酒飲んでたっていうから二十歳は超えてるんだよー」


「そう 若く見えるネ あのさー 私 手紙 今の営業所の住所書いちゃったーの」


「えぇー じゃぁさ 手元に届いてないのー」


「だけどさー 同じ会社じゃぁない 届けてくれるよね?」


「どうだろー 最初の女の人って 冷たくなかった? まして、女の子からの手紙なんだから、いじわるしてたりしてー」


「そんなことしないわよー でも、一倉さんが無視してんのかもー 別に、私になんて、特別な感情持たないよね あの時だけ、親切にしてくれただけなんかも・・」


「そんなことないよ! ミミは可愛いよ お人形さんみたいだものー 抱きしめたくなるよ」


「ふふっ ありがとうね 岬」


 そうは言ってくれたけど、岬のほうがスーとしてスタイルは良いし、眼も大きくはないけど切れ長で鼻筋も通っていて美人なんだ。だから、時々、他の学校の男子からも付き合ってほしいと告白されることもあるみたいなのだ。


 その日から、一倉さんのことを時々は想い返すことはあるけど、徐々に頭から離れて行く。だけど、寂しくなった夜なんかは手帳をひろげて、あのクローバーを見つめているのだった。

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