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 集合地点の南禅寺に着いた時には、決まりの時間より20分ほど遅れていた。ほかの皆はもう拝観しているみたいだった。もうひとりの添乗員の人が怖い顔をして待っていた。おそらく、一倉さんより上の人なのだろう、しきりに、一倉さんが頭を下げていた。


「すみません 僕が 時間を読み違えてしまって・・乗り遅れました」


 違ったのだ。一倉さんは、私の為に湿布薬を探していて、その為に一つ電車に遅れて、その前に私達が琵琶湖を近くで見たいなんて言わなければ・・だけど、一倉さんは、ちっとも私達のせいにしないで自分が悪いと謝ってくれている。この時、キュンと私のハートに矢が刺さるのを感じていた。でも、それよりも前かもしれない。電車の中で湿布薬を私の足首に優しく撫でるように貼ってくれた時、一倉さんの首筋に汗が流れていて、走っていって探してくれたんだと、私のために・・と、思った時かも知れない。


 看護師さんに私の足を見てもらったら、ひどくはないけど言いながらも湿布を貼りなおしてくれていた。だけど、若い女の人で少しきれいな人。一倉さんと親しげに話していたのが少し、私は気になっていた。


 その夜は、将軍塚に夜景を見に行くといったスケージュールで、バスに乗り込んで、到着したとき降りる際、一倉さんが居てくれて顔をあわせたら


「どう 痛くないの?」


「ウン すこし、マシになりました ご迷惑してゴメンネ」と、私は可愛く言ったつもりだった。その時、声を掛けてくれて、笑顔になってくれたのも嬉しかったのだ。そして、看護師さんに、私に寄り添うようにって声を掛けてくれた。


「どう? まだ、痛みある?」


「うん 少し 看護師さんって、添乗員さんと仲いいんだね」


「そうねー 仕事だから、色々と連絡は取りあわなければネ」


「特に、一倉さんとは話してても楽しそう」


「あらっ そう?  いい感じの人よね」


「もう・・ もうひとりで歩けます」私は、カチッときて、支えてもらっていた腕を離して、何とか一人で歩いて行った。


 もう、見晴らし台に着く前から、夜空が明るく見えて、神々しく輝いていた。初めて見る光景に感激して、岬が私の手を握ってきてくれていた。そして、グループで記念撮影をした後、帰りのバスに戻る時、一倉さんがあの看護師さんと笑って楽しそうに話をしているのを見た瞬間 私は、完全に嫉妬していたのだ。もう、私は一倉さんのことを好きになっていた。


 そして、部屋に戻った時、紅紗がスマホを見せながら


「えへー 決定的なの撮っちゃったー ツーショット」


 見ると、私が一倉さんの肩に寄っかかって歩いているのン。


「やめてよー はずかしいー」


「ふーん ミミ まんざらでもない顔してるよー グループラインしとくね 記念だから」


「やめてったらー」


「ダメ 将来 ミミに彼氏が出来たら 見せるんだー 証拠写真」


「アカサぁー なんの恨みがあるのー あぁー アカサ ひがんでるンだー」


「そう 私ネ ちょっと 恰好いいカナって思ったの あの人」


「そうなんヨッ 南禅寺で カッコいいよねー あんな風に言うなんて 男感じたよネ」と、岬も乗ってきてしまっていた。


「ねぇ ねぇ ミミは感じた? あんな風に抱き寄せられてしまっちゃってー あんなの 初めてでしょ? 男感じなかったの?」と、紗英も・・


「あのねー 君達 あの人は私の為に・・ だいだいがー あなた達が先に走って行ってしまうからー」


「あっ ミミ 少し 顔が赤くなってきた 思い出してるなー それに、スカートの中も 触られてたもんなー」


「バカ 見てたのー でも、咄嗟だって言ってたよー」


「だけど、この写真 一倉さんの左手はどこにいってんだろうなー ミミの腰のあたりかなぁー まさか、お尻?」


「じょーだんでしょ ミミのどこにも触ってないないわよー 私が一倉さんの肩に寄っかかってただけだよー なに からかってんのよー」


「ふふフー でも、ミミのお尻を撫でた初めての男だ パンティ見せて、誘惑してたし」


「あっ やっぱり見えてしまってたぁ?」


「そうだよ 下から見ていても、バッチリだったよ」


「だからー 偶然だったからー そんな 誘惑なんて言い方無いよー ミミは、まだ清純な乙女なんだからー」  


「ふふふっ ミミが自分のことをミミって言う時って、動揺してるんだものね 中学から見てきてるからわかるんだー だけど あれから、ミミはあの人ばっかり 眼で追っているよ さっきも、夜景よりもあの人ばっかー探してサー さては、恋に落ちたなー 白状しろ!」と、岬が鋭い眼で見つめてきた。


「う うん 少しネ 気になってしまう」と、白状してしまった。顔が熱くなってきて、下を向いていた。


「やったーぁ ミミの初恋 始まるぅー」と、岬は手を叩いたら、皆も・・。


 次の日は、朝、清水寺に行ってから、新幹線に乗ることになっていたのだけど、バスから降りた時も、一倉さんは寄ってきて、足の具合を聞いてきてくれた。大丈夫と答えると笑顔を返してくれていたのだ。私は、又、キュンとなっていたが、そのまま一倉さんとは真面に顔を合わせることも無く、地元の駅に着いて解散となった時


「ねぇ ミミ 告白しちゃいなよ」と、岬がけしかけてきたけど、一倉さんは先生とかに挨拶をして回っていて、そんなことを言える雰囲気じゃぁなかった。それに、いきなり、こんなことを言っても、彼女が居るんかもしれないし、そんな勇気がないわーとグズグスしていると、一倉さんは会社の人と車に乗って去って行ってしまった。

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