第11話


「認めない」


 向けられた敵意を愛しく思う。

 敵意を向けなければ、向けてしまう感情を、必死で隠そうとする彼女を愛おしく思う。


「いいか! 認めてはいないからな! わたしは絶対に! ぜぇったいにまだ貴様のことを認めてはいないからな!」


「はいはい。それで、頼んでいた書物は見繕ってくださいまして?」


「はいは一回だ! それと、頼まれていたものは全部部屋の外に準備してある! 貴様の部屋と王の私室にどちらに運べばいい!」


「わたくしの部屋でおねがいします」


「ふん! そういうことは、最初から言っておけ!」


 城の書庫から取り寄せたケモノの国の歴史書、そしてマナー本をいそいそと運び入れてくれる雌獅子に、姫は感謝を述べ……ようとして怒られて出ていかれてしまう。


「あの可愛い御方は反則ではありませんか?」


「気に入っているようでなによりだ」


 部屋から一冊だけ持ち寄り、王の私室で読書にふける姫の代わりに、久方ぶりと王が紅茶を淹れていく。


「式の日取りを決めたいそうだ」


「我が王にお任せいたしますわ」


「それと」


「わたくしの祖国に送った書状に返事が来ない」


「ああ」


 送り届けた使者は。

 不要な言葉を、姫は紅茶とともに飲み込んだ。


「お砂糖はひとつ? それともふたつ?」


「覚悟は」


「とうの昔に」


「で、あったな」


 ページをめくる。

 古い羊皮紙の香りと、紅茶の香りが姫の鼻孔をくすぐった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る